現在の日本では、所得税や贈与税そして相続税において「累進課税制度」が採用されています。この累進課税制度とは、多くの収入を得ている人や相続する資産の多い人ほど、税率の高い所得税や相続税が加算される制度をいいます。医師として働いているうちに収入が増加していくと、節税を考える必要も出てくるでしょう。
現在の日本における所得税額の計算方法は、以下のとおりとなっています
課税所得金額=(収入-経費)−所得控除
1で算出した課税所得金額に対する税額=課税所得金額×税率-控除額
納付税額=2で求めた課税所得金額に対する税額-税額控除
したがって、課税所得金額を下げれば下げるほど、納める税金の額は少なくなります。とはいえ、収入を意図的に下げることはできません。
ただし、経費や所得控除については、認められた範囲内でなるべく多く計上することにより課税所得金額を引き下げることができます。これが節税の基本です。
勤務医および開業医に認められる経費
勤務医として働いている医師の場合は、給与所得者となるため「給与所得控除」が適用されます。そして、もう1つ給与所得者に認められる経費として「特定支出控除」があります。特定支出とは、例えば医師の仕事に必要な書籍や定期刊行物などの購入費用、白衣などの購入費用、そして仕事に関係のある人に対する接待費用や贈答品の購入などがこれにあたります。ただし、適用される要件として、勤務先に証明書を発行してもらう必要があることに注意が必要です。勤務先が証明書を発行して適用可能と認められれば、給与所得控除の半分を超える場合に、その超えた額を経費として計上することができます。
例えば、年収750万円の勤務医であれば、給与所得控除額は、750万円×10%+110万円=185万円となることから、上の特定支出が185万円の半分、つまり92万5,000円を超える場合はその超えた部分が経費として認められることになります。
開業医であれば個人事業主となることから、事業所得者となります。そして事業所得者にとっての経費にはさまざまなものがあります。例えば「医療品や医療消耗品の仕入れ代金」、「給与などの人件費」、「外部に検査を依頼した際の外注検査費用」、「診療所の賃料」、「水道光熱費」、「医療機器のリース費用」、「交際費および会議費」などです。医療品の仕入れ代金や診療所の賃料などは、事業(医師業)としての収入を得るための支出となることから、経費として認められることは明確です。
経費として認められるためには、「社会通念上」という判断基準がありますが、常識的に考えて経費となり得るかどうかがポイントです。そして、「常識的に考えて経費として認められないもの以外の経費をなるべく多く計上すること」が、事業所得者である開業医にとっての節税の基本となります。
■節税には2つの種類がある
ちなみに節税については、2つの考え方が存在します。
永久型の節税
永久型の節税とは、税金を減少させる効果が後になっても取り消されない節税方法のことで、具体的には、ふるさと納税などの「所得控除」、そして住宅ローン控除などの「税額控除」が該当します。
繰延型の節税
繰延型の節税とは、費用を支払うタイミングを調整することで節税ができる方法のことで、代表的なものは「短期前払費用」です。これは事業所得者(開業医)に当てはまるものですが、支払ってから1年以内に役務の提供を受ける費用について、支払い時の経費とすることができるというものです。ここでいう役務の提供とはサービスの提供と解釈してください。
例えば、年末に翌年1年分の診療所の賃料を支払った場合、原則としては、まだサービスの提供が行われていないことから、経費として扱うことはできません。しかし、家賃のような継続的なサービス提供の契約に基づく費用については、経費として認められ、結果として会計期間中の税金を減らすことができます。
繰延型の節税における注意点
上の例で、仮に翌年末に事業をやめ、診療所の賃貸契約も解約した場合においては、翌年の費用については経費とすることはできません。つまり会計期間内で考えた場合の経費の合計額に差はないということです。したがって、繰延型の節税を考える際には、「単に税金の支払いを遅らせることができる」という意味で捉えてください。
とはいえ、今年は多くの収入を得られる見込みがあるものの、来年以降は赤字が予想されるといった場合や、来年以降に税率が引き下げられる見込みである場合などについては有効な節税手段といえるでしょう。
■勤務医ができる節税方法とは?
勤務医が経費計上できるものには限界があります。したがって、所得控除や税額控除の枠を最大限活用することがポイントとなります。
ふるさと納税
ふるさと納税とは2008年に開始された制度で、自分が好きな自治体などに寄付をして返礼品を受け取ることにより、一定の限度額までは寄付額合計から2,000円の自己負担額のみを控除した金額について、所得税および住民税を減額できる仕組みとなっています。
ふるさと納税は「所得控除」の一種となります。本来の所得控除は税率が乗じられる前の課税所得金額を減らす効果があるのみですので、税金の減額効果としては「(寄付金-2,000円)×税率」となるのですが、ふるさと納税が節税方法で有効な理由は、「所得税の計算では減額されなかった部分については、さらに住民税から減額される」という点にあります。
扶養控除の範囲を理解する
扶養控除も所得控除の1つです。生計を1つにしており、養っている家族(被扶養者)がいれば、その被扶養者ごとに定められた金額を控除することができます。この扶養の範囲については「生計を1つにする」という言葉から同居を前提として考えがちですが、別居していても定期的に仕送りをしているなどの「養っている事実」があれば扶養控除対象者として認められます。
したがって、離れて暮らしている両親や祖父母なども対象となりますので、収入の少ない両親および祖父母を扶養親族として扶養控除を受けることもできます。
開業医ができる節税方法とは?
開業医が一番に考えたい節税方法は、「小規模企業共済制度」の利用でしょう。同じ医師でも開業医は勤務医と異なり、退職金というものが存在しません。したがって、自分で退職金に代わるものを作らなければなりません。個人型の確定拠出年金(iDeCo)を活用することはもちろん、個人事業主や中小企業の経営者の退職金制度である「小規模企業共済制度」を利用することで、掛金の全額が所得控除の1つである「小規模企業共済等掛金控除」の対象となります。
ちなみにiDeCoと小規模企業共済制度は併用することが可能であり、iDeCoの掛金上限(6万8,000円/月)と小規模企業共済の掛金上限(7万円/月)を最大限利用すると、年間で165万6,000円を小規模企業共済等掛金控除額として計上することができます。
■節税には正しい知識が必要
節税とは、税法上認められる範囲で税額を減少させる方法であり、違法な行為ではありません。とはいえ、どこまでが適法でどこまでが違法なのかという、節税と脱税の境界線については、あいまいな部分が多いのも事実です。
国側も余分に税金を払ってもらうことまでは予定するべきではないので、適法な節税方法はどんどん活用するべきです。やってはいけないことは、「誤った知識により、誤った節税方法を採用してしまうこと」です。
そのためにも、基本的な課税方法を知ることはもちろんのこと、頻繁に行われている税制改正の内容についてもきちんと理解し、自ら最新の情報を取り入れる意識を持つことが大切であるといえるでしょう。