勤務医として働いている医師の場合、「非常勤先が複数ある」というケースは珍しくありません。複数の医療機関から給与を受け取っている場合、通常は確定申告をして納税額を確定しますが、源泉徴収票の枚数が多いと記入漏れ、あるいは書類の紛失などにより申告漏れが発生することもあります。
申告漏れを税務署に指摘されると、場合によっては多額の税金を追加徴収され、悪質とみなされる場合には刑事罰が科される恐れもあります。また、不動産購入・開業時の融資などが受けられないケースもあります。
では修正申告が必要となるのはどのようなケースでしょうか。
申告漏れのほとんどは源泉徴収票の紛失か、記入ミスが原因
住宅ローン・開業などのために融資が必要となる場合には、資産状況を確認するために金融機関から課税証明書・納税証明書の提出を求められます。課税証明書とは課税される住民税の額を証明するものです。一方で納税証明書とは、納税者が確定申告を行って実際に納付した税額や所得金額などを公に証明するものです。
通常、課税証明書の税額と納税証明書の納税額は一致しますが、両者が一致しないケースもあります。医師の中でも勤務医の場合、一致しない大きな原因としてあげられるのが確定申告時の申告漏れです。
課税証明書は、医師に給与を支払った医療機関が市区町村に提出する源泉徴収票をもとに作成されるので、医師の申告がなくても正しい所得金額・住民税額が記載されます。一方で、非常勤先が複数ある医師(勤務医)の場合、確定申告までに源泉徴収票を紛失してしまったり、また申告時に記入漏れが生じたりすることがあります。これに気づかないまま確定申告をしてしまうと、所得金額が実際より少なくなり納税額にも影響が出ます。このような場合に課税証明書と納税証明書の内容が一致しなくなるのです。
確定申告の内容が正しくない場合には、修正申告を行わなければなりません。申告漏れを修正すると所得額が増加するので、融資額が増えることがあります。逆に修正申告を行わないと、融資に影響が出るだけでなく税務署から重大なペナルティを課される可能性があります。修正申告の時期が遅くなるほどペナルティは大きくなるので、申告漏れに気がついた場合には速やかな修正申告が必要です。
修正申告の手順と必要な書類
修正申告を行う前に、まず源泉徴収票を用意しましょう。紛失した場合には、発行元の医療機関に依頼すれば再発行が可能です。銀行の通帳に記帳されている振込記録などを参考に、漏れなくすべてそろえるようにしてください。
次は、提出書類の用意です。修正申告で提出する書類は、「確定申告書B(第一表)」・「修正申告書別表(第五表)」と「本人確認書類(マイナンバーカードなど)」のみです。「確定申告書B(第一表)」と「修正申告書別表(第五表)」は、国税庁のホームページからダウンロードできます。
「確定申告書B(第一表)」には、正しい確定申告内容を記載します。こちらにマイナンバーを記入するので、マイナンバーカードなどの本人確認書類も必要となります。そして「修正申告書別表(第五表)」には修正前の内容をそのまま記入します。
そして内容を記載した書類を所轄税務署長に提出すれば、修正申告は終了です。
なお、新たに払うべき税額は修正申告日までに納付しなければなりません。さらに、延滞税なども必要となるので、こちらも準備が必要です。
未申告が招くリスクとは?
修正申告を行わず放置して税務署に申告漏れを指摘されると、加算税や延滞税が課されます。
加算税はいわば罰金のような性質を持つ税金で、種類によって税額が異なります。
「無申告加算税」は、確定申告の内容を修正するすべてのケースに課される加算税です。税務調査前に自主的に修正申告を行った場合は新たに納める税額の5%にとどまりますが、税務調査後に修正申告を行うと最大20%の税金が加算されます。
「過少申告加算税」は、自主的に修正申告を行った場合には加算されません。税務調査後などに修正申告を行うと、最大15%の税金が加算されます。
そしてもっとも重い「重加算税」は申告内容の隠蔽・仮装などが認められる場合に課され、最大40%の税金を追加で支払わなくてはなりません。
一方で、延滞税は税金の納付が遅れることにより生じる利息のような性格を持つ税金です。
なお、悪質な脱税と判断される場合には、刑事罰が科されることもあります。そしてメディアに取り上げられるような事件に発展してしまうと、社会的信用を失うことにもなりかねません。面倒でもきちんと修正申告を行い、正しい納税を行うことが重要です。