こんにちは、医師で投資家の大石です。
いきなりですが、株式投資の神様と言えば、誰を思い浮かべるでしょうか?
おそらく十中八九、ウォーレン・バフェットと答えるでしょう。
しかしながら、その答えは間違っています。確かに、ウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハサウェイは、過去50年にわたって驚異的な運用リターンを出し続けています。その手法もいわゆるバリュー投資、企業価値の本質を見抜くという知的なイメージの手法を採用していて、かつバフェット自信がお金持ちであるにもかかわらず、ハンバーガーとコカコーラが大好きという節約っぷり。まさに日本人が好きそうなエピソードが満載なので、投資の神様として扱われています。
今回は、株式投資の世界で最も成功した投資家と言われている、ジム・シモンズについて解説していきます。
ジム・シモンズって?
シモンズは元数学者で、謎のベールに包まれている人物だと言われています。その理由は単純明快、人の前に出ず、誰とも話さず、年間70億ドルもの運用収益を上げているにもかかわらず、社員はたった300人だから、と言われています。
また社員にも、その投資手法について決して口外しないよう、というよりもできないように、法律でガッチガチに固めた契約書を交わしているそうです。
まさに、徹底した秘密主義。いかにも数学者という感じで、俗世から完全に離れている感じがしますね。
そんなシモンズ率いる「ルネサンス・テクノロジーズ」および「メダリオン・ファンド」は、1988年以降、なんと年間平均66%の運用成績をあげています。平均ですよ。平均。
これはウォーレン・バフェット、ジョージ・ソロス、ピーター・リンチ、スティーブ・コーエン、レイ・ダリオと、名だたる投資家等でも当然、手が届かない領域だと言われております。
ルネサンスはまさに、打ち出の小槌。金のなる木。おとぎばなしのようですが、実在する人物で、実在する会社で、実際の出来事なのです。
ジム・シモンズの手法
ジム・シモンズが数学者、それもただの数学者ではなく天才的な数学者であるという事と、彼が徹底的な秘密主義を貫いている事から、おそらく多くの人に予測できてしまうであろう、その投資手法。
それはズバリ、トレーディングの数学的解析によるものだと、シモンズにインタビューした人物が書いた著書「最も賢い億万長者」には、記載されています。
シモンズは片っ端から数学者を雇用し、あらゆるパターンを計算させ、勝率の高いトレードを見つけては自動で機械に取引させる、というシステムトレードで、年66%の運用利率を1988年から叩き出し続けているわけですね。
いわゆるテクニカルトレード、に分類される類のものだと思います。
これは、バフェットを神様と仰ぐバリュー投資家が最も嫌う内容ではありますが、事実です。
過去に取引された株式の売買履歴から、数学的に解析されたパターンを読み取って売買する方が、リターンが良いという事ですね。
決算書が読めるとか、市場分析ができるとか、そんな事じゃなくて、単純に数学的解析能力の高い人間をかき集めて作ったシステムの方が、富を集める。
そんな無機質で虚しい事実を、シモンズは証明してしまったわけです。
書籍には、まだ世の中がAIなんてSF映画の世界だと思っていた頃から、シモンズは本当に機械学習を作り出そうとした事から、確率微分方程式などの基本的な数学内容も出てくる、非常に興味深い内容であるので、数学好きの先生にはぜひ、一読をオススメ致します。
世の中がやれAIだ、機械学習だ、ビッグデータだ、と言う10年も20年も前から、アルゴリズム、コンピューティング、ビッグデータ解析に挑戦し、実際にそれを成功させ、誰よりも稼ぎ出してしまったシモンズ。一部難解で調べないとわからない内容も出てきますが、読み始めると寝食を忘れて読み耽ってしまうので、ご注意ください。
個別銘柄の取引は絶対にやめた方が良い
この本を読んで、最初に思った事は、個人がコソコソ取引するのは、やめた方が良いなという事です。
シモンズのような天才数学者が作り出したシステムに、年66%の運用を30年毎年食らうような市場で、個人投資家が勝負して勝てる可能性はどれくらいでしょうか?
もちろん、一部の天才等は、そこに挑戦して実際にリターンをあげる事も可能だと思います。
しかしながら、日常的には医師として勤務しているような人間が、ちょこっと本を読んで勉強して、片手間にトレードして勝てるような世界では決してない、と思いませんか?
しかも敵はシモンズだけでは、ないと思います。
今後似たような手法で、新しいアルゴリズムを独自開発して巨額な利益を生み出すファンドが、絶対に出てきます。
そうして昔のアルゴリズムが陳腐化して、また誰かが新しいのを作り出して…と、市場のパターンが変化するたびにそれを数学的に解析して利用してくるアルゴリズムを携えたファンドが、必ず出てきます。
日本の勤務医というレベルの、弱小個人投資家は、もはや下手に株なんて触らないで、黙ってインデックスファンドを買って、寝ましょう。
努力する場所はそこじゃないし、そこで努力してもほぼ逆効果に終わる事でしょう。
そんな事に時間を使うよりも、家族や大切な人、友人と笑って過ごした方が人生のトータルで見た時に幸せなのかな、と思います。
▼著者
大石龍之介
株式会社ブルーストレージ代表取締役。医師としてクリニックに勤務しながら、不動産投資家としても活動している。