今回は、多彩なキャリアでの経験をお持ちの渡邊譲先生にお話を伺いました。大学病院に10年間勤務したのち、厚生労働省医系技官として1年間従事し、その後フリーランスを経て現在は開業しクリニック経営に携わられている渡邊先生。前編である今回は、医師免許を活かしてフリーランスとして効率よく稼ぐヒントについて、お話しいただきます。
大学病院の給料は雀の涙…足りない分はアルバイトで稼ぐべし
――渡邊先生は大学病院に10年勤務されたあと、厚生労働省で医系技官として1年間働いたことは、前回のインタビューでお話しいただきました。医系技官を辞職されたあとはどうされましたか? 大学に戻るという選択肢もあったと思いますが。
渡邊先生:大学病院には戻りませんでした。大学病院には研究や勉強をするための素晴らしい環境が整っていますが、皆さんご存知の通り、権威はあっても給料はそれほど高くありません。大学病院で勤務し続ける方は、お金よりも自分の研究をしたいという方が多いですね。研究するためには莫大な費用がかかりますから。大学病院に所属していることにメリットを感じる人はそういう選択になるのかもしれません。
大学病院の給料自体は本当に雀の涙で……。それを補うために、みんなアルバイトをして稼ぐんです。そこで「もし割のいいバイトだけに専念したら、ものすごく稼げるんじゃないか」と思ったんです。
そういうわけで、大学病院には戻らずフリーランスとして訪問診療をすることにしました。大学病院に勤めている時、これ以上の治療の手立てがなくなってしまったがん末期の患者さんを訪問診療の先生にお願いすることが多く、退院された患者さんが在宅でどのように過ごしているのか、気になっていたんです。また緩和ケアにも関心があったので、訪問診療をしようと決めました。
金銭面の効率が一番いい往診バイトは『ファストドクター』
――訪問診療にもいろいろな手段がありますよね。
渡邊先生:私の場合は、終末期の患者さんをメインに診ていました。途中からはファストドクターも始めたので、子どもを診療する機会が増えました。ファストドクターのバイトをしている医師のなかには、大学病院に所属して研究もしながら稼いでいる人もいると聞きました。
――ファストドクターで稼ぎまくって収入の柱としている医師を〝ファスト中毒〟と呼ぶ人もいるそうです。
渡邊先生:そうなんですか(笑)初めて聞きました。確かに、そう言われるのもよくわかります。金銭的なことを考えれば、効率がいいのは間違いないですね。
たとえば、「子どもの体調が悪い」という連絡を受けて駆けつけても、親の仕事の関係で昼間に病院に行けなかっただけで、たいしたことなかった……といったケースも多いんです。ここ数年、新型コロナウイルスの影響で1件あたりの診療費が上がっていて、バブルのような状態だったんです。だけど、今後はどうなるかわかりませんね。
次のトレンドはオンライン診療? 患者にも医師にもにもメリット大
――医師の稼ぎ方のトレンドが変わるのでしょうか?
渡邊先生:今後はオンライン診療の需要がますます高まっていくのではないかと考えています。診療報酬は2年ごとに改定されますよね。以前、訪問診療が始まった頃は、ひとりの患者さんを月に2回診ると約6万円分の点数がついたんです。極端な話、施設で100人を診たら600万円みたいなこともありました。しかしそれにメスが入って、ひとりあたり1〜2万円ほどに下がりました。
――オンライン診療が増えるという見立ての理由は、なんでしょうか?
渡邊先生:患者さんにとっても医師側にとってもメリットが大きいからです。オンライン診療では、脈拍や血圧、酸素濃度などバイタル的なものが測れないことが問題点として指摘されているのは確かです。しかし、それを解決するためのデバイスが普及するなど、さまざまな環境が整って、対面での診療と同レベルの医療を提供できるようになれば、状況は変わるはずです。なにより、体調が悪いのに病院に行かなくていいなど、患者さんにとっては便利で安心なことだらけです。待ち時間のストレスも軽減されるでしょう。今後、デバイスがどれだけ発達するかによって普及の速度は変わってくると思います。
すでにオンライン診療から薬の配送まで、ワンストップで医療サービスを提供する医療機関もありますし、オンライン診療で処方箋を発行して患者さん自身が薬局で薬を手に入れる方法もあります。Amazonがオンライン薬局サービスに参入するという話も耳にします。患者さんにとっては、自宅で医療サービスが享受できるのが一番だと思います。配送サービスがもっと発達すれば、オンライン診療はもっと広がるでしょう。
患者さんにとってメリットがあり、ストレスや不安を軽減できるオンライン診療が一般的になるのにそれほど時間はかからないでしょう。そうなると、医師が在宅で働けるようになったり、働き方や稼ぎ方のトレンドが変わったりするはずだと、私は予測しています。
<次回、『【キャリアインタビュー後編】医系技官・勤務医・フリーランス・開業、儲かるのはどれ?さまざまな働き方から「稼ぐ力」を獲得した医師からのアドバイス』に続きます>
【取材協力】
渡邊譲
健康長寿ゆずるクリニック 院長
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