医師免許を取れば、一生安泰だ。
そう周りには言われていましたし、僕も昔はそう思っていました。
それなりの生活をする事は常にできる、大した努力をしなくてもお金に余裕のある生活ができる。そう思っていました。
しかしながら時代が移り変わり、必ずしもそうとも言い切れない状態になりつつあります。
今回はそんな、医学生が知るべき「医師免許にまつわる不都合な真実」についてです。
1、医師の需給は近い将来バランスが崩れる
医師が不足していると言われ、医学部の定員増加を開始してから10年以上が経過し、順調に毎年医師数は増加していっています。
しかしながら、日本は人口減少が予想より早く進行しており、結果的に医師の需給バランスが想定よりも早く均衡しそうだとする資料があります。
資料によれば
・早ければ2028年に医師の需給は均衡
・2033年までには均衡すると予想
医師の需給推計結果―厚生労働省≪https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000203368.pdf≫
されています。
つまり、あと5〜6年程度で、医師は需要を上回る供給量が投入されてしまうというわけですね。
この厚生労働省の推計データを、見た事がないという医学生の方も多いのではないでしょうか?結構、衝撃的な推計データですよね。
つまり極端な事を言えば、今の時点での医学生が医師免許を取得し、初期臨床研修を終えた頃には、もう既に医師の需給バランスが崩れ始めているタイミングであり、これは「医師免許を取れば一生安泰だ」という仮説に対してネガティブな要素の1つと言えます。
しかしながら人口動態については自然現象であり、確実に訪れる未来を表していますから、避けるのは不可能だと思われます。
2、過疎地域では、既に医師が余っている
実際、2022年現在において、過疎地域において医師が余り始めている事がわかるデータがあります。
都道府県別にみた人口10万人対医師数
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/20/dl/R02_1gaikyo.pdf
これを見ると、東京や京都、福岡などの都市部を除いて、医師が相対的に多い地域は
・鳥取
・島根
・高知
・徳島
・和歌山
・長崎
などです。
これらは日本の中でも、人口減少と過疎化が進行しているエリアであり、人口あたりの医師数が増加している理由は「人口そのものが強烈に減少しているから」と、言えるでしょう。
これも「医師免許を取れば一生安泰だ」という仮説に対しては、ネガティブに働きます。
少なくとも、エリアを選ばなければ医師として働けない可能性がある、もしくは働けても給料が低い、そういった場所が既に日本にあるという事は、認識しておくべきです。
3、総合病院は集約化し、人材整理が進行する
かねてより日本の医師不足の根源は、病院の多さだと言われてきました。
人口あたりの医師数は他国並みであるにも関わらず、圧倒的に医師の需給が崩れている理由の1つが、病院が多く人材が散ってしまい、効率的に診療行為に医師が充てられていないという事です。
これを受けて、厚生労働省は病院の集約化に動き始めます。
具体的には、小規模で機能効率の悪い424病院を名指しでリスト化※、大人しく吸収されなさいと提示したのです。※≪https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000551037.pdf≫
これにより国としては
・空きベッド数を縮小、病院の固定費を削減
・病院の経営を改善
・医師を含む人材を1つの大きな病院に集中、効率化
・それによる人件費の削減、結果的な医療費の削減
を行おうとしています。
病院数が減ると、なぜ医師の仕事口が減るのか?という話ですが、これは極めて単純です。
10の病院に2人ずつ、合計20人の医師がいるとして、1つずつの病院で受けられる患者の数が、仮に50だとしましょう。そうすると、患者数は500人受ける事ができます。2人で50人を診るわけですが、おそらくそれには暇な時間もあったり、1人の医師が色々な雑多な作業をやらなければならなかったりと、労働効率性において非効率な点がたくさんあります。
これを2つの病院に集約し、250人ずつの患者を割り振るとします。医師数が変わらなければ、10人ずつの医師が配属されますが、事務作業員を別で雇用して、徹底して医師にしかできない仕事を医師にしてもらい、なるべく医師に暇な時間を与えずにノンストップで医療行為に時間を使ってもらいます。簡単にいうと、馬車馬のように働いてもらいます(笑)
そうすると、本来であれば10人の医師で250人を診ていたのが、8名くらいでできたりします。これが集約化による労働効率性の上昇です。
そうすると、患者数は減っていって、総合病院の数も減りますから、医師の席はドンドン減っていきます。
これも「医師免許を取れば、一生安泰だ」という仮説に対しては、かなりネガティブな要素です。
しかしながら、国の意向であり、なかなかこれを止めるのは難しいと思われます。
最後に
いかがでしたか?知らなかった…という方も、結構いらっしゃるのではないでしょうか。
重要なのは「正しい危機感を持つ」という事です。パニックになって突発的な行動をするのではなく、上記の事実を受け入れた上で、どう動くか?自分で考えて、自分で道を切り開く。
これが、これからの日本の医師に求められる事ではないでしょうか。
▼著者
大石龍之介
株式会社ブルーストレージ代表取締役。医師としてクリニックに勤務しながら、不動産投資家としても活動している。