高度専門職である医師。最近は女性医師の割合が増加傾向にあります。
しかし、一般の働く女性と同様、女性医師の就業率もM字カーブ状になっています。結婚や出産・子育てのタイミングで、医療の現場から離れる女性医師が依然として多いのです。
医師としてのキャリアを選ぶか、子育てを選ぶか。
この記事では、女性医師をとりまく厳しい現状を紹介するとともに、どのようにすればキャリアと子育ての両立ができるかを考えていきます。
多くの女性医師がキャリアと家庭の板挟みになっている
厚生労働省の資料によれば、全医師数(約30万人)に占める女性医師の割合は年々増加傾向にあり、平成26年時点で20.4%となっています。
また、医学部入学者や医師国家試験合格者に占める女性の割合は30%を超えており、今後も女性医師の割合が増えていくことが予想されます。
しかし、女性医師の就業率は、一般の職業に就いている女性と同じようなM字カーブ状です。登録後12年で、女性医師の就業率がいったん最低値になります。離職の理由は出産が70%、子育てが38%でした。
このようなライフイベントを契機に、多くの女性医師がキャリアの中断や断絶を余儀なくされていることが浮き彫りになっています。離職期間は6カ月から1年ほどが多いようです。
その後、就業率はいくらか上昇に転じ、登録後35年以降から大きく減衰しはじめます。
日本医師会の調査報告書によれば、女性医師の38%が小学6年生までの子育てを行っていました。また、乳幼児を育てている女性医師の42%が、「本人のみ」または「本人と保育所など」が普段子どもの面倒を見ていると回答しました。
子育ての負担が女性側に重くかかっている実態が浮かび上がります。
女性医師の割合は、皮膚科や小児科、産婦人科といった診療科で多く、外科や脳神経外科では少なめです。
特に小児科や産婦人科では、比較的若い年齢の女性医師の割合が半数以上を占めています。男性医師には話しにくいことでも女性医師になら話せるなど、女性医師ならではの活躍が期待できる分野でもあります。この分野の医療活動を安定的に維持していくために、若手女性医師への手厚いキャリアサポートが求められています。
女性医師が抱える悩みとは
女性医師の結婚・出産・子育てとキャリアに関する悩みでは、「仕事と家庭の両立が困難」のほか、「育児サポートの少なさ、理解の低さ」が挙げられました。
常勤の勤務体制のもとでは、休日や早朝・深夜を問わないオンコールへの対応や、毎月数回の宿直を担当せねばなりません。人の心身の健康を支えるはずの病院という職場でも、まだまだ周囲の子育てへの理解が十分とはいえないため、これらを免除してもらえるところは少ないのが現状です。
朝夕の保育園への送り迎えのほか、子どもは急に発熱したりすることもあるため、常勤のまま働き続けるのは非常に困難です。
また、自分を信頼し、場合によっては命を預けてくれる患者さんがいるのに100%仕事に集中できていないと感じる一方、わが子には親が自分より仕事を大事にしているとは思わせたくないという、板ばさみの感情に悩む女性医師も多いようです。
子育てとキャリアの両立のためには周囲の理解が不可欠
子育てとキャリアを両立するために必要なものは、「職場の雰囲気・理解」「勤務先に託児施設がある」「子どもの急病等の際に休暇が取りやすい」「当直や時間外勤務の免除」「配偶者や家族の支援」の順に多くなりました。
職場の理解を得るためには、まずは一生懸命仕事に取り組んで自身の専門性や熱心さを病院にアピールし、必要な人材だと周囲の医師やスタッフに思ってもらえるようにします。
また、余裕があるときに、雑用や面倒な仕事を率先して引き受けたり、周囲の仕事を肩代わりしたりするなども有効かもしれません。
当直やオンコール対応の免除、短時間勤務や早退、託児施設の設置などを直接訴えるだけでなく、受け入れてもらうための「根回し」が必要になるでしょう。
もっとも、現実にはそのような理解や支援はなかなか得られるものではありません。「当直ができないのであれば病院に残れない」という規則があったりするからです。
その場合、常勤から非常勤やアルバイトといった短時間の勤務形態に変わったり、もしくは勤務先を変更したりすることも検討すべきかもしれません。当直がなく、就業時間が決まっていて残業がない産業医なども選択肢になります。
残念ながら、出産・育児後も働き続けられる環境の整備や離職後の職場復帰支援において、今の日本はまだまだ充実しているとはいい難いです。
ただ、女性医師に対する子育てやキャリアのサポートが乏しいなか、結婚や出産・子育てを経ても働き続ける女性医師はいます。
医師として活動したいのであれば、どんな形であれキャリアを途切れさせないことが大切です。常勤にこだわらず、とにかく医師であり続けることを優先すべきです。現場感覚を失わず、ポジションやキャリアを維持するためです。
保活や家族の協力も大切
ここで、働く女性の一般的な子育て対策も知っておきましょう。
まずは子どもを保育園に入れること、つまり「保活」です。
事前に入園しやすい地域を調べておき、できれば居住地や勤務地を変更しておくなどの対策が必要になるでしょう。
園として信頼できるかどうかはもちろんですが、送り迎えのしやすさとともに、延長保育が行われていて、夕方まで子どもを預かってくれるかどうかも重要です。
しかし、都心部を中心に待機児童が問題となるなか、両親ともにフルタイムの共働きでも、子どもが保育園に入れないことは珍しくありません。
そのような場合でも、認可外保育園や認証保育園に子どもを通わせているうちに認可保育園の定員の空きが出ることもあります。また、勤務先の病院に託児・保育施設があれば、利用するのもよいでしょう。
ところで、医師のように年収が高い職業だと、保育園の保育料が高めになる傾向があります。一般に自治体は、「世帯年収が多いほど子育ての費用面での支援は少なくてよい」と判断するからです。
そしてやはり、ご主人やご両親、兄弟姉妹などの家族の協力が大切になります。どんな職業かに関係なく、子育てには一定の手間と時間がかかるからです。
ただ、女性は育児期間中に仕事を離れても現場に復帰しやすいですが、男性では難しいという問題があります。夫婦ともに医師という場合、女性のほうが仕事を減らすことになるケースが相変わらず多いです。
そのため、子育ての応援はご両親に依頼することが多くなるようです。ご両親は子育ての経験者でもあります。もし遠方にお住まいなら、子育て期間中だけでも同居するか近くに転居して通ってもらうかすると、とても助かるでしょう。
まとめ
女性医師は出産や子育てなどの女性ならではのライフイベントと、医師としてのキャリアの両立に悩むことが多いです。現時点では、女性医師へのキャリアや子育てのサポートは十分とはいえません。
そのため、医師としてのキャリアを断念する女性医師もいらっしゃるのが現実です。
もちろん、個人の価値観やライフプランもあるでしょう。医師や子育ての経験を経て、ご自身に新たな役割を見出す方もおられるかもしれません。
ただ、医師は高度な専門性が必要な職業で、強い意思を持ってその職業を選ばれた方がほとんどでしょう。
厳しい環境ではありますが、なんとかキャリアと子育てを両立することを考えていただきたいと思います。どちらも完璧にこなすのは難しいでしょうから、どこかで諦めないといけない部分も出てくるかもしれません。
とはいえ、キャリアと子育ての両立を目指す女性医師が一人また一人と増えていくことで、着実に社会が変わっていき、後進に対して道を拓いていくことにつながるはずです。