いきなりですが、皆さんはLTVという考え方をご存知でしょうか?
投資の世界でLTVはLoan To Valueの略語で、資産価値に対する融資割合で、主に銀行が使う言葉です。
今回解説したいLTVは、残念ながらLoan To Valueではありません。投資の世界ではなく、マーケティングの世界、ビジネスの世界におけるLife Time Valueの概念です。
LTVとは
LTVとは、Life Time Valueの略語で、直訳すると「顧客生涯価値」です。意味としては、1人の顧客が、特定のビジネスに対する顧客として、一生でいくら使ってくれるか、という意味です。
わかりやすく言えば「顧客1人あたりの生涯払ってくれる金額」という事ですね。
例えば、毎日歯磨き粉って使いますよね?
歯磨き粉を、仮に1ヶ月に1回買うとして、1回300円消費するならば、年間12ヶ月×300円=3600円を、消費します。
仮に、自分で歯磨き粉を買うようになるのが実家を離れた年齢で平均20歳からだとして、80歳まで生きるならば60年間、年間3600円を支払う事になります。一生かけて、22万円弱を使うわけですね。
これが、LTV≒20万円、という概念です。
昨今、このLTVという概念が注目され、かなり重要視する企業も出てきています。
LTVが重要視される理由
LTVが重要視される理由は、2つあります。
1つは、ビジネス上かなり都合が良いという事です。
当然ですが、マーケティングをする上で、新しい顧客を捕まえるコストは、1回でも顧客になった事がある既存顧客を再度来店させるコストよりも、高くなります。
なんとなくイメージできますよね。常連とまでもいかなくても、年に数回くらいなら行くお店、皆さんもあるのではないでしょうか?
このように、無闇に新規顧客獲得にリソースを割くよりも、既存顧客に再来店を促したりして、ライフタイムバリューを上げる方がお金をかけずに売上があがるのです。
2つめは、人口減少です。
日本は人口減少が確実になっている国で、当然ながら国内の顧客に向けて事業を行っているのであれば、顧客の絶対数は減っていきます。
そんな中、顧客の数を増やそうとするのではなく、1人あたりの顧客単価を上げる、ライフタイムバリューを上げるという方針に、多くの企業が切り替えているのです。
今の日本では、ビジネスをする上でライフタイムバリューを考える事は、かなり合理的な選択になっているというわけです。
では、このライフタイムバリューを上げるためには、何ができるのでしょうか?
LTVを上げるためにできる事
ライフタイムバリューを上げるためには、ザッと3つの方法があります。
LTVを上げるためにできる事1、単価を上げる
ライフタイムバリューを上げるために、最も手っ取り早い方法は、単価を上げてしまう事です。
1000円だったメニューを、1500円に上げる。とても簡単ですよね。
ただし、当然ながらこの方法は、ほとんどのビジネスでは通用しません。
日本は長らくデフレで、価格が下がっていくのが一般的になり、顧客の脳に染み付いています。
実践として使うには、かなり特殊な状況じゃなければ難しいでしょう。例えば、そのエリアで自社しかできないサービスがある、とかですね。
ただその様な場面はかなり限られるので、実質的には次の2つの方法のどちらかから選ぶしかありません。
LTVを上げるためにできる事2、来店回数を増やす
ライフタイムバリューを増やす、もっとも一般的な方法は、来店回数を増やす事です。
1回5000円のマッサージを月1回してもらっている顧客に対して、メニューを7000円にすると顧客は離れて行きますが、例えば「昔よりも体が硬くなっています、最近疲れやすくないですか?月2回くらい通った方が良いかもしれません」と伝えて、2週間後の予約を取ったとしましょう。
そうすると、月5000円だったのが、2倍の1万円に変換されます。これが永続的に続けば、ライフタイムバリューは2倍になったことになります。
ライフタイムバリューを2倍にするために、単価を2倍にするのは難しいですが、来店回数を増やすのはそれほど難しくありません。
このように、来店回数を増やしてライフタイムバリューを上げるには、顧客との信頼関係が必要です。
顧客との信頼関係が全く無いのに、いきなり上記の様に言われてしまっては
「なんだかもっと来いって言われているみたいだな…推しが強くて苦手かも」
と、顧客は思ってしまうかもしれません。逆に信頼関係さえあれば
「この人は自分の体をマッサージして、長いから、きっと言っている事は本当だろう。実際に最近疲れやすいのは真実だし、もう少しマッサージに来る回数を増やしてみようかなあ」
と思うかもしれません。
半ば営業の様なアドバイスも、信頼関係があれば受け入れられるのが、人間ですから。
LTVを上げるためにできる事3、アップセルを行う
上記の例で、来店回数を増やす代わりに
「リラックス効果のあるアロマを追加できます、1回あたり500円で追加できますから、お試しでやってみませんか?」
と、1回の施術に対して追加でサービスや物を追加販売することで、単価を上げるのがアップセルです。これもライフタイムバリューを引き上げます。
単純に単価を上げる事とは異なるので、別の分類とさせて頂きましたが、事実上は単価を引き上げるための手法の1つに過ぎません。
おわりに
いかがでしたでしょうか?
普段、日本の保険診療に触れているだけだと、LTVという考え方には中々馴染みが無いかもしれません。
しかし、今のビジネスシーンでLTVがよく語られるようになったのも、事実です。
そしてこれからは、医療とも切っても切れない関係が生まれてくるでしょう。
(次の記事に続く)
≪現役医師連載シリーズ≫
▼著者
大石龍之介
株式会社ブルーストレージ代表取締役。医師としてクリニックに勤務しながら、不動産投資家としても活動している。