いきなりですが
「40〜50代くらいになったら、開業すれば良い」
と思っている医学生、研修医の方はいませんか?
その予想は、もしかしたら楽観的過ぎるかもしれません。
・開業したら金持ちになれる
・医局内の出世にある程度限界が見えたら、開業だ
こんな医師のキャリアのイメージが、僕にはありました。
しかしながら実際、近年の日本の医療を取り巻く環境は大きく変わってきています。
特に、医療費削減の流れは強烈です。
開業医の収入である医療費は削減される
保険診療で開業をするならば、開業医の収入は言わずもがな医療費です。
国の歳出の一部である医療費が、保険診療に対する対価として、開業医に支払われます。
この時、患者さんからもらうのは1割ないしは3割なので、残りの7〜9割を国からもらう事になります。
医療費は開業医から見れば即ち売り上げですが、その医療費を削減すべく国は躍起になっています。
原因は明らかで、日本が少子高齢社会だからです。
税収が増える可能性が乏しいにもかかわらず、高齢者が増えた結果、医療需要が増え、医療費が増えてしまったからです。
医療費を削減し、人口を増やす方向へお金を投資しなければ、この国は持続可能ではありません。
この医療費削減の波は避けられない、そして不可効力的な現象です。止める事はできません。根底にある問題が人口動態で、人口動態は必ず訪れる未来なので、避けようが無いからです。
つまり、医療費削減は必然であり、それによる開業医の収入減少も必然というわけですね。
実際のところ、以前は
開業=お金持ち
だったのですが、今となってはその法則は成り立ちません。
特にその傾向は、都心部で顕著です。
都心は過剰傾向、開業医の失敗案件が多数あり
実際のところ都心部では、開業医の失敗案件が散見されます。
開業して3ヶ月しか経過していないのに、クリニックの承継に出てくる。
そんな「開業して間も無い承継案件」が、グッと最近は増えてきました。
今のところ地方ではあまりその傾向はありませんが、やはり医師が相対的に多い都心部、特に東京ではこの傾向が如実に現れ始めています。
開業すれば勝ち組、お金持ち。
そんな時代は、少なくとも東京に限って言えば、終わりを迎えたと言っても過言ではありません。
銀行も開業医にお金をあまり貸さなくなってきた
事実、銀行も開業医に対しての目線が、シビアになりつつあるようです。
友人の銀行マン曰く、依然として信用の高い医師ですが、それでも昔ほど銀行からみた時の信用余力は、担保されないようです。
結論、昔ほど開業に対する融資が積極的ではないようです。
もちろん、融資条件は相対的なもので、例えば今の時代金利1%で借り入れができて、20年前は金利4%だったなんて話は、意味がありません。金利は時代によって変わるものですから、同じ時間軸の他融資と比べた際にどれだけ優遇されるか、という軸で判断するべきです。
しかしその目線で見た時も、昔ほど特別待遇はされなくなってきた。これが事実のようです。
銀行からすれば、将来的に儲けられる可能性が少なくなってきているならば、取れるリスクも減ってくるのは、仕方が無い事。
仕方がない事といはいえ…なかなか寂しいですね。
これからの開業医は、自由診療とマーケティングが必須
そうなると、もうこれからの開業医は保険診療の外での収益を出すしか、ありません。
具体的には
自由診療
が第一候補でしょう。
自由診療は、保険が効かないため割高になりがちで、場合によっては治療必要性に切迫感が無い(必ずしも必要ではない)場合があります。見た目をよくする美容系は、その筆頭です。
そうなると、重要なのはマーケティングです。
必ずしも買う必要のない、割高のサービスをどうやったら買ってもらえるのか。
そこを勉強し実装しなければ、開業医としては生き残る事はできないでしょう。
この話を聞いて
「そんなのは医療じゃない、あくまで求められる事だけやるんだ」
とおっしゃる先生も、いらっしゃるでしょう。
おっしゃる事はよく分かりますし、まさにその通りだと思いますが、残念ながら日本はもう「そのステージではない」のだと思います。
そんな事を言っていても、メシが食えなければ話になりません。
従業員を雇い、給料を支払う事ができなければ、意味がありません。
この問題の根本は、人口構造です。誰のせいでもありません。自然現象です。
自然現象によって、医療の道徳感も危ぶまれつつある。
この状況を受け入れた上で、どのようなキャリアを歩み、医師として人間として生きていくのか、よく考えなければならない時代に突入した、という事なのでしょう。
最後に
開業すれば勝ち組、という時代は終わりました。
と同時に、安易に開業する事が憚れる時代になりました。
今までの価値観で「開業」を考えると、これからの日本では痛い目にあってしまうかもしれません。
自分の頭でしっかりと考えて、決断し、人生を開拓していく。
これからの医師には、それが求められていると思います。
▼著者
大石龍之介
株式会社ブルーストレージ代表取締役。医師としてクリニックに勤務しながら、不動産投資家としても活動している。