昨今、拡大する美容医療市場を追随するかのように、美容クリニックが増えております。
実際、美容医療の成長は2030年まで年10%弱の成長が継続する事がマクロでは予測されており、これは大きなトレンドとしては間違いないでしょう。
美容医療の市場規模、2022年から2030年にかけてCAGR9.6%で成長予測
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000002949.000071640.html
しかしその一方で、日本では人口減少が顕著です。
世界基準で見れば、人口は増加傾向であり、伴って美容医療の成長性が保たれているとも考えられます。
人口が減少する日本において、美容医療がそれほど急激な成長を継続していくというのは、やや非現実的かもしれません。
そうなると待ち受けているのは、生き残り合戦です。
まさに群雄割拠と言える美容クリニックの市場ですが、今後はどうなっていくのでしょうか?どう生き残るべきなのでしょうか?
取れる戦略はいくつあって、何が適当なのでしょうか?考えていきます。
美容クリニック生き残り戦略マトリクス
美容クリニックが取れる戦略は、大きく分けて2つの変数があります。
1つは単価、もう1つはターゲットの広さです。
つまり
1.低単価×マス層
2.高単価×マス層
3.高単価×マイナー層
4.低単価×マイナー層
の4つが、単純なマトリクスとしては存在します。
しかしこれらのマトリクスの中で、唯一4番目の「低単価×マイナー層」は、ビジネスとして成立しない可能性が高いと言えます。
ターゲットがマイナーで、かつ低単価だからです。
そういう意味では、美容クリニックの生き残り戦略としての候補は3つに絞られます。
美容クリニックの生き残り戦略1、低単価×マス層
1つ目の戦略は、低単価×マス層の戦略です。
こちらはいわゆる大規模な、チェーンの美容クリニックをイメージすると良いかもしれません。
仮に低単価だとしても、マス層にリーチする事ができれば、スケールメリットで1単価あたりの固定費を下げる事ができるので、事業としては成立します。
逆に言えばある程度の規模が無ければ、低単価としては成立しないとも言えます。
この戦略の強いところは、低単価のメニューで金額的に訴求力がある事です。
極端な話をしてしまえば、低単価のメニューを呼び水的に使う事もできます。それ単独では赤字であっても、高いマーケティング力とマス向けの広告戦略で、広く薄く顧客を集め、来店してからのアップセルで単価を上げていくという戦略です。
この戦略を取る事ができるのは、規模があるチェーンのクリニックだけです。
認知度も圧倒的でしょうし、そういった意味での経営上の参入障壁もあります。
このビジネスモデルの唯一にして最大の弱点は、固定費が莫大にかかるという事です。
固定費がかかるという事は、仮に何かしらの風評やSNSでの暴露などがあった場合、一気に客足が途絶えてしまい、莫大な固定費だけ残ってしまうという、経営上のテールリスクが存在します。
そういう意味では、マーケティングや広告やプライシングという「攻め」だけでなく、リーガルリスクや人材のマネジメントという「守り」も必要になるため、経営難易度は高いと言えるでしょう。
美容クリニックの生き残り戦略2、高単価×マス層
こちらは中規模な、大都市には必ずあるくらいの認知度のクリニックが該当します。
高単価の手術を中心として、マス層にリーチします。
具体的には
■ 高い技術が必要
■ 手術は基本全身麻酔
■ 症例数そのものがそれほど多くない
■ そのため高い技術を持った医師が限られる
といった手術です。いわゆる二重の埋没などではなく、脂肪吸引や骨切りなどでしょう。
やるのにかなり勇気が必要で、ユーザーはかなり入念に下調べをするはずです。
そのためあまり広告戦略がどうというよりは、業界で有名になって、ネットやSNSの口コミで勝手に広がっていく、みたいな集客浸透の仕方が想定されます。
マーケティングや広告戦略というよりは、確かな技術とポジショニング(どの手術の専門で展開していくのか)戦略が全てで、職人気質な医師はこちらの戦略が向いているかもしれません。
こちらは経営上はかなり有利で、営業利益率も高いでしょうし、固定費もそれほど重くはないでしょう。
唯一の問題は、人です。
高い技術と評判が、雇用している医師についてしまえば、その医師が独立する事で一気に顧客が離れてしまう可能性は容易に想像できます。
とはいえ技術を教えないわけにはいかないでしょうから、こちらの戦略を取る場合は基本的には雇用契約書をある程度固めてしまって、独立の時の引き抜き等を防止できるようにする事が重要です。
また医師と密にコミュニケーションを取る事で、そういった予防効果もあると言えるかもしれません。
美容クリニックの生き残り戦略3、高単価×マイナー層
最後に、これは小さな1つのクリニック単位で取る事ができる事業形態です。
高単価の美容医療を、特定のマイナー層にだけ届けるというスタイルです。
全ての開業スタイルはここから始まりますが、やはり重要なのは
・特定のエリアの顧客から信頼を得る事
・特定のエリアの顧客にしっかり浸透する事
です。そういう意味では、立地はかなり重要になってきます。
このスタイルで始まったクリニックも、今となっては上記の2つのどちらかの戦略に基づいて拡大していきます。
最初から経営戦略をある程度見据えて、限りある時間と経営資源をどう割り振るのか、事前に考えて行動する事が、これからの美容クリニックの生き残り戦略には必要なのかもしれません。
▼著者
大石龍之介
株式会社ブルーストレージ代表取締役。医師としてクリニックに勤務しながら、不動産投資家としても活動している。