日本で働く外国人が増えています。さらに、来年2020年には東京オリンピックが開催されるため、多くの外国人観光客が訪れることが予想されています。これは医療業界にとっても他人事ではなく、外国人の患者への対応などが求められることになるでしょう。言語や習慣の異なる患者とのコミュニケーションやケアについて、今から準備しておきましょう。
オリンピックに向けて増える外国人患者
今、訪日外国人観光客の数が急増しています。2003年は年間521万人でしたが、2013年に1,000万人を超え、2015年は約2,000万人、2018年は過去最高となる3,119万人を記録しました。この状況から政府は2020年の目標値を4,000万人に上方修正したほどです。
日本を訪れる外国人が増えれば、当然ながら外国人患者数もそれに比例して増えていきます。外国人患者対応が国内で最も充実しているといわれている国立国際医療研究センター病院の国際診療部では2015年に年間570人の外国人患者を受け入れたといいます。
厚生労働省は2019年4月に「外国人患者の受入れのための医療機関向けマニュアル」を発表しました。「第1章 外国人患者に関連する制度」、「第2章 外国人患者の円滑な受入れのための体制整備」、「第3章 場面別対応」の3つの章で構成されています。
Web上でどなたでも見ることができるので、医師の方は2020年の東京オリンピックの前に一度目を通すようにしておきたいですね。ここでも少し中身をのぞいてみましょう。例えば、第1章の「3 日本の医療制度の紹介」の項では、海外と日本では医療制度自体が異なる可能性があるため事前に医療保険や診察費、薬剤などについて説明しましょう、ということが書かれています。
私たち日本人にとっては当たり前の医療制度であっても、言葉も文化も制度も異なる外国人にとっては“未知のもの”です。医療後のトラブルやリスクを回避するために、事前に説明することが推奨されています。こうして見てみると、外国人患者を受け入れるということは、医療行為の前後の対応も大きなポイントになることがよく分かります。
外国人患者受け入れのための環境整備
外国人患者を受け入れるためには、病院にどのような環境を整えればよいのでしょうか?
さまざまなポイントがありますが、最も大きなものは「サポート体制」でしょう。私たちが海外で病院に行くことを想像してみるとよく分かりますが、言葉の通じない国で医療行為を受けたり、出された薬を飲んだりすることは、多少の恐怖心が生まれるものです。
その点、医療通訳スタッフのいる病院は外国人患者も安心することができます。ただ難しいのは、通訳には言葉が話せるだけでなく医療の専門用語が分かることに加えて、訪日外国人観光客が“多国籍化”しているため、英語や中国語だけでなくスペイン語やタイ語など、多くの言語を使ったコミュニケーションが求められるケースがあることです。とはいえ、一度に環境を完全に整えることはできないので、病院の規模に合わせて適切な体制を整えるようにしたいところです。
また、サポート体制を充実させるためには、言語の問題をクリアするだけでは不十分です。日本に住んでいると意識することがあまり多くありませんが、世界にはさまざまな宗教があり、それぞれの宗教には禁忌、タブーが存在します。
例えば、イスラム教の女性は夫以外の男性に肌を見せることがタブーになっているため、男性医師の場合は受診を拒否されるケースがあるそうです。このようなときは女性医師が対応するか、または男性医師が診察しなければならない理由をきちんと説明して納得してもらうか、相手の立場に立ったうえでのサポートが必要になります。
まだ間に合う! 医療英会話教室
訪日外国人観光客は多国籍化していますが、やはり世界で最もポピュラーな言語は「英語」です。「英語が苦手」という医師の方は、2020年の東京オリンピックに向けて準備を始めてみるよい機会かもしれません。
というのも、以前の医療界はドイツ語が共通言語でしたが、最近の医療ジャーナル誌は英語ですし、国際学会も英語でコミュニケーションをとることが一般的になっているからです。医師が最新の情報を得るためには英語が必須になっているのです。
「今から来年に間に合わせるなんて無理……」と諦めてしまうのはまだ早いです。最近の英会話スクールには、医療現場のシチュエーションを想定した英会話を学習できるプログラムがあるところが増えています。独学で学ぶのは難しくても、スクールに通えば実践的に「使える」英会話を学ぶことができます。
まとめ
コンビニエンスストアや飲食店など、街を歩けば多くの外国人が日本で働いていることが分かります。以前のように日本人だけに対応していればよかった時代は終わりつつあり、確実に変化しています。問診表や院内表示の多言語化などの環境づくりや英会話レッスンなど、できるところから始めておきましょう。地域の支援機関との連携なども、準備しておくと心強いですね。