不動産投資を行っている医師で特に勤務医の方が気を付けたいのは確定申告が必要だということです。申告にあたっては青色申告を利用することで節税につながります。不動産投資で青色申告を利用するにはどのような条件があるのでしょうか。不動産投資で計上すべき収入や経費とあわせ、青色申告必要書類の書き方などを具体的に解説します。
青色申告のメリットと白色申告との違い
確定申告の申告方法には「青色申告」と「白色申告」があります。両者の大きな違いは届け出義務の有無です。白色申告は事前の申請は必要ありませんが、青色申告を利用するには事前の承認申請が必要になります。事前の申請には指定期間があるので、期限内に申請しなければなりません。
申告に必要な書類も白色申告は簡易帳簿で認められるのに対し、青色申告は正規の簿記に基づく複式簿記で帳簿を付ける必要があります。決算書類も青色申告のほうが多く、保存期間も長いなど全体的に青色申告は手間がかかるのが実情です。
しかし、青色申告にはそれを補って余りある以下のようなメリットがあります。
青色申告特別控除を受けられる
青色申告にすると、条件によって65万円・55万円・10万円のいずれかの控除を受けられます。白色申告には特別控除はありません。
専従者給与を計上できる
生計を一にする家族に専従者として働いてもらうと、「青色申告専従者給与」として控除できます。給与額に上限はありませんが、常識的な範囲で計上する必要があります。
貸倒引当金の一括評価ができる
事業で発生した売掛金や貸付金の貸し倒れに備えてあらかじめ経費として計上する「貸倒引当金」を一括評価で計上できます。一括評価では年末時点における貸金の帳簿価額合計の5.5%以下の金額を「貸倒引当金勘定」に繰り入れることができるので会計処理が楽になります。白色申告は個別評価しかできません。
赤字を3年間繰り越せる
青色申告している事業者に損益通算しても控除しきれない損失がある場合は、損失を3年間繰り越しできます。翌年以降に利益が出た場合に繰り越した損失を控除できるので節税になります。白色申告は赤字の繰り越しを行うことはできません。
不動産投資で青色申告できる条件とは
不動産投資で青色申告を使って確定申告することはできますが、「事業的規模」に該当するかどうかで控除額に大きな差が出ます。不動産投資の青色申告で事業的規模と認定されるには、次の3つの条件に当てはまる必要があります。
・賃貸アパート、マンションは概ね10室以上を賃貸している
・一戸建ては5棟以上を賃貸している
・駐車場はおよそ50台以上を賃貸している
事業的規模と認められた場合は最高55万円の青色申告特別控除を受けることができます。一方、区分所有で1室のみ所有しているケースは事業的規模と認められないため、控除額は10万円となります。事業的規模であり、なおかつe-Taxによる申告か電子帳簿保存すると控除額が最高65万円に優遇されます。可能な限りe-Taxを利用したほうがよいでしょう。
不動産投資の収入と経費
次に確定申告をするにあたって計上すべき、不動産投資の収入と経費についてチェックしておきます。
不動産投資の収入
不動産投資の収入として、国税庁は家賃のほかに以下のような項目を挙げています。
イ 名義書換料、承諾料、更新料または頭金などの名目で受領するもの
ロ 敷金や保証金などのうち、返還を要しないもの
ハ 共益費などの名目で受け取る電気代、水道代や掃除代など
「イ」には礼金や更新料が該当します。「ロ」は預かっている敷金や保証金などのうち、入居者に家賃滞納などがない場合は返還する必要がありますが、返還を要しないことが確定した日にその金額を収入として計上します。「ハ」は家賃と別に管理費や共益費を受け取った場合に収入として計上します。
不動産投資の経費
不動産投資の経費はなるべく多く節税できるように、経費にできるものは漏れなく計上するように心がけることが大事です。おもな経費になる項目は以下のとおりです。
・不動産管理会社に支払う業務委託手数料
物件の管理は不動産管理会社に委託しているケースが多いと思われますが、支払っている業務委託手数料は経費になります。相場は家賃の5%程度といわれています。
・税理士や司法書士の報酬
確定申告を税理士に依頼した場合や、不動産の登記を司法書士に依頼したときに支払う報酬も経費として計上できます。
・保険料
不動産賃貸業のオーナーが加入すべき保険には「火災保険」「地震保険」「施設賠償責任保険」「家賃保証保険」などがあります。保険料は1年ごとの契約の場合は単年度で全額経費にできますが、5年・10年など長期契約の保険料を一括で支払った場合は、いったん前払い費用に計上し、当年分に相当する金額を毎年計上します。
・ローン金利
不動産投資ローンで元本部分の返済は経費になりませんが、金利の部分は必要経費として計上することができます。ローンを契約したときに支払う手数料も経費になります。
・税金
毎年支払う固定資産税、都市計画税、不動産を購入した際に支払った不動産取得税および印紙代は経費として計上できます。
・減価償却費
物件の取得にかかった購入費用は、建物の法定耐用年数で割って毎年減価償却費として計上します。新築マンションであればRC造で耐用年数が47年となります。4,000万円(建物部分2,500万円、土地1,500万円)の物件の場合は建物部分2,500万円を47で割って、毎年約53万円が減価償却費となります。
・修繕費
老朽化した部屋の機能を回復させるための費用は修繕費として計上できます。傷んだ階段を修理した場合は修繕費になりますが、階段を新たに設置してマンションをグレードアップした場合は機能の回復には当たらないため修繕費にはなりません。
・その他の経費
物件を視察したときの交通費、確定申告に関する本を購入したときの書籍代など、経費にできる費目はほかにもたくさんあるので、調べて可能な限り計上するようにしましょう。
青色申告の必要書類と書き方
では、青色申告必要書類と書き方を確認しておきましょう。青色申告では「確定申告書B」と「青色申告決算書」を提出します。
確定申告書B
確定申告書Bは、「第一表」「第二表」「添付書類を貼り付ける台紙」の3枚を合わせて提出します。
第一表
住所・氏名・所得・納税額などの基本情報を記入します。「住所・氏名等」「収入金額等」「所得金額」「所得から差し引かれる金額」「税金の計算」「その他・延納の届出」「還付される税金の受取場所」の7つのブロックに分かれています。青色申告の所得金額については、青色申告決算書に記載した金額を転記します。青色申告特別控除を受ける場合は、控除額を差し引いたあとの金額を記入します。基礎控除48万円は所得が2,400万円以下であれば誰でも受けられるので必ず記入しましょう。
第二表
第一表の詳細な内容を記載します。「住所・屋号・氏名」「所得の内訳」「雑所得、総合課税の配当所得・譲渡所得、一時所得に関する事項」「事業専従者に関する事項」「住民税・事業税に関する事項」「所得から差し引かれる金額に関する事項」の6つのブロックに分かれています。
青色申告決算書
青色申告決算書は、「損益計算書」「損益計算書の内訳2枚」「貸借対照表」の4枚で構成されています。
損益決算書
1月1日から12月31日までの1年間にどれくらいの所得金額があったかを示す書類です。「売上金額・売上原価」「経費」「各種引当金・準備金等、青色申告特別控除」「所得金額」の4つの項目ごとに1年間の合計金額を記載します。
損益決算書の内訳(2枚)
1枚目には、月別の売上や勘定科目の詳細を記載します。「月別売上(収入)金額および仕入金額」「給料賃金の内訳」「専従者給与の内訳」「貸倒引当金繰入額の計算」「青色申告特別控除額の計算」の5つのブロックに分かれています。通常の従業員に支払った給与は「給料賃金の内訳」に、家族に支払った給与は「専従者給与の内訳」に記載します。
2枚目には、減価償却費など特別にかかった経費について記載します。「減価償却費の計算」「利子割引料の内訳」「地代家賃の内訳」「税理士・弁護士等の報酬・料金の内訳」「本年中における特殊事情」の5つのブロックに分かれていますが、「本年中における特殊事情」は前年度と大きく所得が増減した場合に理由を記載します。
貸借対照表
バランスシートと呼ばれるもので、資産の部と負債・資本の部を記載することにより財務状況を把握するための書類です。「資産の部」「負債・資本の部」「事業主借・元入金」「製造原価の計算」の4つのブロックに分かれています。
不動産投資が事業的規模であれば税理士等の専門家に依頼することが多いと思われますが、最近は確定申告ソフトを使えば個人でも簡単に申告書を作成できるようになっています。区分所有で1室のみ経営の場合は個人で申告するのもよいでしょう。
青色申告を行う場合の注意点
不動産投資で青色申告を行う場合には、以下の点に注意する必要があります。
前年3月15日までに届け出を行う
青色申告を利用したい場合は、青色申告したい年の前年3月15日までに青色申告承認申請手続きを
する必要があります。また、事業を開始する2ヵ月以内に届け出を行わなければなりません。
勤務先に知られたくない場合は「普通徴収を」選択する
勤務先が副業を禁止している場合や、禁止されていなくても勤務先に副業を知られたくない場合は、申告書にある住民税の納付方法で「普通徴収」を選択します。「特別徴収」に丸を付けると勤務先での天引きとなるので注意が必要です。
メリットの多い青色申告ですが、不動産投資を行っている医師(勤務医)は規模に関わらず利用できるので、制度を上手く利用し節税につなげることが求められます。
不動産運用セミナーTOPはこちら