自分1人でも会社を興すことができる「マイクロカンパニー」が注目されています。高年収の勤務医にとっては「相性がよい」といわれていますがマイクロカンパニーを設立するとどのようなメリットがあるのでしょうか。本記事では、マイクロカンパニーの概要とマイクロカンパニーを使って節税する方法を紹介します。
目次
■マイクロカンパニーとは1人で興す会社のこと
はじめにマイクロカンパニーの概要を確認しておきましょう。マイクロカンパニーとは、1人から設立できる会社のことです。株式会社の場合は、株主も取締役も自分1人となります。株式会社と合同会社の場合資本金1円から設立することが可能です。「個人事業主が法人成りした」と考えれば分かりやすいかもしれません。
日本では、主にフリーランスに適しているといわれているマイクロカンパニーですが勤務医にも利用するメリットが多い制度です。ただし勤務医の給与収入を事業の売り上げに加算することはできないため、給与以外の収入が多くない場合はメリットとならない可能性もあります。
■会社法改正で起業しやすくなった
旧会社法の時代、会社を作るには高いハードルがありました。なぜなら資本金は株式会社であれば最低1,000万円、有限会社は最低300万円用意する必要があったからです。しかし2005年の会社法改正により1円以上の資本金で会社を設立することが可能になり誰でも起業しやすい環境が整えられました。会社の種類は、株式会社と合同会社がありともに出資額以上の責任を負う必要がない有限責任です。
資本金0円で設立できる合名会社・合資会社もありますが倒産した場合に無限に責任を負う必要があるため、リスクが高く避けたほうがよいでしょう。旧会社法時代にあった有限会社は、法改正に伴い廃止されたため、2021年3月現在は設立することができません。
■マイクロカンパニーにはこんなメリットがある
マイクロカンパニーにするとどのようなメリットがあるのでしょか。節税だけでなく例えば以下のようなメリットが考えられます。
社会的信用が上がる
法人化することにより社会的信用が上がります。取引先から見れば相手が個人名よりは法人の名称になっていたほうが安心できるでしょう。業種によっては「個人とは取引しない」という会社もあります。法人化することによりビジネスチャンスが広がるのです。同時に金融機関からの信用も高くなるため、融資を受けやすくなるメリットもあります。
会計管理がしっかりする
法人化すると毎年決算書の提出が必要です。そのため勤務医のときにはあまり気にしなかった経費に対する意識が高まるでしょう。無駄な経費をかけないようにしたり経費にできるものはきちんと計上したりするなど日々の業務にもメリハリがつきます。
すべて自分で決定できる
マイクロカンパニーは、取締役が自分1人のため、会社の運営方針をすべて自分で決めることができます。会議も必要なく物事をスピーディに決定できる点はメリットです。その半面、間違った運営方法をしても忠告してくれる人がいないため、常に自分自身で経営内容をチェックする必要があります。
■マイクロカンパニーで節税する方法
マイクロカンパニーを使って節税するには、主に以下の4つの方法があります。フリーランスの医師はもちろん勤務医にとっても法人化は節税効果が高い方法です。
法人化して税率を低くする
まずマイクロカンパニーにするだけで個人にかかる所得税よりも税率が低くなる場合があります。個人所得税の最高税率は45%ですが普通法人の最高税率は23.20%です。ただしすべての医師が節税になるわけではありません。節税になるボーダーラインは課税所得約900万円です。所得が低い場合は、逆に法人にすると増税になることもあるため注意しましょう。
課税所得900万円を超えると個人所得税は33%となり法人税のほうが約10%低くなります。課税所得1,800万円以上なら個人所得税は40%になるため、法人税だと約17%も低くなるのです。ただしこれは単純に税率を比較した場合でこのほかに住民税が加わります。住民税の所得割は、個人住民税が10%に対し法人は2020年の時点で7%(東京23区内に事務所がある場合)です。
住民税を加味した場合は600万~800万円程度が法人化する目安とも考えられます。実際には、市区町村によって住民税の実効税率が異なる場合があるため、ケースバイケースです。あくまで目安としてお考えください。
▽所得税と法人税の税率比較
所得税率 | 法人税率(普通法人の場合) | ||||
課税される所得金額 | 税率 | 課税される所得金額 | 税率 | ||
1,000~194万9,000円まで | 5% | 資本金1億円以下の法人など | 年800万円以下の部分 | 下記以外の法人 | 15% |
195万~329万9,000円まで | 10% | 適用除外事業者 | 19% | ||
330万~694万9,000円まで | 20% | ||||
695万~899万9,000円まで | 23% | 年800万円超の部分 | 23.20% | ||
900万~1,799万9,000円まで | 33% | 上記以外の普通法人 | 23.20% | ||
1,800万~3,999万9,000円まで | 40% | ||||
4,000万円以上 | 45% |
経費の算入で収入を圧縮する
所得税を節税するには、できる限り必要経費を算入し収入を圧縮することが大事です。これまで自費で購入していた医学書や医学雑誌なども図書費として必要経費にできます。医療関係者との会食も交際費として計上したりパソコンなど高額なものも経費で購入したりすることも可能です。上記の税率の問題よりもいろいろなものを経費にできることを最大のメリットと考える経営者の意見もあります。
単なる勤務医の時代と違い経費にできるものが多くなるため、必ず領収書や請求書・納品書などを保存しておくようにしましょう。
「小規模企業共済」に加入する
マイクロカンパニーの役員・社員になることによって「小規模企業共済」に加入することができます。小規模企業共済は、小規模企業の経営者や役員、個人事業主などのための積み立てによる退職金制度です。毎月の掛け金は1,000~7万円まで500円単位で設定でき加入後の増減もでき全額所得控除できるため節税になります。また事業資金の貸付制度も利用できるなどメリットが多い制度です。
妻を役員にする
妻を役員に登記して所得を分散させると節税になります。自分1人で1,500万円の所得を得るよりも本人900万円、妻600万円というように分散させることにより「1人あたりの税額が低くなる」という点はメリットです。
【計算例】(基礎控除などの各種控除は含まず計算)
・社長1人で1,500万円の所得を得た場合
1,500万円×33%(税率)-153万6,000円(控除額)=341万4,000円(納税額)
・妻を役員にして所得を分散させた場合
900万円×33%-153万6,000円=143万4,000円
600万円×20%-42万7,500円=77万2,500円
341万4,000円-(143万4,000円+77万2,500円)=120万7,500円の節税となります。
これは、1,500万円も900万円も同じ控除額になることを利用した節税方法です。また役員登記していれば妻も上述した「小規模企業共済」に加入できるため、退職金を支給できるうえに節税になります。
■マイクロカンパニーの作り方
最後にマイクロカンパニーを設立する方法を紹介します。以下の登記手続きは基本的な内容です。登録免許税以外にもかかる費用があり株式会社や合同会社など会社の形態によっても金額が異なります。そのため「実際に総費用がどれくらいかかるのか」間違いない金額を知りたい場合は法務局に確認したほうがよいでしょう。
登記前に行うこと
会社を設立するには、主に3つの準備が必要です。
・「会社の概要」を決める
商号、事業目的、発起人などを決めておきます。
・「定款」を作成する
設立する会社で行う事業内容や運営方法などの決まりごとを記載する「定款」を作成します。定款は法的効力を持つので慎重に作成することが必要です。
・「資本金」を払い込む
資本金は、1円以上から設定できますが現実的には備品などの購入も必要になるため、100万円程度は用意したほうが無難でしょう。
会社登記の手順
登記手続きを行う前に以下の必要な書類を用意します。
・登記申請書
・定款
・就任承諾書(設立時役員のもの)
・印鑑証明書
・出資金の払い込みを証明する書類など
さらに登記を申請する際に「登録免許税」を支払うことが必要です。登録免許税の金額は「出資金×0.7%」で算出した金額と株式会社の場合は15万円、合同会社は6万円のどちらか高いほうになります。支払方法は収入印紙もしくは金融機関や税務署で現金納付しましょう。収入印紙は、そのまま「登録免許税納付用台紙」に貼付し現金納付の場合は領収書をA4サイズの用紙に貼付して提出します。
登記申請書と必要書類がそろったら自分の会社の所在地を管轄する法務局へ登記申請を行いましょう。申請する方法は「法務局で直接申請する」「郵送で申請する」「オンラインで申請する」の3つです。申請後1週間~10日程度で登記が完了します。高年収が多い医師は、ただ勤務医として働くだけでは高額な税金を払い続ける可能性が高いでしょう。
しかも給与収入が2,000万円を超えると確定申告の義務が生じます。高年収のために確定申告することになるのであれば法人化を検討するよい機会にもなるのではないでしょうか。法人化することで講演料や原稿料、コンサルティング料など給与以外の収入を自分の事業収入として計上することができます。法人化する場合は、勤務しているクリニックに相談することが必要です。
もし了承を得ることができるようであればマイクロカンパニーの設立を検討してみるのもよいでしょう。