お医者さんは、忙しい職業です。
時にはプライベートを犠牲にしても、患者さんを助けなければいけない時があります。
なぜなら患者さんがいくら他人とはいえ、患者さんの命や健康、体の機能が損なわれようとしているのですから。自分のプライベートの時間と、他人の命や健康。天秤で重さを測る方が、おこがましいような気がしてしまいます。
そのような職業だからこそ、周囲や社会から尊敬され、日常的に「先生」と呼ばれる存在でもあるわけです。
しかしながら、実際は医師が「忙しさ」とバランス良く向き合うのは、難しい事のようです。
1、真面目な医師ほど「家族と仕事のバランス」を崩す
僕の知り合いの先生で、非常に真面目な先生がいらっしゃいました。
出勤する必要のある日ではなくても、出勤し患者さんに顔を見せる。少しでも変化が無いか、逐一見て回って何かが起こりそうであれば先手を打っておく。
まさに医師としては理想の存在。
しかしながら、彼は家族との関係がうまくいっていませんでした。
真面目であるがゆえに、仕事に打ち込み、目の前の患者さんを助ける事に全力を尽くす一方で、家族との時間は減っていき、父親としての役割を果たす事ができなかったのです。
昔はそれで、良かったのかもしれません。しかし今は時代が違います。核家族が主体となった世の中、家庭に父親が不在だという状況は家族にとって大きな影響を与えます。
その先生も少しずつ家庭に居にくくなり、家庭から逃げるように病院へ出勤していた部分も、あったようです。
こうなってくると、負のスパイラルに陥ってしまいます。
仕事に打ち込む、家族との時間が減る、家庭に居場所がなくなる、家庭から逃げるように仕事に打ち込む…以下エンドレスです。
結果的にその先生は、お子さんが成人した段階で離婚されてしまい、孤独の身となってしまいました。
2、医師の代わりはいる、親はあなたしかいない
責任のある大人であれば、誰しも役割、責務があります。
職場での医師としての役割。家庭での親としての役割。
どちらが重要とか、どちらにより傾くべきとか、そういった話はこの場では省きます。なぜならそれらは、考え方次第で全てが正解だからです。
例えば、医師という仕事に情熱を燃やし、家庭はいらない。これも1つの考え方です。
しかしここで考えたいのは、役割の重要性ではなく、代替可能性についてです。
極端な話をすれば、仕事上の代わりというのは、いくらでも存在します。替えの効かない人材なんてこの世にいません。
Apple社のスティーブ・ジョブズでさえ、重要な存在ではあるものの、亡き後もフツーにAppleは業績を伸ばし、拡大しています。
完成された組織において、替えの効かない役割なんてものは、何1つとしてありません。必ず何とかなります。
一方で、家庭における親という存在は、唯一無二の存在です。
代替可能性という点においては、替えの効かない人材だと言っても良いでしょう。
親という役割は、あなたにしか担えない役割なのです。
3、医師の「忙しくても家族はわかってくれる」は、傲慢
僕の周りの優秀で真面目な医師ほど、必ずこういいます。
「確かに家庭には中々帰れていないけど、僕は患者さんの命や健康を救うという、非常に重要な仕事をしている。社会にとってもなくてはならない仕事だと思う。」
「きっと家族は、それをわかってくれている。忙しくて家族との時間はほとんど取れていないけど、きっと許してくれる。」
この考え方は、傲慢で独りよがりです。
そもそも、家族形態によってもこの許容度は異なります。奥さんや旦那さんが、そんなに忙しくなく、もしくは仕事をしておらず、かつ奥さんや旦那さんの地元で友達もいて、その親も近くにいて子育てを手伝ってくれている。そのような状況であれば、確かに多少は家を留守にしていても問題無いかもしれません。
しかし一方で、医師側の転勤についてきてくれて、友達もおらず、自分自身もパートなどの仕事をしていて、親の援助を受けられないとなると、許容度は低いでしょう。
家族に「忙しくても大丈夫だよね?」と押し付けるのではなく、状況と許容度に合わせて、話し合いながら折衷案を模索していく事が、現実的な解決策です。
4、子供は仕事の重要性を理解できない
小さい子供は、親の仕事の重要性を理解できません。
大昔であれば、マンモスを狩って持ってきてくれる、みたいな「子供でも理解しやすい仕事」だったのかもしれません。しかしながら現代、パソコンをカタカタ打つ、みたいな仕事内容を子供は理解できません。
逆に子供がそれらを理解するくらいになった時は、もう大分大人びていて、親としての役割も変わってきてしまっているでしょう。
そう、子供が「子供」でいる時間は、本当に短いのです。
5、子供との時間は、本当に少ししかない
人の一生は、何週間だと思いますか?
直感で答えて下さい。
数万、数十万くらいかな、と思う方も多いのでは無いでしょうか?
実際のところは、4000週間くらいです。
そのうち子供が「子供」でいてくれる、小学校に上がるくらいまでの時間は、たった6年です。300週間くらいですね。
仮に、子供と週末を過ごせるのが、2週間に1回だとするならば、150週間しか、子供と過ごせる時間は無いのです。たった、150回です。
子供との時間は、本当に少ししかありません。時間は止まってくれません。その事実を知った上で、自分はどうするべきなのか、考えるべきです。
おわりに
いかがでしたか?
忙しいという漢字は、心を亡くすと書きます。昔の人は、よく言ったものですね。
あまりに仕事に忙殺されて、心を亡くしていませんか?一度踏みとどまって、よく考えてみる事も、必要かもしれませんよ。
▼著者
大石龍之介
株式会社ブルーストレージ代表取締役。医師としてクリニックに勤務しながら、不動産投資家としても活動している。