このコラムでは、「医師の人生をより豊かに」をモットーに、多忙の極みである医師に、少しでも有益なコンテンツを提供しようと日夜考える勤務医ドットコム編集部が監修しています。
今回は物件選びから初期費用、資金繰りなどを解説します。
開業場所と形態の希望が決まったら、物件探しに入ります。
とはいえ、自分で探すわけではなく、地域の不動産会社や開業コンサルタントなどに依頼し、条件にあった物件を紹介してもらうことになります。
自分で探す場合は、クリニック開業のための専用サイトなどで情報収集を行う方法もあります。
物件が妥当か検討する
いくつかの物件の紹介を受けたら、現地調査や物件データの確認などを通して、開業地として妥当かどうか検討する段階に入ります。
チェックすべき項目はたくさんありますが、押さえておきたいのは次のような点です。
【チェック項目1】エリアの人口、年齢構成
開業地周辺の人口は、来院患者数に直結する要素です。 また10年後や20年後までを予想する上では、人の数に加えてその地域の年齢構成を知っておくことも重要です。具体的には、厚生労働省が発表する受療率(*)などを参考に、1日のおおよその患者数を計算して予測を立てるなど、予め開業地周辺の市場調査を行うことが必要であるといえます。
*ある特定の日に疾病治療のために、すべての医療施設に入院あるいは通院、または往診を受けた患者数と人口10万人との比率のこと</span >
【チェック項目2】エリアの人の動き
同じ駅の近くでも、通勤通学によく使われる道沿いなのか、奥に1本入った通りなのかで来院患者数に差がつくことがあります。地図を確認するだけでなく、実際に現地に足を運んで人の流れを見ることも大切です。
【チェック項目3】交通機関の状況</u >
人々の主な移動手段は徒歩なのか自転車なのか車なのか、最寄り駅は複数の路線に乗り換えられる駅なのか否かといった違いです。たとえば内視鏡検査など専門性の高い医療を中心に行っていきたい場合、一般内科に比べて広い地域から患者さんを集める必要があるため、利便性の高いターミナル駅の近くに開業した方が有利であると考えられます。
【チェック項目4】エリア内の競合となるクリニックの数と実態</u >
既に人口に対して十分な数のクリニックがあるなら、ほかの候補エリアを検討するか、他院と異なるサービスを提供する必要があるでしょう。また地図上にはクリニックの表記があっても、実際には休業していたり、院長が高齢のため診療対応を減らしたりしているなどという場合もあるので、やはり現地で実情を確かめるのが大切です。
また開業地選びの方法として、「一から建てる」「テナントを借りる」以外に後継者のいないクリニックを設備・地域の患者さんごと受け継ぐ「継承」や、閉院後のクリニックを設備ごと借りる(または購入する)「居抜き」という方法もあります。
開業したいエリアにちょうどいい物件があるとは限りませんが、開業コンサルタントまたは地元の不動産会社には情報が集まっている場合もあるので、興味があれば相談してみることをおすすめします。
開業にはどれくらいの資金が必要?
開業の資金は、新しいクリニックでどのような診療を、どのような規模で行っていくかによって変わってきます。
しかし、何も目安がないと計画を考え始めることもできません。内科や心療内科などの診療科の場合は、医療器具もスタッフも最低限で始めることが可能です。
一方、整形や外科などの検査を必要とするような診療科であれば設備投資費が必要ですし、クリニックの広さもそれなりに求められます。
まずは「開業資金は何のために必要なのか?」という根本的な部分に立ち返って明確にして、「自分の場合はいくら必要だ」と“逆算”して考えます。
何が必要か明確にしたら、会計士やコンサルタントと一緒に事業計画を作成しながら、見積もりのどこを削っていくのかなどを検討していきましょう。
ここは開業後の資金繰りやキャッシュフローにも直結しますので、慎重に検討することが大切です。
おおよそかかる初期費用はいくら?
これも事業計画によって変わりますが、まず覚えておきたいのは、初期費用は開業するのに必要なイニシャルコストと、開業後に必要なランニングコストに分かれます。
イニシャルコストとは、物件の契約や内装費、医療器具やその他設備など、開業してクリニックを運営するのに必要な経費のことを指します。
一方、ランニングコストは人件費や広告費、水道光熱費や家賃・借入返済など、開業後にクリニックを経営していくのに必要な毎日のコストのことです。
初期費用としては両方を算出して事業計画を策定する必要があり、それに基づいて金融機関などに融資を交渉していくことになります。これも今後の長い医院経営において非常に重要な計画です。
最も一般的な借入先は、事業資金などの融資を行う政府系の金融機関である日本政策金融公庫です。
民間機関に比べて審査が通りやすく、低金利で借りることができるため、借入が必要な場合は調べてみましょう。
審査には1カ月ほど時間がかかるケースがあるので、早めにチェックしておくことをおすすめします。
他の方法として、自己資金で賄うというケースもあります。
ちなみに日本医業総研のデータによると、「開業資金の自己資金準備額としていくら用意したか?」という質問に対しての回答は、「2,000万円超:26.9%」「2,000万円以下:15.5%」「1,500万円以下:26.9%」「1,000万円以下:26.9%」となっています。
開業から10年は資金繰りが安定しない?
クリニック経営のビジョンや方向性、そして立地や事業計画が決まれば、次に考えるのは資金繰りの工面をどうするかです。
資金繰りとは医院運営をしていく中で発生するお金の実際の流れです。
開業してから少なくとも1~2年は、売上と支出の差し引きはマイナス、つまり赤字になることが多くあります。
徐々に知名度を得ながら新規患者が定着していくことがほとんどですが、それまでは現金が毎月マイナスで減っていく状態が続きます。
ついては、黒字の状態になるまでいくらの現金が経営に必要なのかを計算しておくことは非常に重要です。
これをずさんに見積もってしまうと、黒字になるまでに現金が無くなってしまい、融資を受けるか、経営者自身が自分の資産から持ち出すかができなければ倒産してしまいます。
実際には赤字の医院に金融機関は融資してくれないので、自分で工面するか高金利のノンバンクから借りることになり、経営者の人生にとって非常にリスクを負うことになります。
そうならないように綿密に資金計画を立てて、創業の融資の際に金額に折り込む必要があります。
開業前の資金繰り計画は非常に重要ですので、信頼できる税理士や会計士としっかりと相談しながら進めましょう。
次回は最終回、【第3回】開業リスクの対策とまとめをお届けします。
【シリーズ】医師がクリニック開業を成功させるには?