いよいよ来年、「2020年東京オリンピック」が開催されます。日本全体が活気に溢れていますが、なかには「日本経済もこれがピーク。あとは衰退待ったなし……」と憂う声も。確かに、2004年アテネオリンピック以降、莫大な財政赤字が発覚し始まった「ギリシャ危機」も記憶に新しく、日本も同じ岐路をたどるのでは、と心配になってしまいます。一方、2012年に開催されたロンドンオリンピックでは、その前後の不動産価格に変動はなく「(不動産)市場に影響はなかった」といわれています。はたして日本の不動産市場は「明」と「暗」どちらに転じるのか、気になるところです。
目次
「おもてなし」から始まり、オリンピック特需に沸く日本経済
小泉進次郎氏との結婚で一躍“時の人”となった滝川クリステル氏が、「O・MO・TE・NA・SHI(おもてなし)」のプレゼンテーションをしたのが、6年前の2013年。功を奏し、2020年の東京オリンピック開催が決定しました。
遠くバブル経済崩壊以降から、さらにはリーマンショックの打撃も受け、長期的に低迷気味であった日本経済は、このインバウンド効果により徐々に潤い始めました。日本国内には、諸外国から観光客が怒涛のように押し寄せ、これを機に、浅草の裏路地の店主も英会話を嗜むなど、猫も杓子も必死で「おもてなしする」体制を整えています。
なにより変化しているのは、鉄道交通網。地下鉄の掲示板や車内アナウンスも英語・中国語・韓国語とインターナショナルに変化し、「国際都市 JAPAN」たる体を少しずつ成してきています。そして、外国人観光客のスムーズなトラフィック・アクセスをサポートするべく、各地で新駅も建設されています。
2020年に向け「都心新駅」が続々誕生。その経済効果はいかに
東京オリンピックのシグネチャーともいうべき建造物である「新国立競技場」(渋谷区・新宿区)。初回選定のデザイン案が白紙に戻るという衝撃的な展開から、紆余曲折を経て選ばれたのは、天然素材の未知なる可能性を探求する建築家・隈研吾氏のデザインでした。
隈氏の建築は、主に木材を主体にした意匠が特徴。これまでに手掛けた建築物は、サントリー美術館、根津美術館、浅草文化観光センター、ATAMI海峯楼、長崎県美術館など。そして、日本全国、いや世界をまたにかけ活躍する隈氏が手掛けた最新プロジェクトが「高輪ゲートウェイ」駅です。2020年に暫定開業予定で、山手線では1971年に開業した「西日暮里」駅以降、49年ぶりに開業する30番目の新駅です。こちらもオリンピック特需を象徴すべく、羽田空港を結ぶアクセス拠点としての一翼を担っています。
そしてもうひとつ、オリンピック特需を受けて誕生するのが、東京メトロ日比谷線「虎ノ門ヒルズ」駅。2020年の暫定開業を目指し鋭意建設中です。「虎ノ門ヒルズ」駅は、その名の由来となった、森ビルが開発するオフィス・商業・レジデンスの複合ビル「虎ノ門ヒルズ」と、東京メトロ「虎ノ門」駅とが地下で直結する巨大な地下空間となり、新たな交通の要所となります。加えてその地上部には、オリンピックの各種競技開催会場の1つ「豊洲」エリアへの足となる、バス高速輸送システム(BRT)のターミナルが開業する予定です。
オリンピック「開催決定後」の今、不動産市場はどうなっている?
オリンピック開催決定以降、世界各国の投資家が日本の不動産市場に注目し始めました。すぐに動いたのは、中国を中心とするアジアの富裕層。都心の湾岸エリアや、港区、渋谷区、新宿区の名立たる一等地に建つ築浅タワーマンションを名指しで「爆買い」。所有者の8割が中国人という物件も多数見受けられました。
しかし、思わぬところでオリンピック特需の弊害が発生しています。というのも、管理費未納や、民泊まがいの利用をはじめとしたルール違反が多発、管理規約を急きょ改定するなど、多くのマンション管理組合が「招かれざる客」との共存に頭を悩ませる事態となっているのです。
そして2018年以降、まだ小規模な動きではありますが、中国人所有の不動産は少しずつ売り市場に出てきています。しかも、購入した時より1割から2割弱価格を下げて。管理規約の新ルールが厳しかったのでしょうか? 資金繰りが悪化したのでしょうか? または税金対策でしょうか? 理由は色々考えられますが、中国人所有の不動産は相場よりも安価で、条件交渉も少なく購入できるケースが多いようです。
タワーマンションの「爆買いブーム鎮火」。とはいえ、外国人投資家による一棟商業ビルの売買は未だ活発です。たとえば、都内某区のアーケード商店街に建つ、3階建て・築50年の店舗ビル。査定では1億6000万円程度の価格でした。しかし、買い手が殺到したため、入札方式を取ったところ、香港の事業家が5億円で落札しました。日本企業数社も入札に参加していましたが、札の価格は3億円程度。落札した外国人事業家は、日本国内に貴金属店を数店展開しており、新たな店舗をここで開くといいます。5億円を投じても損はなく、それに見合った売り上げが上がる場所、と見込んだわけです。外国資本が日本の土地を高く評価し、商売においても日本企業より高い利益を上げているということの裏付けです。
インバウンド効果により、全国各地の商業地は潤いを取り戻しました。また観光客だけでなく、日本でビジネスを興したいという外国人事業家の進出も増えています。今、日本を訪れている外国人は、「オリンピック」というキーワードをきっかけに、日本という国に好奇心を抱き、「意外と居心地がよく、アクティビティもたくさんあるじゃない!」と、真の魅力に気づいてくれた人たちなのです。
2020年以降、オリンピックブームは去ってしまいますが、日本の「真の魅力」に気づいた人たちは、日本に留まり、そして母国に向けてその魅力をPRし続けてくれることでしょう。
オリンピック重視は危険!不動産の「買い時」「売り時」を見極める
多くの方がオリンピック開催を軸に不動産売買のタイミングを見計っているようです。もちろん重要なファクターではあるものの、前述のとおり、水面下では外国人投資家が所有する居住用マンションの売却は始まっています。一方、商業地に建つ1棟ビルの売買(外国資本が購入)は活発です。オリンピックをターニングポイントと考えれば簡単かもしれませんが、それは危険なことかもしれません。
つまり、これまで緩やかに推移してきた日本の不動産市場は、オリンピック開催の号令をきっかけとして、株式市場のように、日々報じられるプラス要因・マイナス要因に左右され始めたと考えられます。これからの不動産投資家に必要なことは、その「微動」を感じ取ること。市場をしっかりと見つめる「目」が、求められています。
たとえば今、タピオカドリンク店が増えている街の不動産は高騰しています。タピオカドリンク店の経営者の多くは外国人で、「その街で店を開けるなら、どんなに高くても家賃は払う、潤沢な資本がある」と、そのエリアの家賃相場をどんどん吊り上げていきます。やがて客もこの味に飽きれば、タピオカブームは終わるでしょう。その後にどんな店舗が取って代わるかで、不動産の価値も左右されます。
オリンピックに注目するだけではいけません。業況を変動させる要因は、巷に溢れているのです。
不動産運用セミナーTOPはこちら