医学部部生のうち、親が医師である割合は私立大学で約半数、国立大学で約3割といわれています。しかし、医師の子どもであっても、地方在住の場合、「周りに進学校がない」「進学塾もない」「医学部を目指している学生も少ない」という環境の中で、全国の医学部受験生と戦わなくてはいけません。そんなとき、親はどうサポートするのがいいのでしょうか?
今回は、非医師家庭に育った私の体験談をもとに、親としてできることは何かお伝えしたいと思います。
スタートが遅れた自身の経験を活かして
私は現在、とある地方で小児科クリニックを経営しています。私の両親は医師ではなく、中卒ですが両親で力を合わせて自営業を営む姿を見て育ちました。
そのような環境だったので、医学部に進学したいと思っても、どのような勉強をすればいいのか、どのような入試方法があるのかも分からず、大変苦労しました。あのときこうだったらもっと近道できたかもしれない……と思うこともたくさんあります。
今回は私の経験をもとに、子どもを医学部に進学させるために必要だと考えていることを紹介します。あくまで参考として読んでいただけると嬉しく思います。
英語は早期教育が鍵!
医学部に進学するためには英語は必須科目ですから、小さい頃から始めるに越したことはありません。子どもは言語を学ぶ能力が非常に高いので、音や語彙、文法を自然に吸収することができます。英語教室、プリスクール、インターナショナルスクールなどに通わせ、早い段階から英語に力を入れることで、将来的に周りにも差をつけることになり、有利になることは間違いありません。
地方だからこそ、中高一貫校
私が何よりも苦労したのは、私自身を含めて周囲が医学部受験について何も知識がなかったことです。高校まで公立の学校に通っていたので、全国の医学部を目指す学生と比べてもスタートは大幅に遅れていました。
中高一貫校のメリットはたくさんあります。特に医学部受験の面では、独自のカリキュラムで進行するので余裕を持って大学受験に備えられる点と、学校全体として勉強するための環境が整っている点が挙げられます。クラスメイトや周りの友人と同じ温度感で勉強に励むことができるので、親が勉強を促さなくても自然と勉強する習慣が身に付きます。大学入試対策や進路指導などサポートが手厚いこともメリットです。
親の生活を変える覚悟が必要
しかし、誤解を恐れずに言うと、中高一貫校であればどこでもこのような環境があるわけではありません。やはり名門校と呼ばれる学校の方がレベルの高い教育を受けられますから、大学入試にも有利と言えるでしょう。定員割れしている学校よりも、競争率の高い学校に通わせた方が医学部合格の近道になることは確かです。
地方にも名門校はありますが、都心のように毎日電車やバスで通うことが難しい場合があります。その場合は子どもを寮に入れたり、片方の親が学校の近くに住んでサポートしたりするなど、これまでの生活を変える覚悟が必要です。子どもを本気で医学部に進学させたいのであれば、そこまでしてでも中高一貫校に進学させることが、地方に住む親の役割だと考えます。
子どもを本気にさせる、親の働きかけのコツ
あえて子どもの前で先生にお願いして、親の本気度を見せる
私は、三者面談などの場では、あえて子どもがいる前で「どれだけ費用がかかってもいいから医学部に合格させてくれ」と先生にお願いするようにしています。予備校だと医学部に特化したコースや特別講習が用意されていることがありますが、それも「合格させるためならすべて受けさせてください」と子どもの前で言うようにしています。
これは先生を困らせるために言っているのではなく、子どものモチベーションを上げるためです。私の経験になりますが、私の両親はどちらも医師ではなかったので、浪人する余裕も、私立の大学に通う余裕もありませんでした。しかし、そのおかげで親に迷惑をかけられないという気持ちが強く、医学部に合格することができたのです。
特に医師の家庭であれば、医学部進学のためにお金をかけることは当たり前だという認識があって、学校や進学塾に任せっきりになっていることが多くあると思います。経済的に余裕があるからこそ、しっかりとお金のことを意識させ、何としてでも合格しないといけないという気持ちにさせることが重要です。
浪人は「2浪まで」と期限を決める
医学部は競争が激しく、合格難易度も高いため、浪人を選択するケースもあるでしょう。特に、医師の家庭であれば何年も予備校に通わせられる経済的余裕もあるので、ズルズルと何浪もしてしまうという悪循環に陥ってしまうケースもよく見聞きします。
個人的な意見としては、浪人できる年数の目安は2年と考えておくべきです。「浪人の年数が重なると合格に不利だ」と明言している大学はありませんが、浪人期間が長いと高校や予備校で学んだ知識はどんどん古いものになっていくので、現役合格生と肩を並べるのが難しくなります。指導要領の改定などで下の世代と学習内容が異なると、これまで学習してこなかったことが試験内容に含まれてしまうこともあり、年数を重ねることが不利に働きます。
そもそも、長期間受験のプレッシャーや不安に晒されると、本人のモチベーションも下がってしまいます。地方だと周りに浪人している人の割合も少ないため、都心の予備校ほどの熱量で受験勉強に取り組めない可能性もあります。あらかじめ「2浪までが勝負だ」と伝えておくことで、浪人をしたとしても危機感をもって臨む環境をつくることができると考えます。
子どもを医学部に進学させるためには親の働きが肝心
子どもが医学部に進学したいと望むのであれば、叶えてあげたいのが親というものです。そのためには勉強するための環境を整えてあげることや、子どものモチベーションを維持することはとても重要です。
時には厳しい言葉をかけたり、子どもと離れて過ごさなければならなかったり、苦労も多くあるでしょうが、その先に輝かしい子どもの未来があると信じています。
私のやり方がすべてとは言いませんが、少しでも地方で子育てをしている医師の皆さんの参考になれば嬉しく思います。