はじめに
毎日の診察、電子カルテの入力や処方箋作成などの事務処理、論文執筆といった学会準備……。
仕事の忙しさにかまけて、自身の将来を見据えた資産形成や貯蓄が手つかずになっている医師は少なくありません。
医師向け転職情報サイト『リクルートドクターズキャリア』が、2015年にメルマガ会員の医師775名を対象に行った「お金」に関するアンケート調査によれば、「世帯の貯蓄額」が1000万~2000万円未満の医師は全体の21.8%。次いで、500万~1000万円未満が19%。500万円未満は17.4%となっています。また、「貯蓄なし」と回答した医師も7%います。つまり、6割近い医師の貯蓄額が2000万円に達していないのです。
この数字は、一般家庭と比べても低い水準にあります。総務省が2017年5月16日に公表した『家計調査報告』によれば、2人以上の世帯における1世帯当たりの平均貯蓄残高は1820万円。医師は一般のサラリーマンより高収入であるにもかかわらず、その貯蓄額に大きな差はないのが実情です。
ではなぜ、このような事態が起こっているのでしょうか。その原因は、日本の高所得者に対する重い税負担と医師特有の複雑な資産背景にあります。
まず、OECD諸国における個人所得課税の最高税率によれば、日本は、OECD加盟国(先進国クラブともいわれ、主要な先進国が加入している国際組織)の中でも世界第3位の最高税率が導入されています。この税率は、世界でもトップクラスの水準です。
また、2018年1月現在におけるイギリス、ドイツ、日本、フランス、アメリカの個人所得課税の実効税率(給与所得控除などの各種控除や補助制度などを考慮のうえ、年収に応じた実際の税率を算出したもの)の国際比較によれば、日本は年収1000万円以下が低水準であるものの、年収1000万円超の場合、イギリス、ドイツに続いて第3位。年収1000万円超の高所得者にとって、日本は世界最高水準の課税環境にあるといえます。
例えば、課税所得4000万円に対して、所得税と住民税を合わせた税率は55%にもなるのです。これは、江戸時代にあった収穫の半分を年貢として納め、残りの半分を農民のものとする「五公五民」を超える重税となっています。
しかし、「税率が高いのはすべての高所得者に対して共通の条件なのだから、そのせいで医師の貯蓄が少ないというのはおかしい」と考える人もいるかもしれません。まさにその通りで、医師の貯蓄の少なさにはもう一つ原因があります。
実は、医師の家計は支出が多くなりがちなのです。まず、定期的な医師会の会合などで接待交際費がかかります。学会などで遠出や出張をする場合には、交通費や宿泊費、飲食代などで自腹を切らなければならないことも多々あります。さらには子どもを医学部に進学させようと思えば、教育費もかさみます。これらは医師家庭にとって必要経費であるため、削減しようと思ってもなかなか難しいものです。
日夜激務に耐えて高所得を得ても、世界トップクラスの日本の税率のもとでは手取りが増えず、医師ならではの支出の多さも重なり貯蓄ができない――そんな窮状を脱するために必要不可欠なのが、「節税」です。
私は不動産投資業者としてキャリアをスタート。顧客の資産形成をサポートするなかで、不動産投資が効率的な節税ならびに資産形成に、大いに寄与するとの気付きを得ました。その運用手法を開示したセミナーへ参加した医師は、実に700名を超えます。
こうした経験から確信したのは、日本の累進課税をしっかりと理解し、「課税所得のコントロール」「不動産投資」「相続税対策」の三つを行えば、医師の節税は盤石になるということです。
そこで本書では、給与所得を中心とした日本の所得税の仕組みから、減価償却を利用した不動産投資による節税策、資産を次世代へ引き継ぐ相続税対策まで、医師が行うべき節税について網羅的に解説していきます。
労働所得のみに頼りお金が貯まらず苦しんでいる医師が1人でも減れば、著者としてこれに勝る喜びはありません。