医師といえば、高所得な職業の代表です。しかし、勤務医のなかには「それなりに収入はあるけれど、手元にキャッシュが残らない……」と感じている人も多いのではないでしょうか。この記事の前半では、医師の出費を整理し、後半では出費をコントロールするための対策を解説します。
■ 医師の収入を吸い上げる出費とは?
一番の問題はムダ遣いをしている感覚がないのに、資産が思ったように増えないケースです。そこには、次のような出費が考えられます。
出費1:あまりにも重い公的負担
医師の収入を吸い上げる大きな原因は、所得税・住民税、社会保険料といった公的な負担です。日本は累進課税のため、収入が増えるほど公的負担が増していきます。
厚生労働省の「賃金構造基本統計調査(2019年)」を参考にすると、勤務医の平均年収は約1,000〜1200万円程度です。では、ここから実際にどれくらい公的負担が差し引かれているのでしょうか。酒居会計事務所の作成した「年収別手取り金額一覧」によると年収1,200万円の人の公的負担は次の通りです。
所得税:126万8,900円
住民税:82万4,300万円
健康保険料:68万3,844円
厚生年金保険料:68万760円
雇用保険料:3万6,000円
※あくまでも試算です。年度や家族構成などで負担額は変わってきます。
これらの公的負担を差し引くと「手取り額は850万円程度」しかありません。つまり350万円近くも公的負担で吸い上げられているのです。
出費2:気づくとかさむ生活費や交際費
ムダ遣いをしていないといっても、医師は一般のサラリーマンや公務員よりも高所得のため、本物志向になりやすいのではないでしょうか。車、洋服、外食、旅行などでワンランク上の選択をしているうちに、「気づくと出費がかさんでいた」ということはよくあることです。
また、冠婚葬祭、お中元・お歳暮、お年玉などにかけるお金も、高所得者に見合った金額になりがちです。年収から公的負担が引かれ、さらに生活費や交際費がかかるうちに、手残りはどんどん減っていきます。
出費3:一般家庭よりかかる教育費
医師であれば、「将来、子どもも医業へ進ませたい」と考えているケースも多いでしょう。「違う道でもいい」と考えている場合でも、「お医者さんの子どもだから勉強ができるのでしょう」という周囲のプレッシャーがあります。
こうした背景があるため、医師の子には教育費がかかりやすいです。お子さんが私立の小・中・高校に進んだ場合は、公立よりも教育費がかかります。加えて、塾代も負担です。さらに、私立の医学部への進学となると、数千万円以上かかることもあります。ご参考までに以下のデータは、医学部入学時の1年目の納入金です。
公立・私立医学部の【初年度】学費(納入金)平均額
入学金 | 授業料 | 初年度納入金 | |
私立医学部 | 132万9,032円 | 269万1,774円 | 728万4,392円 |
公立医学部 | 25万625円 | 54万450円 | 93万4,841円 |
※入学金+授業料=納入金ではありません。実習費なども含めた金額が納入金です。
出費4:意外にかさむ医学書の購入費用
とくに若手医師の負担になる出費としては、医学書(医学参考書)の購入費用もあります。
たとえば、日経メディカルのコラム記事で引用している若手医師アンケートでは、卒後3〜5年目の医師の約8割が1年に医学参考書を6冊以上購入しています。卒後6年以上でも、半数以上が1年に6冊以上を購入している結果でした。
医学書は一般書籍よりもかなり高額です。長期的に購入していけば、十万円単位、百万円単位になっていきます。
出費5:激務をカバーする生命保険料
3年ごとに行われている「生命保険に関する全国実態調査(平成30年度)」によると、世帯ごとの生命保険の加入率は88.7%と高水準です。なかでも勤務医は「長時間勤務が多い」「不規則な勤務形態が多い」など厳しい労働環境のため、健康への不安から手厚い保険に入っている先生も多いのではないでしょうか。
また、最近の保険の傾向としては、特約をつけることで保障が充実する一方、保険料が割高になりやすいです。こういった保険料の負担も、医師の収入を吸い上げている原因の1つと考えられます。
民間保険の特約の加入率(一部抜粋)
特約の種類 | 加入率 |
医療保険・医療特約 | 88.5% |
ガン保険・ガン特約 | 62.8% |
特定疾病保障保険・特定疾病保障特約 | 39.6% |
出所:(公財)生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査(平成30年度)」
■ 医師の出費をコントロールするための対策とは?
このような出費を放置すれば、いくら稼ぎ続けても、これから先、出世をして収入が増えてもきりがありません。そしてその結果、退職時の資産が少ない、あるいは、開業のための資金づくりが進まないといった将来になりかねません。記事の後半では、出費をコントロールする対策をご提案します。
対策1: 収支を「見える化」する
毎月の家計を見える化できれば、ムダ使いが洗い出しやすくなりますし、お金を出すときにいったん立ち止まる習慣もつきやすくなります。
ただ、お忙しい医師の方々からは「忙しくて家計を管理するヒマがない」との声も聞こえてきそうです。しかし最近では、スマホで手軽に収支管理できる家計簿アプリも多数リリースされています。こういったツールを活用すれば、短時間で手間なく収支を管理しやすいです。
対策2:ムダな定期コストを洗い出す
高所得の医師は、過度な節約をする必要はないと思います。だからといって、ムダな支出を放置するべきではありません。
ムダな支出で着目したいのは、継続的に支払う定期コストです。一例としては、通うヒマがないのに払い続けているジムや付き合いで入った団体などの会員費、あるいは、成績アップの成果が見られないのに収め続けている子どもの塾や家庭教師の費用などです。
また、利用頻度の低いサブスクリプションや読まないのに購読している新聞や雑誌なども見直すべきでしょう。
対策3:ライフイベントの出費は抑え気味に
冠婚葬祭やつきあいで払うお金は抑え気味にしましょう。出費しなかったぶんのお金を投資に回せば、複利効果によって元手のお金が利回りという新たなお金を生み出すサイクルが生まれます。
対策4:マネーリテラシーを高める
投資に興味のある医師も多いと思いますが、日々の仕事が忙しく「情報収集をしていない」「投資行動をしていない」という人も多いのではないでしょうか。だからといって、仕事が忙しいことを言い訳にしていたら、高所得であっても投資に活かせません。
投資は、リタイヤまでの残り期間が長いほど、複利効果で資産を増やせる可能性が高まります。投資の情報収集をする、行動を起こすことを後回しにせず、最上位の重要タスクにしましょう。
対策5:節税対策を組み合わせる
この記事の冒頭で見てきた通り、医師を苦しめる一番の出費は公的負担でした。勤務医が所得税を節税する具体的な方法としては、ふるさと納税などの寄付金控除、住宅ローン控除、セルフメディケーション税制、iDeCo(個人型拠出年金)があります。
また、不動産投資は、帳簿上の収支を赤字にすることで所得税節税をしながら資産形成ができます。ただし、収支が黒字になってしまう収益物件を買ってしまうと、逆に所得税が増えてしまいます。そのため、高所得者に節税スキームを提供することを得意にしている不動産会社を選ぶのがポイントです。
これらの節税対策は、単体ではなく組み合わせることで目に見える節税効果を実感できます。まずは、それぞれの内容やメリット・デメリットをチェックしてみましょう。
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