全室満室、利回り10%、理想的な投資用一棟マンションを購入しました。引き渡し後初の月末、待ちに待った家賃の着金確認。ん? 何部屋か家賃が入っていない……。契約時には何も説明がありませんでしたが、後日管理会社に聞いてみると、慢性的に滞納が続いていた事実が発覚。問題の入居者たちは家賃保証会社にも加入していなかったので、家賃を回収できないことが判明しました。
これでは投資用マンションを購入した目的が果たされません。売主側の不動産仲介業者に対して「告知義務違反」を訴えることもできますが、それが買い取り・転売物件であると、不動産仲介業者も「知らなかった」で逃げ切ろうとします。契約前の収支状況の調査方法、引き渡し後に家賃滞納が始まった場合の入居者への対応など、それぞれの場面で心がけるべきことを、実際にあった事例も交えながら説明します。
目次
安定収入が魅力の「一棟マンション」を購入したものの…
千葉・埼玉・神奈川エリアの首都圏郊外や北関東エリアであれば、一棟5000万円前後で購入できる物件があります。これらの物件は「初期投資が安く抑えられるのでリスクが低い」と、初心者の方々にも人気です。
一棟マンション投資の魅力は、部屋数が多いことによる「長期的な安定収入」にあります。区分マンションであれば、1戸が退去すれば翌月から家賃収入はゼロになりますが、一棟マンションは1戸空室になっても、ほかの部屋からの家賃が継続して入ってきます。
ある程度まとまった資金があるなら、一棟物件に投資したいもの。絶え間ない収入は大きな魅力です。しかし、複数の部屋(=入居者)の面倒を並行して見なければいけないという管理の苦労もあります。
入居者の暮らし方は十人十色。住環境に望む欲求もさまざま。オーナーにとって、入居者はいわば「お客様」。クレームが入れば迅速に対応しなければならず、部屋が複数あればその分、設備修繕等にかかる費用もかさみます。
すべての入居者が日々平穏に暮らしてくれればよいのですが、騒音問題やゴミの分別といった共同生活上のルール違反が原因で、入居者同士のトラブルが起きることもあります。建物管理を一括して請け負う不動産管理会社に委託する方法もあるものの、総戸数20戸未満の小規模マンションでは、オーナーが自主管理するところも少なくありません。
自主管理では、エントランスや廊下の清掃、集積ゴミの処理など、共用部の管理はオーナーの仕事になります。建物内に入居者へ注意喚起をする貼り紙だらけの物件もときどき見かけます。こんなところからも、自主管理物件を所有するオーナーの苦労がうかがえます。
慢性化する家賃滞納に、疲弊するオーナー
自主管理となると当然、毎月の家賃集金もオーナー自らが行うことになります。賃貸借契約では、翌月の家賃を前月末日までにオーナーの指定口座へ振り込むというのが一般的です。したがって毎月末日、または翌月1日に家賃が着金しているか確認するのもオーナーの仕事です。
たとえば入居者が家賃保証会社に加入していなかったら、こんなことだって起こります。
1戸だけ着金がない部屋がありました。そういえばこの部屋の住人、先月も、先々月も送金が遅れ気味でした。電話をしても留守電だし、督促状を郵送しても開封しているかどうかわかりません。
結局、5日遅れで送金されましたが、これが毎月続くと思うと、とても憂鬱です。このストレスが本業のほうにも影響しそうな気がします。ルーズな人間は同じ過ちを何度も繰り返すもの。
なんとか連絡を取って改善を促したいのですが、この住人の生活スタイルがわからず、部屋を訪ねてもいつも不在。成す術がありません。「5日遅れぐらいで細かいことを言うな!」という考えなのでしょう。まったく誠意が感じられません。そんな相手の横柄な態度を妄想すると、またストレスが倍増……。どうすれば?
連帯保証人もあてにならなければ、合法的に「強制退去」させる
最高裁では、家賃滞納が3ヵ月続いたら賃借人を強制退去させることができるという判決が出ています。つまり滞納状態が続くようなら、弁護士等に依頼して裁判の手続きを取れば、合法的に強制退去させることができます。
ここのキーポイントは、家賃滞納が3ヵ月以上「連続」しているという点です。
たとえば、2ヵ月に1度入金してきたり、2ヵ月目に半額だけ入金してきたりすると、裁判官は「賃借人に支払いの意思がある」と判断するので、情状酌量の余地ありとなり、いつまでたっても強制退去には至りません。
実際、2ヵ月に1度、60円から100円程度の入金を続ける初老の入居者がおり、弁護士にお願いしても、3ヵ月間滞納が続くことがなかったので強制退去に持ち込めなかった、というケースもありました。
勤労収入も年金受給もないということで、行政への生活保護申請を勧めました。生活保護申請が受理されれば、役所から家賃の代位弁済が受けられるのですが、本人は「プライドが許さない」と受け入れません。しかしある日突然、「居心地が悪くなった」と言って、自らの意思で退去していきました。約1年半の攻防戦に突然幕が下りました。
入居者本人が家賃を支払わない場合は、連帯保証人に連絡して賃借人の代わりに支払ってくれるようお願いする方法もあります。連帯保証人がいない場合は、家賃保証会社と契約を結べば、滞納時の督促と併せて当月中に家賃の代位弁済がなされ、また基本契約とは別途オプションですが、毎月家賃集金の代行もしてくれます。
さまざまな手を施しても慢性的に滞納が続き、その結果、法的に強制退去させたとします。賃貸借契約解消後に滞納分家賃の回収をしたい場合は、滞納額の合計が60万円以下であれば、簡易裁判所で少額訴訟による審理と判決を求めることができます。裁判を起こすには、原告(元入居者)の氏名・居住地情報が必須なので、転居先もしっかり確認しておきましょう。
投資用不動産を購入したが…引き渡し後に「家賃滞納」が発覚
レアケースですが、投資用物件を購入した買主が、建物の引き渡し後に、賃借人の家賃滞納が以前から続いていた事実を知ることがあります。投資用物件の買い取り・転売専門の不動産業者との売買取り引きでときおり起きているようです。
実質的な売主から不動産業者に売られた(=買い取り)段階で物件の状況が十分に把握できておらず、次の売買(=転売)ではその不動産業者が売主となるので、建物の状態はもちろん、入居者の滞納状況も伝達されない(=わからない)という問題が発生するのです。
しかし、これは「告知義務違反」となる可能性もあるので、このようなトラブルに見舞われた場合は、まず各都道府県に設置されている不動産相談窓口(東京都内案件の窓口)へ問い合わせてみましょう。
賃貸中の投資不動産(オーナーチェンジ物件)を購入する際は、契約に臨む前に売主対して、どのくらいの家賃で入居者がついているかわかる「レントロール(賃貸条件一覧表)」を請求することをおすすめします。一棟マンションであれば、各部屋の家賃のほか、入居者の年齢や勤務先などの属性、個人契約か法人契約かなども記載されています。
契約、または引き渡しの前までに、売主から多くの情報を得る努力が必要です。相手から与えられる資料だけで妥協し、なにもかも人任せでは、健全な不動産投資は実現できません。
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