こんにちは、いきなりですが、このようなニュースが飛び込んできました。
脱毛サロン「キレイモ」、金銭トラブルを謝罪 返金希望者が続出「対応が遅れている」…経営責任にも言及(J-CASTニュース)
https://www.j-cast.com/2022/05/04436662.html
脱毛サロンとしては大手の「キレイモ」が、給料未払い+顧客への返金非対応になっているというニュースです。
少し前に芸能人の渡辺直美さんを起用して、ピンクの背景に音楽を流しながら「キレイモ」という音を繰り返し流す、という印象的なCMを行っていた会社ですね。
これが事実であれば、会社の手元にお金が無いという事であり、これはつまり事実上の破綻に近い状態だと思われます。
一体なぜ、このような事が起こったのか?このような事が美容クリニックで起きないようにするためには、どうしたら良いのか?考察していきます
脱毛業界は「前払い」が当たり前の世界
まず最初に、脱毛サロンや医療脱毛など、いわゆる「脱毛」と呼ばれる業界のお金の流れについて、考えていきたいと思います。
脱毛サロンは、前払いである事が多いですよね。
例えば全10回コースなら、10回分を先にまとめて支払う。お客様はそれで将来、10回の脱毛サービスを受ける事ができると確約されて、何かしらの理由で解約したい場合は、契約書に基づいて一定の解約比率で解約する。これが一般的です。
なぜ、脱毛業界で前払いが先になったのかは、正直なところ不明です。ただ、僕が考えるに3つあります。
1つはおそらくは毛周期の関係などで「脱毛そのものに時間がかかる」という、脱毛そのものの特性によるところが大きいかなと思います。
2つめは、まとめて購入してくれれば多少割引をするというもの。どの業界でもそうですが、2回よりも5回、5回よりも10回コースを購入した方が、単価が少し安くなるというシステムを採用しているでしょう。それを脱毛に当てはめると、まとめ買い先払いシステムになったのだと思われます。
3つめは、おそらく囲い込みです。先払いでまとめてお金を支払ってしまえば、他に似たようなサービスのお店があっても、あまり移る気にならないですよね。そういった経済的な囲い込みの意味も含めて、前払いが導入されたのではないでしょうか。
脱毛サロンや塾に共通する、不思議なお金の流れ
上記の「前払い」は、実は経営上はかなり特殊なお金の流れです。
普通は、後払いがスタンダードだからです。
例えば何かを購入する。クレジットカードでお客様が支払ったとすれば、商品到着の方が先で、売った側にお金が入ってくるのにはタイムラグがあります。これも決済のタイミングは同じですが、キャッシュの流れで見れば後送りされています。
他にも、例えば企業間取引で売買があった場合、ほとんどの場合で何かサービスを先に行って、後から請求書を送付して、その翌月末に支払われる、みたいな取引がほとんどではないでしょうか?
世の中は基本、後払いがスタンダード。先にサービスを提供して、お金は後から入ってくるのがスタンダードです。
しかしながら、脱毛サロンは違います。その逆で、お客様からは「前払い」でお金をもらう。ここに大きなカラクリが隠されています。
経営指標には、色々と種類がありますが、今回着目するべきなのは2つ。CF(キャッシュフロー)とPL(損益計算書)です。
脱毛サロンの場合、前払いで先にお金が入ってきます。例えば10回コースで20万円なら、1回あたり2万円ですが、先に20万円が入ってきます。
キャッシュフローで見れば、先に+20万円なわけですが、損益計算書で見ると異なります。
もう少しわかりやすく言えば、1回脱毛の施術を行うと、1回あたり2万円が本来の利益になるはずで、PL上はそのように計上します。
ただ、CF上は先に20万円入ってきてしまっているので、1回施術した後は、20万円のうち2万円は会社の利益に計上、残った18万円は「仮受金」として、手元にはあるけどまだ会社のものになっていない、何かあったら返金も考えなければいけないお金、なわけです。
ただ、目の前に20万円という現金は、存在してしまっています。
ちなみにこの業態は、塾も同じです。塾も先にお金をもらって、講座を受講していくと少しずつ仮受金が利益として計上されていって、未消化分の講座がゼロになれば、全てがやっと利益として計上される、という事ですね。
大手脱毛サロンが破綻する理由
では、そのような特殊なお金の流れのある脱毛業界で、大手の脱毛サロンは破綻するとすれば一体なぜなのでしょうか?
それはおそらく、仮受金を使い切っちゃったのだと思います。
本来なら、まだ会社のものではない仮受金ですが、口座には支払われているわけです。極端な話、1店舗がスゴい上手くいっていて、仮受金がめちゃくちゃ口座に入っていれば、それを使って次の店舗をオープンする事もできます。そうして2店舗目の仮受金を使って、今度は次の店舗を…という形で、仮受金をコロコロ回していけば、スピーディな経営拡大ができてしまいます。
こういった悲劇を無くすためにできる事は、たった1つです。前払いでもらったお金を、触らない事。手をつけない事です。
きちんと施術をして損益計算書上、売上として計上したところから、従業員の給料や経費を支払う。こうしていけば、脱毛という「前払い」が当たり前の世界でも、返金や従業員の給料が支払えないなどといった事は、起こらないでしょう。
口座に積み上げられた現金を前に、目が眩まない、経営者の自制心。それが前払いが当たり前の業界で破綻を予防するために、最も必要な要素かもしれません。
▼著者
大石龍之介
株式会社ブルーストレージ代表取締役。医師としてクリニックに勤務しながら、不動産投資家としても活動している。