職務を果たすことが社会貢献に直結する医師は、精神的・体力的にもタフな方も多く、ワーカホリックになりがちな職種でもあります。近年では医師の働き方改革も進みつつありますが、忙しさやストレスからメンタルをやられてしまう方も少なくありません。そこで今回は精神科医の筆者が自分でも実践している「メンタルの保ち方」をご紹介します。
精神科医師である、私の体験談
開業による激務で、メンタルを崩しかけた…
私は以前、病院で勤務医をしていました。皆さんご存知のように大学病院は競争が激しく、医師の多くは「少しでも時間があれば研究をする!」といった風潮がありました。私は出世欲があまり強くなかったこともあり、研究よりも外来を担当したり、病棟を見たりする時間を大切にしていました。病棟を見ている間はゆったりと時間が流れていましたし、大きな病院でしたから、外来も1人の医師が担当する患者数はそこまで多くありません。大学病院に勤めていた頃は、とても平穏に過ごしていました。
その後、病院を辞めて心療内科のクリニックを開業したのですが、開業当初、医師は自分1人のみ。するとすべての患者さんを自分が診なければなりません。朝から晩までずっと外来を担当し続けた結果、大学病院時代とは比較にならないほど忙しく、心身ともに休息を取ることができない日々が続きました。
特に心療内科クリニックの場合、お盆やお正月のような長期休暇の前後はかなり混雑します。長期休暇をとっても、その前後はいつも疲労困憊といった状態。大きな病院であれば他に医師がいますから、もし突然休暇を取得しても他の医師に代わってもらうことができます。しかし自分が開業したクリニックで、医師が自分1人しかいない場合、全てを自分で管理しなければいけない大変さがありました。そんな日々が続き、私は開業後半年ほどでメンタルを崩しかけました。
精神科医が実践している、メンタルケアの方法は?
“働きすぎて、バーンアウトのような状態になってしまう”――私と同様に、多くの医師が直面する問題かもしれません。精神科医としての知見を応用し、幸いなことに、私はメンタルを自分でケアする方法を編み出し、現在は体調を回復することができました。具体的にはこのようなことです。
①「役割」をいったん外して休む時間をつくる
まずは自分が抱えている「役割」を外して休む時間をつくるということです。どんな方でも、医師・父親・母親など、自分の「役割」を自覚していて、その役割に沿って考え、行動を起こしています。そして誰もが、「職場では〇〇医師、プライベートでは〇〇ちゃんのパパ、趣味の活動ではバンドマンの〇〇さん」などといったように、複数の役割を抱えています。医師としての自分・親としての自分・子としての自分など、さまざまな役割を背負っていると、「あれをしなきゃ」「これを考えなきゃ」と常にプレッシャーがつきまとい、休まる時間がありません。
そこで、その「役割」をすべて外して過ごす時間を作ってみましょう。少しの時間でかまいません。
「何者でもない自分」の時間を持つことで、好きなことができる“余裕”と“精神状態”を作ることができます。そしてリフレッシュすることができるのです。
②1人の時間を大切に
家族が近くにいると、どうしても「役割」を外すことが難しくなりますし、視界に入ると「何かしなきゃ」とつい考えてしまいがちです。できればその時間は家族とも離れ、散歩に行ったりカフェに行ったりして、自由になれる場所を確保できると良いと思います。誰とも接する必要のない場所で自分の役割を外し、「自分は今後どうしていこうかな」と考えたり、可能であれば“やってみたかったことに挑戦する時間”があれば、心身ともに休息できるでしょう。
③身体をゆるめる
物理的に身体を「ゆるめる」ことも重要です。たとえば、「休息のため」であっても、ゲームで遊べば脳内にドーパミンが放出され、逆に疲れてしまいます。
実は、休息にはゲームよりも筋トレの方が効果的です。トレーニングで筋肉に力を入れたあとに力を抜くことで血流が循環し、入れ替わります。
大切なのは、緊張ののち、体をしっかり弛緩させることです。運動が苦手な方は、マッサージやお風呂に入るのでもOKです。血流を循環させることで筋肉がゆるみ、そして精神的にも「自分は大丈夫だ」と思えるメンタルが生まれます。
お風呂に入っているときにはあまり嫌なことを考えないですよね? 血流の循環は心身ともに良い影響をもたらすのです。
まとめ
誰しも、周囲の人たちの影響を受け、少なからず無理をしながら生活していることと思います。ときには、自分の「役割」から離れてリラックスする時間を持つことが大切です。少しでも違和感を覚えたら、早めに休んだり自分が心地良いもので対処していくようにしましょう。