医師免許を持っている方であれば、キャリアアップの選択肢の一つとして「産業医」や「労働衛生コンサルタント」への道を考える方もいるでしょう。さまざまな職場での労働衛生を指導したり、そこで働く人たちの健康管理を行ったりするのが主な役割です。コロナ以降特に需要が高まったこともあり、資格取得を目指す医師の方も多いのではないでしょうか。
今回は両資格を持つ医師のS先生に、主に労働衛生コンサルタントの試験に関する話、また現場での体験談などをお伺いしました。
産業医と労働衛生コンサルタントの違い
まずは主な業務の違いです。産業医は「組織の一員」として、そこで働く労働者の健康維持を行うことが主な役割のため、個人のケアや職場の点検などに重きを置いた管理業務になります。一方、労働衛生コンサルタントは「外部の立場」で労働環境全体を視野に入れた評価や指導を行います。
試験についても、産業医になるには医師免許が必要となります。一方で、労働衛生コンサルタントには医師免許は必須ではありませんが、医師免許と労働衛生コンサルタント資格の両方を持つことで産業医としても認められます。
また産業医に必要な「産業医学講習会」を受講していれば、労働衛生コンサルタントの筆記試験はパスできるという仕組みになっています(受講していない場合でも、医師免許があれば一部の筆記試験をパスすることが可能です)。これらの制度を踏まえると、医師の場合、まず産業医の資格を取得したあとで、労働衛生コンサルタントの資格取得を目指すのが一般的なのではないでしょうか。
そして資格取得後について。産業医は5年の有効期限があることに対し、労働衛生コンサルタントは一度資格を取得すれば更新の必要はありません。
コンサルタントのキャリアについて気になる方は、下記の記事も参考にしてみてください。
参考: コンサルの独立・起業で失敗する8つの理由と対策を実体験から解説 | コンサルキャリア
労働衛生コンサルタントの試験について
今回お話を伺った医師であるS先生は、産業医の資格取得をせずに、直接労働衛生コンサルタントの資格取得を目指し、2回目の試験で合格しました。医師免許を持っていれば、持っていない受験者が必要な実務経験を積むことなく試験を受けることができますが、S先生は「現場経験がないと受かるのは難しい」と振り返ります。
その理由は、口頭面接の2次試験では、現場経験をベースとした質問をされるためであるそう。「1回目の試験ではこの口述試験で質問に上手く答えられず、不合格となってしまいました」と苦い経験を語ってくれました。
残念なことに1度不合格となってしまったS先生ですが、ちょうどその頃コロナが広まり始め、勤めていた病院でコロナ感染対策の責任者になることに。それが「2次試験に必要な実務経験を積めるきっかけとなった」といいます。当時はコロナがでたばかりで、病院によって定められたルールもまちまち。S先生はネットでさまざまな病院の感染対策に関するレギュレーションやデータを集め、マニュアルを作成するなどして実務経験を重ねていきました。
そして挑んだ2度目の試験で見事合格。面接官からの「労働衛生の考えが自分と異なる経営者がいる現場で働かなければいけない場合どうするか?」といった、現場経験がないと答えにくい質問にも難なく答えることができたといいます。
産業医が経験する「1社目の壁」
そうして1社目となる現場での仕事を始めたS先生でしたが「こちらも初めてで教えてもらわなければいけないことが多く、1社目の壁を感じました」と振り返ります。
幸いS先生の場合は引き継ぎというかたちでしたが、産業医による指導が初めての会社の場合は、労働衛生に対する温度感や会社としての挑み方などが異なるため、それを探るのが時に大変な場合もあるそうです。S先生はアドバイスとして「まずは経営者が何を求めているかをしっかり把握して、外堀を埋めていくように進めていくのが良いのではないでしょうか」と話します。
また業種による労働環境の違いも大きなポイントで「例えばコロナで需要が急激に伸びた通販サイトの倉庫などの場合、『とりあえず来てください』と緊急を要するケースもあります。現場はてんやわんやで、苦労した記憶があります」とS先生。「事務がメインの落ち着いた職場などは比較的やりやすく、そこから経験を積んでいくのが理想的ですね」とのこと。
まとめ
S先生は現在、産業医と労働衛生コンサルタントの資格を生かして開業し、活躍していらっしゃいます。労働衛生コンサルタントに関しては、医師免許を持っていれば試験の一部が免除されるものの、受かるためには試験対策が欠かせません。実際の現場を考えた労働衛生の思考を身につけ、挑むのが良いでしょう。
【取材協力】
S先生
内科医。産業医と労働衛生コンサルタントの資格を生かして開業している。新しいことに挑戦することが好き。