前回の記事<変化する時代と、キャリア別の「専門医」の価値>では、専門医の必要性と、キャリア別のその価値についてお話しました。
勤務医を続けるなら必要だし、開業医になるなら専門性よりも、サービス業としての価値を高めていく方向が効率的だよねという話でした。
さて今回は「結局若手は、専門医を取れば良いの?どっちなの?」という話について、考えていきたいと思います。
最終的なキャリアが決定していれば、前回の記事の内容だけで簡単に決断できたと思います。
しかし、普通は「勤務医か開業医か」なんて、まだ決まっていない若手医師の方が多いわけで、やりながら考えていくのが一般的ですよね。
思考を整理していきます。
専門医機構のシーリングと、地方労働の強制
若手医師でアンテナ貼っている方はご存知だと思いますが、専門医機構が専門医更新の条件に「一定期間の地方労働の強制」を設ける可能性が浮上しています。
簡単に言えば「専門医維持したければ、たまに地方で数年働けよ」って事ですね。
これには背景があります。
まず、地方で働いてくれるお医者さんが足りないのを見て、国はシーリングというやり方を思いつきました。専門医を取得するのに、席数に制限を設けるというシステムです。
例えば眼科の定員が、都市部では100席あって、志望者が120名いたとすれば、20名はあぶれてしまうので、科を変えるか、別の席が空いている地方に行くか、どちらかを選択しなければならず、まあ科を変えるって事はないだろうという事で、地方に充足するんじゃないかという考えの元、作られました。
結論から言えば、これは大失敗で全然地方に医師は充足しませんでした。
あまりにもうまくいかなかったので、今度は専門医の更新に「地方労働」を条件としてつけて、なんとかして充足させようと躍起になっています。
なぜシーリングがうまくいかなかった?
なぜシーリングがうまくいかなかったか、という事については2つ説があります。
1つめは、抜け穴説。実際は都市部の医局に所属して、地方の関連病院に行かせて専門医の取得条件は満たしながら、一定期間だけ地方で働くシステムを採用した説です。実際、都市部の大きな医局であれば地方に関連病院がたくさんあるので、どうにでもできます。
2つめは、専門医取らない説。若手医師を筆頭に、専門医取得をせず、都市部で美容系にキャリアの舵を切った医師が増えて、結果的には地方の医師も増えるどころか減って、専門医機構のイスも空いているというパターンです。
おそらくこの2説のどちらも正しくて、両方少しずつ起こっているのだと思います。
時代にあった方法を、用意できなかった結果ですね。
専門医取得後の「地方労働」のメリット・デメリット
専門医取得後の「地方労働」のメリット・デメリットについて考えましょう。
メリットは、唯一「専門医」が取得できるという事です。前回の記事でもあったように、勤務医を続ける場合は専門医があった方が良いので、勤務医を続ける予定の医師は基本的にこのメリットを全員享受できるはずです。
逆に、親が開業医でもうすぐそこを継ぐ事になっている、みたいな場合は、どちらかといえば専門医の取得にリソースを注ぎ込むよりも、経営上のサービスを改善したり、スタッフのスキルや接遇を上げていくチームマネジメントにリソースを注ぎ込んだ方が、コスパが良いかもしれませんね。
デメリットは、いくつかあります。
最も大きいのは、地方で若い時間を過ごさなければいけない事への機会損失です。
結婚して子供がいる人ならば、たびたび引っ越すのは大変です。結婚していない人であれば、結婚する相手を探すのも大変になるでしょう。
またシンプルに「若くて吸収率が良い頃、あまり学べない」という、人生における成長のチャンスを失ってしまうというのも、大きな損失だと言えるでしょう。
専門医取得後の「地方労働」のメリット・デメリットは人による
こうやって考えると、特に結婚適齢期の女医さんなどは、結構デメリットが大きく感じられるのではないでしょうか。
逆に、地方出身で少しだけ地元に帰るのも別に悪くないかな、と考えている男性医師は、別にそんなに大きなデメリットを抱える事にはならなさそうですよね。
このようにメリット、デメリットは人によって大きく異なると思われます。出身地、結婚に対する考え方、歩みたいキャリアなど、複数の要素によってデメリットが重く感じるのか、そうでもないのかは変わってくるでしょう。
専門医取得後の「地方労働」はアリかナシか?
専門医取得による恩恵を受けるのは、一般的に「勤務医をずっと続ける予定の人」です。
ですので、上記をふまえると「勤務医をずっと続ける気はあんまりない」という女医さんは、専門医取得のメリットよりデメリットの方が上回ると思います。
それよりも、そんなバリバリじゃなくて良いから女として、1人の人間としての幸せも考えたいという方が多いのではないでしょうか?
一方で、勤務医コースが決定している男性医師は、基本的には地方労働してでも専門医取得コースに進む方が、メリットが大きいでしょう。
悩ましいのが、親のクリニックを継ぐけど、今すぐはつがない男性医師で、クリニックは都心にある場合、とかでしょうか。
この場合、正直専門医取得後の地方労働が課せられる前に、クリニックを継いでしまうという、時間を考慮した選択が良いきもしますね。
いかがでしょうか?あくまでここで記載したのは、ごく一部に過ぎません。色々な背景をお持ちの先生がいらっしゃいますから、目指すキャリアも色々で良いと思います。
何よりも重要なのは、自分がベストだと思う選択をする事です。
ご自身の置かれた立場、持っている要素、進みたいキャリア、ライフプラン、これらから総合的に判断して、ぜひベストな選択を選んで欲しいと思います。
▼著者
大石龍之介
株式会社ブルーストレージ代表取締役。医師としてクリニックに勤務しながら、不動産投資家としても活動している。