勤務医が法人化を検討する機会が増えています。しかし、法人化にはメリットとデメリットが存在します。
本記事では、勤務医が法人化を考える際のポイントや注意点について詳しく解説します。
目次
勤務医の医療法人化とは
勤務医が法人化するというのは、個人で行っていた医療業務や収入を法人として扱うことを指します。
日本では、医師が医療法人として法人化することが一般的で、税制上の優遇措置や資産管理の柔軟性を得られる点が大きな特徴です。
法人化を通じて、収入や経費を個人ではなく法人として処理できるようになり、節税や資産の分散管理、将来的な相続におけるリスク軽減が期待されます。
医師が法人化を検討すべきタイミング
医師が法人化を検討するタイミングとしては、年収が一定以上になった場合や、将来の資産運用や相続対策を考え始めた時期が挙げられます。
具体的には、年収2,000万円を超えるような勤務医の場合、法人化によって節税メリットが大きくなることが多いです。
また、医師としての活動だけでなく、講演や執筆、コンサルティング業務を展開している場合には、法人化を通じて効率的な資産運用が可能になります。
勤務医が法人化するメリット
勤務医が法人化する主なメリットは以下のとおりです。
- 節税効果の高さ
- 資産管理がしやすい
- 相続税対策にも有利
それぞれのメリットについて詳しく解説します。
節税効果の高さ
勤務医が法人化する主なメリットの一つは、節税効果の高さです。
個人の所得税率は累進課税制であり、年収が高くなるほど税率も上がりますが、法人化によって法人税や役員報酬の形で所得を分散できます。
さらに、法人を活用することで経費計上が可能となり、所得控除の幅が広がり、節税効果がより高くなる場合があります。
資産管理がしやすい
医師としての業務だけでなく、資産運用を考える場合にも法人化は効果的です。
個人の収入や資産とは別に法人としての収入や資産を管理できるため、経営の自由度が高まります。
例えば、不動産投資や金融資産の運用を法人名義で行うことによって、リスク分散や税制上のメリットを受けられます。
相続税対策にも有利
将来的に資産を親族や後継者に引き継ぐ際、法人化は相続税対策としても有効です。
個人の財産は相続時に高い相続税が課されますが、法人名義の資産を相続する場合には、税負担を軽減するための対策が取りやすくなります。
医師として得た収入や資産を効率的に後継者に引き継ぐことができるため、相続の際の負担を軽減することが可能です。
勤務医が法人化する際のデメリットと注意点
法人化する際は以下のようなデメリット・注意点があります。
- 法人設立や運用にかかるコスト
- 複雑な会計・税務処理
法人設立や運用にかかるコスト
法人化には、初期費用や継続的な運用コストが発生します。法人設立時には登記費用や専門家への報酬が必要であり、法人としての運営には定期的な会計処理や税務申告も伴います。
法人設立の手続きには時間と費用がかかるため、長期的な視点でメリットとコストを比較しながら法人化を検討する必要があります。
勤務先への相談が必要
勤務医が法人化を行う場合、勤務先との相談が必要になるケースがあります。
※医療行為に対しての報酬は法人で受け取ることは原則できません。
特に、公的機関や病院に勤務している医師は、法人化の際に勤務先の就業規則や契約内容に基づき、許可や同意が求められることが多いです。
そのため、事前に勤務先と十分に話し合いを行うことが重要です。
複雑な会計・税務処理
法人化を進めると、個人事業主に比べて税務処理が複雑になります。
法人税や役員報酬の処理、消費税の申告など、多くの手続きが必要となり、会計士や税理士のサポートを必要とすることが一般的です。
会計・税務処理の手続きが個人事業に比べて手間がかかるため、運営にかかる負担を事前に考慮しておくことが大切です。
勤務医が法人化する際の具体的なケース
勤務医が法人化する際の具体的なケースとして以下の3つのパターンを紹介します。
- コンサルティング業務の法人化
- 資産管理会社の設立
- 原稿執筆や講演業務の法人化
それぞれのケースについて詳しく解説します。
コンサルティング業務の法人化
勤務医が病院での勤務に加えて医療コンサルティング業務を行う場合、法人化を進めることでコンサルティング業務に対しての収益の管理や経費の計上がより効率的になります。
また、法人を設立することで、コンサルティング業務の運営が自由度の高いものとなり、経営の幅が広がります。
資産管理会社の設立
資産管理のために法人を設立するケースもあります。
医師としての収入を資産運用に充てる場合、法人を利用することで不動産や金融資産の管理が効率的になります。
税制面での優遇措置も受けやすくなるため、リスク分散と同時に資産の成長を図ることが可能です。
原稿執筆や講演業務の法人化
医師としての知識を活かし、執筆や講演活動を行っている場合、それぞれの業務を法人化することで、収入を法人の経費として処理できます。
具体的には講演会場までの交通費や、自宅で執筆する際にかかった光熱費などを経費として計上可能です。
経費として計上できる範囲が広がることにより節税効果も高まるため、すでに副業で原稿執筆や講演を行っている医師は法人化の検討をおすすめします。
医師が法人化する流れ
医師が法人化する流れを5つのステップで紹介します。
- 法人化の目的を明確にする
- 法人形態を選定する
- 法人設立の準備を進める
- 法人の登記手続きをする
- 必要な許可や届出を行う
それぞれの流れについて詳しく解説します。
法人化の目的を明確にする
まず、法人化を行う目的を明確にすることが重要です。
節税や資産管理、相続対策を目的とするのか、医療以外の業務展開を考えているのかをはっきりさせましょう。
目的に応じた法人形態を選定するためには、専門家の意見を聞くこともおすすめです。
法人形態を選定する
法人形態としては、医療法人や株式会社があります。医療法人は医療業務に特化した法人形態で、診療所や病院の運営に適しています。
医療業務以外のビジネス展開を視野に入れる場合には、株式会社を選択することも考えられます。
また、MS法人(メディカル・サービス法人)も選択肢として存在します。MS法人は法律上の区分にある「法人格」ではなく、株式会社などの法人が医療系サービスを行う際に使われる名称で、医療法人の補完的な役割を果たします。
経営と診療を分離でき、医療法人ではできない不動産賃貸事業や、売店運営など、営利事業を行える法人です。
一般的な法人(株式会社や合同会社)と同じ扱いになりますので、株式や社債を発行する資金調達や、株主への配当なども可能なため、事業を拡大したい医師には有効な選択肢となるでしょう。
法人設立の準備を進める
法人を設立するためには、定款の作成や資本金の準備が必要です。
医療法人の場合、都道府県知事の許可を受けるための基準を満たすことが求められます。
また、設立後は登記や税務署への届出などの手続きを進めます。
法人の登記手続きをする
法人の定款が整ったら、法務局にて法人設立の登記を行います。
登記が完了すると、法人としての運営が正式にスタートします。
登記後には、必要な許可や届出を行い、事業を本格的に開始することが可能です。
必要な許可や届出を行う
医療法人として診療を行う場合、都道府県知事の許可が必要となります。
また、法人としての税務処理や社会保険への加入といった手続きを完了することで、法人としての活動をスムーズに進められます。
まとめ
勤務医が法人化を選択することで、節税効果や資産管理の柔軟性、相続対策など、多くのメリットがあります。
一方で、法人設立にかかる費用や勤務先との調整、税務処理の複雑さといった注意点もあります。法人化の目的を明確にし、タイミングを見極めて進めることが、重要なポイントとなります。