医師が開業を考える際に、最も大きなハードルになるのが「開業資金」です。自分の城を構えるためには資金が必要で、その金額は決して安いものではありません。そこで今回は、開業資金がどのぐらい必要で、用意する方法はどのようなものがあるのか。また、「クリニック供給過多」といわれる現代で、勝ち残っていくための開業プランの立て方などを紹介します。
開業にはどれくらいの資金が必要なのか
医師の開業資金は「いくらあれば問題ない」と断言できるものではありません。なぜならば、開業する場所の地価や診療報酬はケースごとに大きく異なるからです。しかし、何も目安がないと計画を考え始めることもできないものです。
そこで、まずは「開業資金は何のために必要なのか?」という根本的な部分に立ち返って考えてみましょう。その部分が明確になれば、「自分のケースはいくら必要だ」と開業資金を“逆算”して考えることができるはずです。
開業資金は、簡単にいえば「初期費用」と「運転資金」の合計金額です。初期費用とは、土地や建物の購入費、内装工事費、機器設備投資費、広告費などを指します。運転資金とは、家賃や人件費、水道光熱費などを指します。これらは開業を考えている場所で業者に見積もりを取ったり、インターネットで情報を収集したりすれば、ある程度は換算することができます。
ただ、この2つを合計すれば開業資金になるわけではありません。開業したクリニックが最初から盛況であれば問題ありませんが、実際はそうとも限らないので、運転資金はロングスパンで用意する必要があります。「2~3カ月分で十分」という人もいれば、「半年~1年分は確保した方がいい」という人もいます。ここの考え方は、人それぞれといえるでしょう。
資金を用意する方法
開業資金を上記の方法で計算した場合、おそらく数千万円から1億円程度が一般的です。この決して少なくない資金は、どのようにして準備すればよいのでしょうか?
方法は複数ありますが、その1つは「自己資金で準備する」というもの。ちなみに日本医業総研のデータによると、「開業資金の自己資金準備額としていくら用意したか?」という質問に対しての回答は、「2,000万円超:26.9%」「2,000万円以下:15.5%」「1,500万円以下:26.9%」「1,000万円以下:26.9%」となっています。
ただ、これらは全てを開業資金として使うのではなく、生活費を確保しておく必要があります。
そうなると、堅実な方法は「お金を借りること」です。親族や知人に借りる場合は、後々トラブルにならないように、事前に賃借契約書を交わしておきましょう。
最も一般的な借入先は、事業資金などの融資を行う政府系の金融機関である日本政策金融公庫です。民間機関に比べて審査が通りやすく、低金利で借りることができるため、借入が必要な場合は調べてみましょう。審査には1カ月ほど時間がかかるケースがあるので、早めにチェックしておくことをおすすめします。
事前の準備にはどのようなことがあるのか
開業資金を借りるためには、貸す側からの信頼を得なければなりません。「うまくいくかどうか全くわからないけど、とにかく開業したい」という医師に大切なお金を貸す人はいないでしょう。
そこで事前に「事業計画」を作成します。事業計画と聞くと、「コンサルタントなどの専門家に依頼して、しっかりしたものを作らないと……」と思うかもしれませんが、その前にまずは自分の頭の中を整理してみましょう。
個人で開業する場合、ある程度の事業計画は既に自分の頭の中にあるはずです。なぜ開業したいのか、どんなクリニックを作りたいのか、どんな患者さんに来てほしいのかなど、思い描いている理想像を箇条書きで全て書き出してみましょう。
事業計画書の形にしていくのは、その後で十分です。専門家に頼らなくても、現在は事業計画書のサンプルがネット上にあるので、それを参考にしながら自分で作成してみてもいいと思います。
大切なのは“お金を貸す側からの視点を忘れないこと”です。いい加減だったり、中途半端な計画だったりすると、相手からの信頼を得ることはできません。
立地だけではなく、地域のニーズも考慮する
事業計画を考える際、「自分の理想像を書き出してみる」と書きましたが、ここにひとつポイントがあります。それは“マーケティング目線を入れること”です。主観だけではなく、客観的な視点が入っていることで信頼性はぐっと高まるはずです。
たとえば、開業する場所。「駅前に開業しておけば、多くの患者が見込める」では説得力に欠けます。それよりも小児科のクリニックを開業するのであれば、たとえ駅から離れていたとしても、子どもが多く住むマンションが多数あるエリアで、小児科が近くにないのであれば、患者が集まる可能性は十分にあります。
自分の専門分野と地域のニーズを客観的に分析することで、開業したクリニックが成功する確率は高くなるでしょう。
まとめ
医師が開業するためには、開業資金の準備はもちろん、スタッフの確保や候補地の選定も重要事項です。失敗しないためにも事前準備は抜かりなく行いましょう。