個人経営の開業医は、長時間の診療だけでなく雑務にも追われるため、自らを過酷な労働環境下におきがちなものです。知らず知らずのうちに体を壊してしまい、気がついたときにはメンタルに不調をきたしていたなど、特に指摘してくれる上司や同僚が存在しない開業クリニックは心身のケアに注意が必要です。まずは医師自身が健康でなければ、地域の医療を担うことなどできません。
過労死ラインを越える開業医の激務
神奈川県保健医協会が2019年1月に発表した「開業医の働き方」の調査結果は、開業医の過酷な労働実態を浮き彫りにしています。
同協会は2018年10月15日~31日の期間で、開業医(院長)3,364名と開業歯科医師(院長)2,390名の合計5,754名を対象にして「働き方」に対する郵送アンケートを実施しました。
調査結果によると、休日の日数が「0日:1.9%」「0.5日:3.6%」「1日:29.3%」「1.5日:14.3%」「2日:27.7%」で、週休1日以下が3割以上を占めていることがわかりました。
また、週の労働時間を見ると、60時間超が25.2%を占めています。過労死ラインは週60時間に設定されているため、開業医の4人に1人が過労死のリスクを抱えている状態にあることを示しています。
労働時間に対する意識は、「やや過重:36.5%」「かなり過重:15.4%」と、過半数が過重であると感じている状況です。精神的ストレスは「やや強い:34.9%」「かなり強い:15.8%」と、こちらも過半数が強いストレスを感じていることが判明しています。
いざというときに休めるように「保険医休業保障共済保険」に加入
開業医は勤務医と違って、勤務体制を整えてくれる部署や上司が存在しないため、自分自身で制度について考え、適切な働き方を構築することが求められます。
例えば、保険医休業保障共済保険に加入するという方法があります。全国保険医団体連合会に加盟する保険医協会、保険医会の会員の傷害または疾病による休業時の生活安定に寄与することを目的として、(非営利型)一般社団法人 全国保険医休業保障共済会が実施する会員のための共済制度です。
保険加入の条件は次の5項目が定められています。
①加入年齢が60歳未満であること
②保険医協会・保険医会の会員であること(京都府保険医協会の会員は除きます)
③保険医であること
④1つの主たる医療機関等で週4日以上かつ週16時間以上業務に従事していること
⑤告知日現在、健康であること
保険に加入することで次のようなメリットがあります。傷病休業給付金の給付期間は通算500日。それを超えて連続して休業した場合は長期療養給付金が最長230日の範囲で給付されます。傷病による休業に対する給付のほか、死亡・高度障害時や脱退時の給付金等全部で6種類の給付金があります。一定の条件のもとで、第三者の医師の治療を受けていれば、自宅療養でも給付対象となります。また代診をおいても給付されます。
家族のためにも頑張り過ぎない勤務体制を!
医師の過酷な勤務状態を受けて、厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」は2019年3月に対策の報告書を公表しました。
それによると、すべての医療機関において労務管理の徹底・労働時間の短縮などを進めていき、2024年4月以降は「年間の時間外労働960時間以下」を目指し、労働時間短縮を進めてもこの上限に収まらない労働が必要な救急医療機関等では、「年間1860時間以下」の特例を目指すことになりました。さらに、研修医や高度技能の獲得を目指す医師を対象に「時間外労働を年間1860時間以下」まで認める特例も用意されることになります。
世の中全体で「働き方改革」が叫ばれる現在、トップクラスに多忙を極める医師も働き方を見直す時代に来ているといってよいでしょう。
患者のために頑張り過ぎて倒れてしまったら、愛する家族は悲しみます。そんなことになってしまってはなんのために働いているか分かりません。ぜひこの機会に、労働時間や休日の日数を振り返り、家族のためにも頑張り過ぎない勤務体制を整えるようにしたいですね。
働けなくなったときのための資産運用
最後に、多忙で倒れて万が一働けなくなったときのことも考えておきましょう。
紹介した保険に加入するなどの対策に加えて、早い段階から資産運用をして不労所得を生み出す流れを整えておくという方法があります。
例えば、マンションやアパートを購入して家賃収入を得る不動産投資は、節税効果があり、管理会社に任せておけば不労所得を得られる可能性があります。もちろん、賃貸ニーズの高いエリアの物件を選ぶ、信頼できる管理会社を選ぶなど、成功するためには事前の準備は不可欠です。
「倒れてから」ではなく、「倒れる前」に働き方を見直し、倒れたときのことも見越して資産運用を進めていくことをおすすめします。
まとめ
人の体を診る医師ゆえに「自分の体のことは自分で分かっている」と過信しがちなものです。でも人間は完全無欠のものではなく、働き過ぎれば倒れることは十分にありうることです。共済保険などを活用し、異変を感じたらすみやかに休診するようにしましょう。自分以外の専門医の診療を受けることも大切です。