投資は、元金が保証されているわけではないため、当然損をするリスクがあります。そのため「資産はできる限り安全な現金で保有したい」「銀行に預けて老後や万が一の場合に備えて保険に加入したい」といった資産形成を考えている人は多いのではないでしょうか。1985年ごろのバブル最盛期であれば銀行預金金利は、年率5.5%もありました。
そんな時代であれば現金を銀行に預けておくだけで資産が着実に増えていく状況が実現できたでしょう。しかし銀行預金金利が0.001%(2021年5月時点)の時代においては、預金の利息をあてにするのは得策とはいえません。預金と保険を中心に資産形成を考えるのであればインフレリスクと金利についてもしっかりと押さえておくことが必要です。
本記事では、預金と保険のみで資産形成をすることのリスクと低金利時代にインフレから資産防衛をするために有効な4つの資産について解説します。
インフレとは?
インフレとは、インフレーション(inflation)の略で普段消費している日用品やサービスの値段(物価)が上がることです。逆にいえば物価が上がるため、相対的にお金の価値が下がることを意味します。5%のインフレが起こると20万円で済んでいた生活費が21万円になってしまうため、「生活費が上昇する」ということです。日本では、2011年からの10年間で年平均0.5%の割合でインフレが進行。
国としても2013年1月から年間2%の物価上昇率を目標として金融政策を立案しています。国の目標通り年間2%の割合で物価が上昇した場合、ある年に100円で買えていたものが10年後には約122円になることを意味しているのです。上述したように価格が上昇するということは、逆似考えるとお金の価値が毎年2%ずつ下落していっていることになります。
預金や保険だけでは資産防衛しにくい2つの理由
預金は、株式のように価格変動による損失リスクがありません。一方で保険は、解約時や満期の返戻金が決まっているため、元本割れリスクやリターンの不透明さを抑えることができる一面もあります。しかし預金や保険だけでは資産防衛をしにくいことも事実。預金や保険だけで資産防衛をしにくい理由は、主に以下2つです。
■ 金利の低下に弱い
■ インフレに弱い
金利の低下に弱い
2016年1月から施行されたマイナス金利政策によって日本では超低金利時代が到来しました。金利低下により預金や保険に対して以下2つのようなネガティブな影響がもたらされています。
・ 預金金利が下がる(預金)
・ 予定利率が下がる(保険)
マイナス金利政策の施行で銀行は、個人や企業に対して積極的に貸し出しを行う必要に迫られ貸し出し時の金利とともに預金金利も引き下げられました。結果として銀行の普通預金金利は、2021年5月時点0.001%で推移。これは、例えば100万円を預金しても年間10円(税引き前)しか利息を受け取れません。
保険の予定利率とは、保険会社が保険料を設定する際に用いる指標の一つです。契約者から払い込まれた保険料を運用して得られると見込まれる予想運用利回りのことで、予定利率の上昇は保険料の下落を招き、予定利率の下落は保険料の上昇を招く傾向があります。予定利率は、10年国債の平均利回りをベースとして金融庁が算出する「標準利率」という値によって、各保険会社が決定する仕組みです。
一般的に国の金利が下がると10年国債の平均利回りも下落することから標準利率も下がりやすくなります。低金利の時代には標準利率が下がるため、保険の運用パフォーマンス(予定利率)が下がったり保険料が割高になったりするというネガティブな影響があります。
インフレに弱い
インフレが進行するとお金の価値が相対的に目減りするため、預金や保険を中心とする資産形成はインフレに弱いといえるでしょう。例えば現預金で1,000万円を保有していたり保険の満期返戻金として20~30年後に1,000万円が約束されていたりする場合でもインフレが進行すると1,000万円の価値が毎年目減りしていく可能性があるのです。
現時点での1,000万円と数十年後の1,000万円が等価とは限らないため、預金や保険を中心とする資産形成はインフレを考慮すると不十分といえるでしょう。
インフレから資産防衛するための4つの資産
インフレによるお金の価値の目減りリスクに備えて預金や保険以外にどのような資産を持つのが有効なのでしょうか。インフレから資産防衛をするために有効な資産は、以下の4つです。
■ 株式
■ 不動産
■ 金
■ 外貨建資産
株式
インフレ局面では、物価が上がっていくことから企業の売り上げやキャッシュフローが上昇することで会社の決算に好影響をもたらすことが期待されます。会社の決算が良くなることで株価が上昇するとインフレ局面においても資産の価値を保つことが期待できるでしょう。1970年代から40年以上にわたってインフレ率と株価の関係性を調査したデータにおいて「株式は極端なインフレ期(オイルショック時)を除いて物価以上に上昇するインフレに強い資産」と結論づけられています。
不動産
不動産投資とは、マンションやアパート、テナントビルなどを所有したり賃貸したりすることで売却益(キャピタルゲイン)や賃料収入(インカムゲイン)を狙う投資方法のことです。インフレ局面で不動産を保有するメリットは、以下の2つがあげられます。
・ 物価上昇とともに不動産価格および賃料水準の上昇が期待できる
・ お金の価値の目減りによって借入金の負担も相対的に目減りする
インフレとは、物価が上昇することのため、不動産価格および賃料水準も上昇することが考えられます。不動産価格および賃料水準の上昇によって売却益(キャピタルゲイン)も賃料収入(インカムゲイン)も増加すれば2つのキャッシュポイントから二重の恩恵を受けられることが期待できるということです。
不動産を購入する際は、金融機関からの融資を受けることが多く数千万円以上のローンを組むこともあります。ローンを組むことになったとしてもインフレが進行するとお金の価値が目減りしていくため、ローンの負担も相対的に目減りすることになるのです。
金
金は、銀やプラチナ、パラジウム並ぶ希少性の高い貴金属の一種です。宝飾品や電子機器、食品(金箔)といったさまざまな用途で使われています。もともと金は、金本位制という19世紀にイギリスで始まり米国や日本でも採用された制度下において通貨の価値基準とされていた由緒ある資産の一つです。
100年以上にわたり金の価格は、米ドルおよび日本円に対しても当該国家の物価指数と相関性が高くなっています。インフレとともに価値が上がってきた実績があるため、長期的にインフレに強い資産といえるでしょう。
外貨建資産
外貨建資産とは、海外の株式や外貨預金、不動産などを現地通貨で保有する形の資産を指します。例えば「米国株を米ドルで保有する」「タイの不動産をタイバーツで保有する」といった具合です。インフレが進行すると当該国家の通貨価値が下落し外貨に対して相対的に価値が低くなります。つまり外貨建資産を保有することで円安になった場合にインフレから資産価値を守れるということです。
例えば1米ドル100円のタイミングで100万円分の米ドル(1万米ドル)を購入した後に日本でインフレが進行したとしましょう。その後1米ドル110円まで円安になった場合でも保有している1万米ドルを110万円に両替できるため、日本でのインフレの影響を軽減することが期待できます。国によっては、日本よりもインフレが著しく進行しており通貨価値が下落し続けている国も少なくありません。
そのため外貨建資産を保有する際には、当該国家のインフレ率や対円での為替レートの推移を慎重に確認しておくことが大切です。
お金自体の価値が減ることも想定して資産形成を
預金や保険は、価格変動リスクがなかったり将来的なリターンが決まっていたりするため、リスクが低いように感じるかもしれません。しかし「インフレによるお金の価値の目減り」という要素を見過ごさないように注意しましょう。インフレから資産防衛するためには、物価上昇の上昇とともに資産価値を維持できる資産の選定が重要となります。
日本円の価値の下落に耐えられる資産などへ分散して保有することで安全でバランスの取れた資産形成をするのが得策です。