医師中でも特に勤務医や経営者、高収入の会社員といった人は、仕事が忙しいだけでなく仕事以外の時間を勉強や自己研さんなどに有効活用している人も多いのではないでしょうか。一方で、そのままでは資産運用に回せる潤沢な資金があっても「運用するために割く時間と労力がない」という状況に陥りかねません。属性が高い人は、銀行や証券会社、不動産会社などからの営業電話も頻繁にかかってきます。多種多様な金融商品や不動産の資産運用を勧誘されるのです。
このような背景から多忙な人たちは、資産運用に関する知識がない状態で営業パーソンに勧められるまま巨額な資金を投じている人も少なくありません。結果として巨額な借金を背負ったり損失を出したりすることもあります。これは、資産運用に関する知識や割く時間がないことが原因なのではありません。
多忙な人たちに適した資産運用の方法を知らないことが根本的な原因なのです。本業が忙しく資産運用に時間を割けないのであればそれを前提とした資産運用の方法を心得ておきましょう。本記事では、多忙な人たちにとって資産運用で忘れてはいけない4つのことについて解説します。
多忙な人たちに適した資産運用スタイル
多忙な人たちの資産運用においては「投資に割ける時間が少ない」ということを逆手にとったスタイルが有効です。具体的には、「時間を味方につけた資産運用」を行っていきます。この資産運用スタイルで重要なことは、以下の2つです。
・長期的スパンで資産運用に取り組む
・資産評価額の短期的な上下に一喜一憂しない
長期的スパンで資産運用に取り組む
そもそも資産運用の目的は、お金を増やすことです。時間を味方につける資産運用とは、長期スパンで取り組み確実にお金を増やすことが目的となります。短期間でお金を増やそうとする場合は、大きなリスクをとって事前に多くの時間と労力を割かなければなりません。例えば海外の証券会社を用いたFXで数十倍や数百倍のレバレッジをかけて数分単位レベルでの短期売買をした場合はどうでしょうか。
いわゆるスキャルピングやデイトレードといった方法は、短期間で資金を大幅に増やすことに適しています。しかしその分ハイリスクになりがちで逆に短期間で全資産を失ってしまう可能性もあるのです。何よりそのような方法では専業トレーダーのように1日のうちの長い時間をトレードに割かなければならなくなるため、多忙な人たちには適さないスタイルといえます。
多忙な人たちに向いているのが長期的スパンでじっくりと資産運用に取り組む方法です。
資産評価額の短期的な上下に一喜一憂しない
自分が保有している資産の評価額(株価や為替レート、不動産価格)の短期的な値動きで一喜一憂しないことも重要になります。なぜなら保有資産の評価額が上がっても下がっても淡々と一定額を投資し続けることが長期的スパンの資産運用のポイントだからです。これはドル・コスト平均法と呼ばれており投資タイミングを分散し平均取得単価を抑えることに資するため、長期運用における王道の一つといえるでしょう。
金融市場では、上昇相場と下落相場が周期的に繰り返されています。仮に上昇相場の最高値で購入してしまっても、定期的に投資を続けていれば数日後ないし数年後に訪れる下落相場の最安値でも購入することができ平均取得単価を平準化することが可能です。一時的な金融ショックや好景気の中で保有資産の評価額が暴落または暴騰しても、一喜一憂せず定期的に淡々と投資を続けていきましょう。
多忙な方の資産運用で忘れてはいけない4つのこと
「長期的スパンでじっくりと確実にお金を増やす」という多忙な人向けの資産運用のスタイルでは、かかる労力と時間を極力削減し時間を味方につけることが必要になります。忘れてはいけないのが以下の4つのポイントです。
・ 固定費が安い
・ 投資対象が長期運用に適している
・ 分散が利いている
・ インカムゲインをもたらす
固定費が安い
資産運用には、固定費がつきものです。例えば投資信託であれば運用中に支払う信託報酬、株式なら株式委託売買手数料、不動産投資は管理委託料など投資の種類によってさまざまな固定費が資産運用には付いて回ります。これらは1%未満ないし5%ほどの場合が多く、一見すると高くないように感じる人も多いかもしれません。
しかし長期運用をするうえでは、この数%程度の手数料でも累積して大きな額に膨れ上がります。例えば不動産投資で年間賃料収入の1,000万円に対して管理委託料が5%かかった場合はどうでしょうか。この場合、年間に支払う管理委託料は1,000万円×5%=50万円です。しかし20年間運用を続けた場合の累計支払い総額は1,000万円にも膨らみます。
実に1年分の賃料収入を管理委託料として支払っていることになるのです。また一部の固定費は、資産評価額が下落したりインカムゲイン(配当や賃料などの収入)が減少したりしても一定の割合でかかり続けます。特に区分マンションの不動産投資においては、空室期間中で家賃収入が入らない期間も管理費や修繕積立金が断続的に発生するため、長期運用では可能な限り固定費の割合を下げるべきです。
投資対象が長期運用に適している
長期運用をするときは、価値が長期的に上昇を続けているものを投資対象としましょう。なぜなら短期的に価値が上昇していたり利回りが高かったりしても長期的に価格が下落を続けている場合は、トータルで損をする可能性が高いからです。例えば高利回り商品として名高いトルコリラ建て債券は、毎年の利率が20%にもなるものもあります。
トルコリラは、2001年2月に変動相場制へ移行しました。当時のトルコリラ対円は、1トルコリラ=約170円でしたが2020年11月17日5時30分時点で1トルコリラは約13.5円です。約20年で通貨価値が約92%も下落しています。仮に年20%の利率で20年間(2001~2020年まで)にわたってトルコリラ建て債券を運用したとすると大幅な損失を被ることになったのです。
例えば2001年当時の1トルコリラ170円のときに1万トルコリラ(170万円分)投資した場合はどのような運用結果になったでしょうか。年利20%のため1万トルコリラ×20%=毎年2,000トルコリラを利息として得ることができます。そのため20年後には、元本1万トルコリラ+利息分4万トルコリラ(2,000トルコリラ×20年※)=5万トルコリラです。
投資元本の5倍に増えていますが、20年後に例えば1トルコリラ13.5円で円に換金した場合は5万トルコリラ×13.5円=67万5,000円しか返ってきません。つまりトルコリラベースでは資産が5倍に増えていますが、トルコリラの大幅安により円ベースだと約102万5,000円も損失を被ることになります。このように利回りが高い場合でも資産価値の下落によって大幅な損をすることもあるのです。
そのため長期的スパンで価値が上昇を続けているものに投資をすることが重要になります。
※利息は単利で受け取ったと仮定
分散が利いている
長期的に安定した値動きをしている資産であっても、世界経済の状況によっては価値が急落することもあり得ます。例えば「米国銀行3強の一角」とも称されるシティバンクは、リーマンショックによって2006年12月1日時点で557米ドルだった株価が2009年2月2日には15米ドルにまで急落しました。このように資産運用ではいつ何が起こるか分かりません。
そのため少ない対象に1点がけするような一極集中的な投資をするのではなく、投資対象を分散して安全に運用をしましょう。また上述のドル・コスト平均法の考え方に則り、投資タイミングも分散することで資産運用の安全性をさらに高めることができます。
インカムゲインをもたらす
インカムゲインとは、配当や利息、賃料など資産を保有し続けることで継続的かつ定期的に得られる収入を指します。多忙な人の資産運用では、なぜインカムゲインが重要なのでしょうか。なぜならインカムゲインは資産を保有しているだけで得られる収入のため、利益確定を半自動的に行えるからです。一方、インカムゲインがない資産に投資をする場合、キャッシュポイントは値上がりした際の売却時のみになります。
また資産の売り時は投資のプロであっても見極めることが極めて困難となるため、日々研究や勉強を行い、金融リテラシーを高めておくことが必要です。そのため多忙な人たちにとって売却益のみをキャッシュポイントとする資産運用は、難易度が高くなります。これらをふまえると、多忙な人たちにとってはインカムゲイン狙いの投資スタイルが向いていると気づけるのではないでしょうか。
時間を味方につけて安定的な資産運用を
多忙な人たちは、時間がないことを逆手にとって「時間を味方につけた資産運用をすること」が重要です。時間がかかったとしても、インカムゲインと資産の値上がりによって長期的スパンで確実にお金を増やすことを目指して分散投資を心がけ、自分のポートフォリオを構築していきましょう。