開業医や会社経営者、高所得者である医師(勤務医)などが不動産投資でアパートの賃貸経営を始める場合、節税効果が生まれるといわれていますが、さらに節税効果を生み出すためには、不動産の経営部門を法人化することが効果的です。
そこで、法人化することのメリットや法人を設立せず、個人所得とした場合の比較等をまとめました。
アパート経営を法人化することのメリット
アパート経営などの賃貸部門を法人化することで得られるメリットについて一つずつみていきましょう。
①法人税の税率が個人の所得税と異なる
日本では、累進課税という方式が採用されており、個人・会社問わず高所得者に対して高い税率が課されています。
個人所得者の場合年収1,300万が、課税率が変わるラインとされています。
法人の場合、基本となる課税率が低く設定されています。
不況が続く中、中小企業を救済するために、法人税の税率を軽減する傾向が続いています。
不動産事業を法人化することで節税につながると考えられています。
②不動産収入と給与所得を分配できる
給与所得を得ている個人が不動産投資を行っている場合、不動産収入の分は確定申告にて収入をつまびらかにする必要があります。
申告にて給与収入・不動産収入が合算され総所得となりますので、最終的に課税率が高くなってしまうという結果につながることも考えられます。
不動産収入部門を法人化させることで、不動産収入は個人所得ではなくなります。
所得をそれぞれに分配できるため、課税対象額が大きくなるリスクを負うこともありません。
先にあげた累進課税の効果も相まって、さらに節税効果が生まれます。
③人件費や役員報酬を計上できる
法人を立ち上げる際には、会社法に基づいた取締役などの役員を設置する必要があります。
また従業員を雇い入れることも可能です。
不動産収入はその役員報酬や従業員の給与に充てることができ、それがすなわち経費として計上することができます。
これによって、不動産収入の総所得額は減ることになりますのでさらに課税対象額を下げることができます。
投資を行う方が代表取締役などの役員に就任した場合、役員報酬からの給与所得控除を受けることができないため確定申告が必要となります。
配偶者や子供など給与所得を持たない家族を役員や従業員として配置すれば「給与」という形で不動産による所得を分散させることができます。
最終的に課税対象額を圧縮させることにもつながります。
法人化させない場合、給与控除などを計上することができません。
この項目は個人事業と法人事業との大きな相違点といえるでしょう。
④経費計上の範囲が広がる
個人で不動産経営を行う場合、「不動産投資に関する経費」のみしか計上することができません。
経済新聞や不動産投資に関する書籍購入費用は経費とすることができますが、私有車を業務に使う場合、物件を確認した際に発生するガソリン代・高速代だけが経費となります。
車両維持費などは家事按分(かじあんぶん:家庭と事業の比率によって経費計上できる仕組み)が適用されますが、100%事業用ではないため、按分比率を大きく計上することが難しいでしょう。
その点、法人化させることで経費計上の範囲が広がります。
先述の人件費の他、事務用品費や通信費など法人を維持するための費用はすべて経費計上が可能です。
もちろん、車を会社所有にすることで、車にかかる費用がすべて経費として計上することができます。
⑤青色申告で欠損金を繰り越しできる
法人は法人設立後3ヶ月以内もしくは設立事業年度終了日のいずれか早い方の前日までに青色申告の承認申請書を所轄の税務署長に提出することで、青色申告による税務申告が可能となります。
不動産事業で赤字が出た場合、最長9年間。
翌年以降に発生する黒字と相殺させることができます。
平成29年4月1日以降に始まる事業年度で発生した欠損金は最長10年間繰り越しすることが可能になります。
この欠損金の相殺によって、黒字額を抑えることができますので、しばらくの間は課税対象額を抑えることができ節税につながります。
法人が青色申告を選択する際に生じるデメリットはほとんどないと言っていいかもしれません。
帳簿記帳の煩わしさはありますが、不動産収入仕様の会計ソフトの導入や税理士と顧問契約することなどでクリア可能です。
⑥減価償却で不動産収入をマイナス計上できる
個人事業の場合、減価償却を行う場合は規定計算式に則り、毎年定期的に計上する必要があります(強制償却)。
黒字が出ている時は減価償却によって節税効果が生まれるのは法人も個人も同様ですが、個人の場合は赤字申告の時も減価償却を行う必要があります。
大幅に赤字が出た時でも純損失の繰り越し控除による黒字相殺は次年度以降3年間のみですので、減価償却や赤字の繰り越し控除の恩恵は少ないと考えられます。
法人化させた場合は、償却限度額の範囲内であれば、自由に調整できるメリットがあります。黒字が出た場合は減価償却費を計上し、赤字が出れば減価償却費を計上しないといったフレキシブルな対応が可能です。
欠損金繰り越し等と合わせれば、さらに節税効果が大きくなります。
⑦相続税対策も可能
個人所有の土地の場合、死後は配偶者や子供へ相続されることになります。
土地という形でも相続税が発生します。現預金の相続よりは評価額は下がりますが、やはり相続税の発生は避けたいものです。
その点、法人を立ち上げて法人所有の土地とすれば、相続税の発生はありません。
個人所有から法人所有へ名義を移転するためには登記が必要となります。
登記に関する書類を作成するための司法書士報酬や登録免許税等が発生しますが、相続税と比べたら、大きな出費にはなりませんし、経費計上もできるため一石二鳥です。
個人所有で賃貸経営をすることと、法人を立ち上げて賃貸経営をすることで経理処理や税金の課税に大きな差があることが分かりました。
法人を立ち上げること自体にも費用が発生します。
会社法という法律に基づいた準備も必要となるため時間も要しますが将来的な出費を抑えるためのメリットの方が勝つはずです。
司法書士や税理士等と相談しながら法人設立に向けて検討していきましょう。