医師の中でも勤務医は一般のサラリーマンと同じく、勤め先の病院やクリニックで源泉徴収と年末調整が行われるので、所得税の確定申告は原則として不要です。しかし、例外的に申告を行わなければならない場合もあります。
第一は、給与収入が年間2,000万円を超えた場合です。この場合、勤めている病院等では年末調整をできないので、自分で確定申告することが必要になります。
第二は、主たる勤務先以外からも収入を得ている場合です。たとえば卒業した大学系列の病院に勤務して給与収入を得ているのとは別に、週に2、3回ほど別のクリニックなどでアルバイトとして働きそちらからも給料をもらっているようなケースです。
第三は、給与ではなく報酬という形の収入がある場合です。具体例としては、業務委託の形で診療の仕事を請け負って出来高制の報酬を得ているケースや、原稿料や講演料、テレビ等のメディアへの出演料などがあげられます。ただし、1年間に得た報酬の額が20万円以下の場合には申告の必要はありません。
確定申告の時期は、基本的に、所得を得た年の翌年の2月16日から3月15日までと決まっています。この3月15日は申告の期限であると同時に納税の期限でもあります。つまり、確定申告書を提出するだけでなく、追加で納めなければならない税金があれば、納税もあわせて行わなければなりません。申告期限と納税期限が同じであることは意外と認識していない人が多いようなので注意が必要です。
また、源泉徴収の形で税金を必要以上に納めていた場合には、確定申告をすることで還付を受けられます。つまり、払いすぎた税金が戻ってくるわけです。ちなみに税金の還付を受けるための申告であれば、翌年の1月1日から行えます。
所得控除を上手に使って税金を安くする
確定申告の際には所得控除を利用することにより、税金の負担を軽くすることができます。その活用ポイントを確認しておきましょう。
所得控除とは課税の際に、所得からあらかじめ一定の金額を差し引く制度です。課税される所得の額が低くなれば確実に税金が安くなるのですから、使わない手はありません。主な所得控除の種類としては以下のようなものがあります。
①医療費控除
年間で10万円を超える医療費を支払った場合、その10万円を超える部分の支払額を控除できます。生計を同一にしている家族の分も控除の対象になります。
②配偶者控除
配偶者の年間の所得が所定の額以下であれば、一定額の控除を受けられます。ただし、近時の税制改正により、本人の合計所得金額が1000万円を超える場合には配偶者控除を受けられなくなりました。
③扶養控除
16歳以上の子どもや扶養している親がいる場合に一定額を控除できます。親に関しては、同居していなくてもその生活費を出していれば対象となります。
④寄附金控除
所定の寄附を行った場合、その寄附金額を控除することが認められています。今、話題の「ふるさと納税」も寄附の一種であり、控除の対象となります。また、出身大学に寄附したようなケースでも寄附金控除を利用できます。
⑤生命保険、個人型確定拠出年金(iDeCo(イデコ))に関する控除
いずれも加入していれば、一定額が控除の対象となります。
所得控除の申告は基本的に勤め先が年末調整の際に行っていますが、上記のうち医療費控除と寄付金控除については別です。納税者自身が確定申告する必要があるので注意してください。
なお、自営業者の場合であれば、所得控除の他に必要経費を差し引くことも可能ですが、医師の中でも勤務医などの給与所得者に関しては、原則として給与所得控除という形で概算の経費が控除されるルールになっています。つまり、給与については自営業者のように、経費を申告して税金を抑えることはできません。ただし、原稿料、講演料等の報酬に関しては、経費を計上することが可能です。したがって、税金を少しでも減らしたいのであれば、原稿の執筆のために使った書籍の代金や講演会場までの交通費等の経費を漏らさずに申告するとよいでしょう。
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投資で得た利益も申告が必要
将来のクリニック開業を夢見て、独立に必要な資金を用意するために株式や不動産などで資産運用を行っている人もいるかもしれません。投資を通じて得た利益に関しては、どのように確定申告を行えばよいのでしょうか。
医師(勤務医)が行う一般的な投資としては、大きく分けると、株式や投資信託、FX(外国為替証拠金取引)、先物取引等の金融商品を対象とする金融投資と不動産投資の二種類が考えられます。それぞれについて申告の際に注意すべきポイントは異なってきます。
まず、金融投資の税金に関しては、投資によって得た利益に対して、現状では、所得税(復興税を含む)と住民税をあわせて20.315%の税率で課税される仕組みとなっています。たとえば、株式の売買をして10万円の譲渡益が発生すれば約2万円の税金を支払わなければならないわけです。
また、株式や投資信託に関しては、証券会社で「特定口座」を開き、さらに「源泉徴収選択口座」を選べば、税金は源泉徴収の形で天引きされるので、確定申告は不要になります。ただし、万が一、損失が出たときには申告をしたほうがよいでしょう。「繰越控除」といって、3年間にわたり損失を繰り越せる制度があるからです。この繰越控除を行うことによって、翌年以降に利益が出た場合は、申告した損失と相殺することが可能になります。
金融投資のうち、FX、先物取引については「特定口座」のような制度がないので、利益が出た場合には確定申告をしなければなりません。なお、損失が出た場合に申告することによって繰越控除が認められるのは株式や投資信託と同様です。
一方、不動産投資の利益、具体的には賃料収入から得た利益については、金融投資の場合とは異なり、給与収入等と合算して課税する仕組みがとられています。そのため、給与収入が多い人は、税金の額が過度に高くなるおそれがあります。節税対策を検討するのであれば、減価償却費などの計上方法を工夫したり、物件の管理や維持にかかる必要経費を可能な限り計上するなどの方法のほかに、青色申告を活用することも効果的でしょう。この制度は、所定の帳簿書類を備えて申告を行うことを条件に税制上の特典が認められるというものであり、具体的には所得金額から10万円を控除(青色申告特別控除)することができます。
ちなみに、青色申告の特典は、不動産投資を事業的規模で行うことによってさらにアップします。事業的規模とは、戸建ての場合には5戸以上、アパート・マンションであれば10室以上、駐車場の場合には50台以上の規模で運用することです。この場合、青色申告特別控除の額が65万円に増えるほか、さらに配偶者や子どもなどを専属の従業員として雇い入れた場合に支払った給与も控除できます。青色事業専従者給与と呼ばれるこの制度を利用すれば、税金の負担を大きく軽減できるのは確実です。
開業する前におさえておきたい事業所得の確定申告の基礎知識
独立開業すれば、毎年必ず確定申告を行わなければなりません。開業医だけに認められている特別な優遇税制もあるので忘れずに利用しましょう。
開業した場合には、個人経営者として事業を行う立場になるので、給与所得ではなく事業所得という形で所得を申告することになります。
もっとも、所得が多ければ勤務医の場合と同様、高い税率で課税が行われることには変わりありません。もし「できるだけ税金をおさえたい」のであれば、先に述べた青色申告がやはり有効な方法です。事業所得の場合には、青色申告特別控除が65万円になり、青色事業専従者給与も使えます。配偶者に従業員として受付や事務などの仕事をしてもらい給与を払えば経費にできるので効果的な節税対策となるでしょう。
また、税負担の軽減を図る手段としては、概算経費の活用も選択肢の一つとなります。これは、年間の社会保険診療報酬の額が5,000万円以下、かつ病院の医業収益が7,000万円以下の場合には、かかった経費を実額ではなく概算で計上できるという医師にのみ認められている特例です。
この概算経費は社会保険診療報酬の金額に所定の割合(概算経費率)をかけて導き出されるのですが、実際にかかった経費の額よりも高くなるのが一般的です。そのため、概算経費で申告する方が通常は有利になります。また、概算経費にするのか、実際の経費にするのかは年ごとに選ぶことができるので、後者の方が高ければそちらで申告することも可能です。
なお、開業後、経営が軌道に乗り、ある程度安定した状況が続いた段階で、個人経営から法人経営に移行する人も多いでしょう。医療法人の税務申告に関しては、高度に専門的な知識が求められることになるので、医療専門の税理士に相談することをお勧めします。