今、日本の医療業界は変革を迫られています。
新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、その大きな変革の波に対応するべく、動いている医療業界ではありますが、コロナが落ち着いたとしても、日本の医療業界が落ち着く事は無いでしょう。
なぜならば、大きな波が押し寄せる事が、わかっているからです。
一体どんな現象が起こるのか、それに対応するために医師には何ができるのか。
考えていきます。
1、女性医師の増加
まず確実に訪れるのが、女性医師増加の波です。
僕が卒業した時で、概ね女性20%程度だったのですが、今や50%を超える大学もあるようです。おそらくこの流れは、ポリティカルコレクトネス的に抗えないので、継続するでしょう。
そうなると、これから新たに排出される医師のうち、女性の比率が増していくわけですが、これが全年齢に波及するまで、およそ20〜30年はかかるでしょうから、医師全体に占める女性医師の割合は、まだあと20年、30年かけて増大していく事が予想されます。
それに伴い、おそらく
A、医師の専門科別人口が偏る(女性医師に人気の科が増え、そうでない科は減る)
B、夜間当直などの業務に従事する医師が減る
などの現象が、考えられます。
Aに関しては、既に顕著に現れていると思いますが、上記の通り「女性医師の割合増加」の波が「全年齢」に及ぶまでは数十年かかりますから、まだまだ本格的にはこれからです。
Bに関しても、例えば女性医師が増えても「女性医師の婚姻率」が低下する事で、夜間当直業務に従事する医師の数はバランスする可能性もありますが、一般的な傾向として可能性は高いと言えるでしょう。
正確に言えば、これがどのような影響を与えるのかは、あくまで予想にしか過ぎません。しかし「女性医師の割合が増加する」というのは、間違いなく訪れる未来です。それを見据えて、ある程度将来の事を考える必要が、ありそうです。
2、慢性期需要へのシフト、利幅減少
日本の少子高齢化に伴い、医療が急性期から慢性期へのシフトが進んでいます。
伴って、慢性期医療の参入障壁の低さから、競争がそれなりのスピードで起こっているため、診療報酬の引き下げも素早く、利幅が減少する事が予測されます。
家賃や人件費など、固定費を高いまま放置しておくと、経営が立ち行かなくなる慢性期医療施設も、出てきそうです。
3、総合病院の経営不振、統廃合
上記に伴い、急性期の機能を有する総合病院は、経営が苦しくなります。
人口が減少し、人々が中心地により集まって住むようになり、最終的には過疎地域の医療需要は減少、医療需要が「総合病院の経営維持に必要なライン」を割ったところで、総合病院の維持が持続不可能になるエリアが出現します。
そうなると、病院は廃業させるか、統合させるかしかありません。
総合病院が消滅したエリアでは、さらに人口流出が進むでしょうから、その土地の財政維持さえ、難しくなり得ます。
遠い将来に起こる事のように思えますが、事実、喫緊の課題として総合病院の経営赤字は大きな問題となっている地方は、多く存在しています。
病院の統廃合は、近い将来やってくる。その波に備えて、今やるべき事は何か考えておく必要があると言えるでしょう。
4、医師の給料のエリア格差増大
医療需要が、総合病院の維持ラインを割ってくる地方が、出始めると、当然ながら医師や看護師などの医療従事者へ渡す給料も、減らさざるを得ません。
実際、そのような理由で人口減少が著しい
・鳥取県
・島根県
・和歌山県
などでは、医師の全国平均年収である1169万円を、大きく下回っています(鳥取県、765万円、島根県、777万円、和歌山県、702万円)。
一方で、人口がそれなりにいるにもかかわらず、なぜか医師が少ない愛知県などでは、平均1357万円となっており、2倍近い格差が開いているとも言えます。
参考:年収ガイド(https://www.nenshuu.net/shoku/cnt/shoku.php?shoku_id=8)
これは人口過疎地域での医療需要減少に伴う経営不振により、医師の給料が下げられているという事もあるかもしれませんし、さらに言えば美容や自由診療領域の需要の差でもあるとも考えられます。
いずれにせよ医師の給料が、エリアによってかなり異なる現象も、今後はさらに進行していく事でしょう。
5、医師の給料の減少
エリアごとに格差を生じさせながらも、医療需要が供給に対して減少するのは、全体として見られる現象になるはずです。
唯一望めるのは、完全なる自由診療領域ですが、こちらは完全にビジネスの世界。勝者総取りの原理で、プロがマーケティング技術などを駆使し、かっさらっていくでしょう。ビジネスの素人である医師が個人で参戦したところで、勝ち目が薄いはずです。
医師の給料減少は、男女差や職務差、専門科、エリアなどの「多少のグラデーション」を描きながら、少しずつ進行すると思われます。
おわりに
いかがでしたでしょうか?コロナの後、これから訪れる医療界への大きな波。
これらについて、考え過ぎて身動きが取れなくなってしまっては本末転倒ですが、ある程度は考え、キャリアを選択し、リスクをヘッジしていく事は、長い目でみれば重要ではないでしょうか。
▼著者
大石龍之介
株式会社ブルーストレージ代表取締役。医師としてクリニックに勤務しながら、不動産投資家としても活動している。