不動産投資は節税効果が期待できることから、ある程度年収が増えてきたら、法人化することを推奨されています。今回は、勤務医や開業医が不動産投資を法人化することのメリット、法人化移行へのベストなタイミング、業務開始までの流れについてまとめました。
目次
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不動産投資の法人化にはメリット・デメリットがある
不動産投資を個人で行う場合と法人化させて行う場合、どちらにもメリットとデメリットがあります。まず法人化した場合のメリットですが、注目すべきは所得税と住民税の差です。所得税は住民税と併せて累進課税で最大55%にまで伸びますが、法人税は最大で33%程度です。この約20%の差は、長い期間に及ぶとかなりの金額になります。
また税金は基本的に1つのアカウントで所得を受け取ると、複数アカウントがある場合よりも多く支払わなくてはならない仕組みになっています。そのため執筆活動やコンサル業に関して、個人の事業規模がある程度大きくなったら、法人に売上を移して所得ではなく給与として個人で受け取り、法人には利益として受け取らせる方法をおすすめします。そうすると、同じ売上金額でも2アカウントに受け取り口が分散されるうえ、先述した所得税と法人税の税率の差も加味されて、かなりの節税が期待できます。この仕組みを利用するかどうかが、手元に残る収入(可処分所得)の大きさ、今後の資産形成に大きく影響します。
そのほかにも、法人化には以下のようなメリットがあります。
メリット
①法人課税率が年々減少する傾向にあるため節税効果がより大きくなる見通しがある
②法人にかかる費用はすべて経費として計上可能
③青色申告での赤字申告は欠損金として10年間相殺繰り越し可能
(平成29年4月以降の事業年度に発生したもの限る)
④相続税が発生しない
⑤任意償却が可能
次にデメリットですが、法人運営にはもちろんコストがかかります。
クリニック経営にせよ不動産管理会社にせよ、事業規模が大きくないとメリットは小さくなり、デメリットは大きくなるという反比例が起きることを理解する必要があります。
事業規模を大きくしたい方、多少のリスクを理解した上でより多くの節税を望む方は事業規模を大きくして、法人での運営に移行することをおすすめします。デメリットをまとめると以下となります。
デメリット
①投資物件を売却した場合の売却益も含め、課税対象となる所得に含まなければいけないため、課税率が高まる可能性がある
②法人にかかる税金などのコストがかかるため、ある程度以上の家賃収入が見込めなければ赤字経営に陥る
個人の場合のメリット・デメリット
法人化せず、個人で行う場合はどのようなメリットがあるか見ていきましょう。
まず、不動産を個人で所有することの最大のメリットは、掛かる経費を確定申告時に計上し、赤字部分を他の収入と合算して税金を少なくできる損益通算が可能になることです。これは経費が計上できない勤務医の方には非常に大きなメリットになります。個人で使える経費枠を持つことで、支出にも幅が生まれます。
メリット
①マンションの区分購入など少額投資でも大きな利益を生むことができる
②自己所有資産を増やすことができる
③相続資産としての土地は、相続税の課税評価が下がるため相続税の圧縮ができる
しかし、個人の支出を何でもかんでも経費計上してしまうと税務調査などで否認されるリスクもありますので、計上に適した支出なのかはしっかりと管理する必要はあります。
デメリット
①家賃収入を含む個人収入が1,300万未満の場合節税効果は少ない
②経費計上の点で制約がでる
③青色申告での赤字相殺効果は3年間
④減価償却は毎年強制償却
不動産投資は個人で大きな出費を必要としなくても始められるため、医師と相性の良い副業になります。メリットを最大化しデメリットは最小化しながら、税金を安くして資産を増やすのに適した投資手法でもあるので、フォローの手厚い専門家や業者さんとパートナーで運営していくと良いでしょう。法人や個人での不動産運営を検討している方向けに無料で個別相談も行っておりますので、ぜひ勤務医ドットコムにお問い合わせください。
不動産投資での法人化は最適なタイミングがある
年間の給与所得が1,300万円以上見込まれる時
個人の場合、給与所得と不動産収入の合算が「総所得」と見なされます。給与所得分には既に所得税が源泉徴収されていますが、不動産収入に関しては確定申告をする必要があります。
確定申告の際に所得税を計上し納付する仕組みですが、給与所得がある場合は不動産所得に対してもその課税率で所得税が算出されてしまいます。高所得者であるほど不動産収入の半額近くを税金として納付しなければいけなくなるため、法人を設立して節税することが推奨されます。
年間の不動産所得が900万円を超えるなら
給与所得が少ない場合でも、年間の個人不動産所得が900万円を超える場合には、次の物件を購入するタイミングで法人設立を行うことをおすすめします。そうすることで、節税効果が生まれるためです。
しかし、マンションの区分購入など年間100万円未満の家賃収入を見込んだ購入であれば、課税率は変わらないため個人所有のままでも良いかもしれません。
将来的に手広く不動産経営に携わりたいという場合は、早い段階で法人設立を検討すべきでしょう。
高所得なら、不動産投資を始めると同時に法人化を!
高所得者層が不動産投資を始める場合「これから不動産投資を始める」というタイミングで法人を設立することがベストです。法人設立にかかる費や、個人所有の資産を法人名義に登記し直すという場合などの費用を経費として計上することができます。
また設立したばかりの法人でも、自己資金があるなどの条件が整えば不動産投資のための融資が可能になるケースがほとんどです。法人格を持つことで信用度も上がります。
法人化にかかる費用や流れをイチから解説
いざ法人設立をするといっても、法人設立は時間と費用がかかります。
余裕を持って準備することはもちろん、会社設立に長けている司法書士を頼ることで、スピーディーに定款の作成や認証手続き等が進みます。
ここでは法人設立の一連の流れを一般的な株式化を前提としてまとめてみました。
会社設立準備
どのような事業を行うのか(ここでは不動産の賃貸事業)設立項目の決定を行います。
また社名がきまったら、代表者印を作成します。この印鑑は会社の実印と見なされます。
定款の作成と認証
会社の約束事である定款を作成します。会社法に基づいて必要事項を盛り込むことが必須です。定款には会社の住所や保有する株式の数、役員の任期などを記します。でき上がった定款は公証役場で認証を得なくてはなりません。
資本金の払い込み
準備した資本金を会社発起人個人の銀行口座に入金し、銀行から払込証明書をもらい受けます。通帳のコピーと払込証明書をセットにし、登記書類に添付する資料とします。
登記書類の作成
会社登記を行うため、登記申請書を作成します。定款の作成から登記申請書の作成までは司法書士・行政書士に依頼するとスムーズです。
会社設立登記
代表取締役となる方もしくは司法書士が法務局に出向き書類を提出し会社設立登記を行います。内容に問題がなければ、1週間程度で会社登記が完了します。この時に登記簿謄本と印鑑証明書を取得しましょう。
開業の届け出を行う
会社名義の銀行口座を開設するほか、税務署に開業の旨を届け出します。その際に青色申告承認申請書を提出すると良いでしょう。
設立完了・業務開始
ここから会社としての不動産事業を進めることができます。
法人化にかかる費用はどのくらい?
法人化にかかる初期費用ですが、およそいくら必要か事前に分かっておくことも大切です。法人を設立するにあたってかかる費用は主に以下のようなものになります。
①登記費用 15万円
②定款作成や登記実務の司法書士への報酬 約15〜30万円
③その他印紙などの諸経費 5〜10万円合計するとおよそ50万円ほどが法人設立にかかることが分かります。
また『freee』や『マネーフォワード』などのサブスクリプションサービスを活用することで、司法書士に委託せずに自分で会社設立の書類作成から登記まで行うことも可能です。自身で行うことで設立費用をかなり安く抑えることができますので、チャレンジしてみても良いかもしれません。
▼法人化で税金対策・資産形成する方法を解説【無料Zoomセミナー】
法人化でこれだけメリットが! 実例を紹介
法人化のきっかけやその後の支出の違いは医師によってさまざまかと思いますが、ここでは勤務医のA先生が実際に体験した法人化エピソードを紹介します。
40代の勤務医であるA先生は、不動産投資歴10年目を迎え、すでに10件以上の不動産投資を行っていました。これまで個人で不動産投資を行ってきたA先生でしたが、減価償却が落ち着いてきた7年目くらいから節税効果も薄れ始め、黒字収支になってしまいました。
そこで付き合いのある不動産会社の担当に相談すると、不動産管理会社を設立することを勧められます。法人設立することで、講師やコラム執筆などの少額の雑収入を法人で受け取ることができ、法人の家賃で住宅ローンが軽減されることを教えてもらいます。
ほかにも、計上できる経費の幅が広がることや、今後いつか来る相続などの問題にも対処しやすくなることなど、多くの利点があることを知ったA先生。「これだけのメリットがあるなら今すぐに法人化を」と、不動産に詳しい税理士を紹介してもらい会社を設立することにしました。
今後の不動産運用も含めて設立した会社にはコンサルタントに参画してもらい、管理費や税理士報酬、コンサルタント費用などの実費と減価償却の任意償却や出費料などの所得分散効果もあり、A先生の不動産経費を200万円ほど増やすことに成功しました。
今後は法人でのほかの投資運用も含めて資産管理会社の側面を強くしていき、法人設立で新たに得た税理士やコンサルタントと共に、増資も含めた個人のさらなる節税対策や資産形成に力を入れています。
まとめ
筆者は、医師の資産形成コンサルタントとして10年以上従事し、500人以上の医師の方の相談を聞いてきました。不動産投資は医師が気軽に始められる節税や資産形成の手段であり、高所得で忙しい医師には適した手法だと言えます。
とはいえ、不動産投資や法人化にはそれぞれメリットとデメリット、リターンとリスクが存在します。
それらを適切に分析し、始めるタイミングや運営などの進行をスムーズに行うことは、医業という尊い本業を持つ医師の方には難しく感じられるかもしれません。実際に不動産投資を法人化しようと思っても、法人化プロセスにかかる費用や時間から踏み切れずにいる方も多く目にしてきました。
法人化にあたり大切なのは、タイミングを見極め、事業開始までの流れが滞らないように注意することです。そのために必要な法人化へのカギを3つにまとめました。
①どんな投資手法やスキームも出口や目的から逆算して検討する
②必ず信頼できる専門家を見つけてから始める
③メリットだけを鵜吞みにしない
医師の皆さんが適切な形で不動産投資や法人設立を成功されるのを心から願って、本コラムの結びとします。
記事監修:山下 晃司
ドクター専門ライフプランプラットフォーム「D’z Life Innovation株式会社」代表取締役。
これまで全国500人以上の勤務医、個人開業院長などDrの人生設計をサポート。 キャリアや経営形態、家族構成など集積したデータをもとに自身の理想のビジョンと真の豊かさの追求を目的としたライフプランの設計管理を行う。
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