先日来襲した台風15号・19号は、日本列島の広範囲にわたり猛威を振るい、各地のインフラ機能、そして多くの家屋にダメージを与えました。過去に経験がないほどの強い暴風雨による被害が著しく、房総半島では未だにブルーシートを被った建物が多数…。もし、あなたの所有する投資物件が、災害によって何かしらの被害を受けたとしたら、まず何をしますか? 今回は、火災そして台風などの天災被害に備える「損害保険」の適用範囲と、補償金の考え方について解説します。
【一棟マンション】台風で浸水、地震でヒビ…修繕費はどうなる?
一棟マンションが台風による浸水や窓の破損などの被害をこうむった場合、建物共用部にかけている「火災保険」の補償が適用できます。火災保険の適用は「火災だけ」と思われがちですが、地震・噴火・津波以外の「天災」にも適用されるのです。雷による被害や風災、雪による被害は、ほとんどの火災保険で補償されます。なかには台風・大雨による床上浸水や土砂災害、河川の氾濫による被害を補償するものもあります。
一方、地震の影響で被災した場合は、火災保険のオプションで付帯可能な「地震保険」が適用されます。地震保険での補償申請を受けて、保険会社は対象建物の主要構造部である軸組、基礎、屋根、外壁の損害個所ごとに調査を行い、損害の程度を「全損」「大半損」「小半損」「一部損」の段階でランク付けします。そしてランクごとに、地震保険金額の100%(全損)、60%(大半損)、30%(小半損)、5%(一部損)の割合で保険金が発生します。調査の結果、損害の程度で一番軽い「一部損」にも至らないと判断された場合、保険金はありません。また、同じ建物内であっても、エレベーターや給排水設備のみの損害は、地震保険の対象となりません。地震保険金の支払いが決定すると、主契約である火災保険にかかわる損害保険金は一切支払われません。
災害に限らず、エントランスや廊下などの共用部分、エレベーターや駐車場などの共用設備の不具合が原因で、入居者に不便な思いをさせたり、日常生活上で思わぬ損害を与えたりしてしまうことがあります。一方、貸室内での漏水や火災など、入居者の不注意で発生する事故も起こらないとは限りません。一棟マンションの経営環境において、オーナーと入居者とが健全な信頼関係を保ち続けるためにも、損害保険の活用は不可欠です。
最近では、多くの保険会社がより手厚い補償を備えた損害保険商品を発表しており、付帯できるオプションもバラエティ豊かにラインナップされています。選択肢が増えている分、必要な補償、不要な補償の精査もしっかりとしながら、ベストな保険を選びたいものです。
【区分マンション】貸室で火災、隣室にも延焼…補償はどうなる?
基本、区分マンションの貸室内における火災は、入居者が加入する火災保険(借家人賠償)が適用されます。しかし、その火事が第三者所有の隣の部屋にまで延焼してしまったらどうなるのでしょう?
隣の部屋への延焼は、オーナーの補償範囲になってしまいます。では、貸室の下の階で起こった火災から自室への延焼はどうなるのでしょう? 同様に、上の階が火災になり、消火活動による放水で自室が水浸しになった場合は? いずれも、貸室に住む入居者には何の過失もなく起こった事故です。
こういった場合、過失のない入居者へは当然に保証は求められず、火元の上・下の部屋へも損害賠償を求めることができないのです。結果、オーナーは自らの火災保険を適用せざるを得ません。
万が一、このような事故が発生してしまったら、火災発生日時と場所、わかる範囲での火災原因、損害の程度、火災保険証券番号などを確認して保険会社へ連絡しましょう。その際、部屋の被害の状態を写真(静止画)で撮影しておくと、保険請求の資料として大変役立ちます。なお、保険請求権の消滅時効期間は3年と猶予があります。近年に事故経験がある人は、今すぐ保険申請してみてください。
分譲マンションの場合、建物全体(共用部分)の保険契約は管理組合が行うので、区分マンションのオーナーは自己所有の部屋(専有部分)のみ保険契約をしておけば問題ありません。
一般的に、エントランスホール・廊下・階段・エレベーターホール・管理事務室・集会室等と、エレベーター・給水・排水等の設備が共用部分の範囲とされています。さらに、専有部分と共用部分の境目についても細かに取り決めがされており、これも火災保険では重要なポイントになります。
国土交通省の「マンション標準管理規約(単棟型)」によると、専有部分の範囲について「天井、床及び壁は、躯体部分を除く部分を専有部分とする」と定めています。つまり、専有部分と共用部分の境目は、壁、天井、床の内側とするということで、これはいわゆる「上塗基準」と呼ばれるものです。現在は多くのマンションがこの上塗基準で管理規約をつくっています。ただ、一部のマンションでは「壁芯(壁の中心線)基準」を採用している管理組合もありますので、所有マンションの管理規約を再度確認しておくことをおすすめします。
ローン物件が被災…損害保険に入っていなかったら?
融資を受けて購入した投資物件が、台風や火災などの災害によって大きなダメージを受けてしまった場合、もし損害保険に加入していなかったら最悪な事態となります。建物の修繕ができないため、入居者には退去されてしまい、家賃が入ってこなくなり、ローン返済が滞り、最終的には返済不能(デフォルト)に陥ってしまいます。自らの資金力では補えない未曾有の損害に備えて、日々進化する損害保険とその特約の情報を入手しておきましょう。
「賃貸建物所有者賠償責任危険補償特約」
一棟・区分に関わらず、投資マンションのオーナーは火災保険の契約をする際に地震保険と併せて「賃貸建物所有者賠償責任危険補償特約」を付帯することをおすすめします。
この特約は、被保険者(オーナー)が、賃貸建物の所有・使用または管理に起因する偶然の事故、または建物を賃貸する業務、もしくはそれに付随する業務の遂行に起因する偶然な事故により、他人にケガを負わせたり他人の物を壊したりした結果、法律上の損害賠償責任を負担することにより被った損害を補償するものです。投資家の不安とする部分を広義にカバーしてくれます。
「家主費用特約」
発生確率は低いかもしれませんが、事故物件(死亡事故発生)に起因するリスクに適応できる「家主費用特約」もあります。賃貸住宅内で死亡事故が発生し、賃貸住宅が空室となった結果、発生した空室期間または空室期間の短縮のため家賃を値引きしたことによる値引き期間の家賃損失を補償します。また、「修復・清掃・脱臭費用等」の原状回復のための費用や遺品整理にかかった費用を実費補償する商品もあります。入居者が高齢であるなどの理由から必要と思われる場合は付帯してもよいでしょう。
まとめ
保険契約をするときは、構造、面積、保険の範囲が正しいか、必要な特約が付いているか、不要な特約がついていないかなどを確認しましょう。併せて、不担保特約、耐震等級、新築物件、長期契約などで保険料の割引が適用できるかどうかも確認できればベストです。
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