新型コロナウイルス感染拡大を受けて、オンライン診療は大きな進展をみせました。オンライン診療は患者にとってさまざまなメリットがある一方、対面診療よりも報酬点数が低い等の理由で、医師にとってはデメリットとなる場合があります。その定説を覆し、オンライン診療プラットフォームで大成功をおさめたのが鈴木幹啓医師が手がけるサービス「イシャチョク®」です。
今回、勤務医ドットコムでは鈴木幹啓医師の独占インタビューを実施。「イシャチョク®」をローンチするまでのストーリーや、鈴木医師が思い描く“あらゆる人にメリットがあるシステム”とはどのようなものなのか等、貴重なお話を伺いました。
反対していたオンライン診療を始めるまで
――「イシャチョク®」とはどのようなサービスか、教えていただけますか?
鈴木先生:私は現在、和歌山県で小児科クリニックを経営しながら、「イシャチョク®」のサービスを立ち上げ、運営しています。「イシャチョク®」とは、「今すぐ診てもらいたい患者」と「手の空いている医師」をオンライン上の「仮想待合室」で、「予約なし」で繋ぐ医療プラットフォームです。現在、自身のクリニックでも業務委託で勤務医の先生方35名ほどと契約させていただいております。
――コロナ禍でオンライン診療を始めたクリニックが多数ありますが、以前からオンライン診療のサービスを構想されていたのでしょうか?
鈴木先生:私は最初からオンライン診療に賛成だったわけではなく、むしろ反対派でした。これには診療報酬制度が関係するのですが、現在の診療報酬制度では、対面診療の方がオンライン診療より診療報酬点数が高くなっています。つまり、わざわざ自分のクリニックに通ってくださっているかかりつけの患者さんをオンラインで診療すると、診療報酬が減ってしまうのです。
クリニックの経営には、スタッフの人件費、医薬品・医療材料の購入費、医療機器・機材に係る費用、施設維持・管理費などさまざまな費用が必要です。私もいち開業医として、オンライン診療には全くメリットを感じていませんでした。オンライン診療が普及する前から、老舗の医療系の企業にオンライン診療しないかとお誘いを受けていましたが、断り続けていたくらいです。
一方で、オンライン診療は患者さんにとってはメリットだらけだということも理解していました。スマホやPCなどのデバイスさえあれば、わざわざ遠くのクリニックに行かなくても、家にいながら診察が受けることができ、欲しい薬も手に入ります。特に私のクリニックがある和歌山県新宮市は都会とは言えず、通ってくださる患者さんは車で来院される方がほとんどです。オンラインであれば自宅にいながら診療が受けられるので、その必要もなくなります。体調が悪いなか外出する必要がないことは、患者さんにとって大きなメリットでしょう。
やはり、コロナ禍は大きな転換点となりました。当時、感染者数の拡大により高度医療機関の病床が逼迫していることを受けて、民間病院でもコロナ患者の受け入れが求められていました。そうなると、かかりつけの患者さんからは「感染が心配なのでクリニックに行きたくない」「通院回数を減らしたい」という相談が寄せられます。家にいるより感染のリスクが高まりますから、患者さんの不安はごもっともです。全国で緊急事態宣言が出され、外出自粛の呼びかけもされていましたので、患者さんの声に応えるかたちで、なかば仕方なくオンライン診療を導入することにしたのです。
みんなにメリットがある仕組みはないかと考えた
――積極的な理由でオンライン診療を始めたわけではなかったのですね。</span >
鈴木先生:はい。そのような流れで始めたので、当初は長く続けるつもりはありませんでした。コロナがいずれ収束して通常通り外出するようになったときに、オンライン診療を続けるべきか、疑問があったのです。
そんななかで、政府も医療のDX化を進めていました。オンライン診療を推奨したり、マイナンバーカードで医療情報を共有できる仕組みを整えたり、また、リフィル処方箋を普及させることで医療の効率化も図っています。医療のDX化自体は便利なものだと思いますが、クリニックの経営者としては複雑な思いがありました。オンライン診療を増やすとクリニックが得られる利益は減ってしまいますし、リフィル処方箋を導入すると患者さんは1回の処方で最大3回まで薬の受け取りが可能になりますから、ますます患者さんの足は遠のきます。実際に、オンライン診療やリフィル処方箋の導入に積極的ではない開業医の方も多いのではないかと思います。
――医師の側にメリットがないのであれば、オンライン診療に踏み出せない気持ちもよくわかります。</span >
鈴木先生:政府はオンライン診療を普及させたい、患者さんのニーズも高い、しかし医師の腰は重い……。非常にアンバランスな関係が生じているなかで、私はこれを解決するビジネスモデルはないかと考えました。
一番の課題は、オンライン診療は今言ったような理由で、医師にとってメリットがないことです。裏を返せば、医師の収益が減らなければみんなにメリットがあることになります。診療報酬の点数そのものは制度で決まっているので変えることはできません。「オンライン診療をしても診療報酬は減らない」ようにするにはどうすればいいのか……。そのとき私は、対面診療の代わりにオンライン診療を行うのではなく、医師の手が空いたときにプラスアルファでオンライン診療を行えばいいのではないか。つまり医師がしっかり稼げる仕組みさえ作れば、オンライン診療で幸せになる人が増えると思いついたのです。
「イシャチョク®」について
「イシャチョク®」は、豊富な医療コンテンツをお届けするメディカルプラットフォームです。病院(クリニック)情報の検索機能や、オンライン診療システムの提供、医師インタビュー記事の掲載などを行っています。会員登録をしていただくことで、クリニック経営、医師ブランディングに役立つ豊富なコンテンツをご利用いただけます。
・クリニック情報を発信したい
・オンライン診療システムを導入したい
・自分が取り組んでいる医療を世の中に広めたい
など、豊富な医療コンテンツで病院やクリニックをサポートします。
鈴木幹啓先生プロフィール
株式会社オンラインドクター.com代表取締役社長CEO、日本小児科学会認定小児科専門医。
2001年自治医科大学卒業後、三重大学小児科入局。国立病院機構三重中央医療センターや国立病院機構三重病院、山田赤十字病院にて僻地での小児科診療や小児救急に携わったのち、2010年に和歌山県新宮市で「すずきこどもクリニック」を開業。人口およそ3万人の市で年間4万8000人もの患者が来院する「日本一忙しい小児科医」として一躍有名に。2020年、株式会社オンラインドクター.comを設立。医療機関・薬局・保険と患者をオンラインでつなぐプラットフォームを運営、BtoCウェルネスメディアを同時展開。