近年、「働き方改革」という言葉を耳にする機会が増えましたが、医師の世界でも自身のキャリアや働き方を見つめ直す動きが活発になっています。
その中で、自身の理想とする医療を実現するために「開業」という道を選ぶ医師は少なくありません。
しかし、開業は人生における大きな決断であり、綿密な準備が必要です。本記事では、医師が開業を成功に導くためのステップと注意点を徹底的に解説します。
医師が開業するメリット
開業には、勤務医では得られにくい2つのメリットがあります。
自由な診療
医師が開業する最大のメリットは、自身の理想とする医療を自由に追求できることです。
診療時間・方針・治療方法・医療機器の選定など、細部に至るまで自身の裁量で決定できます。
患者一人ひとりと向き合う時間を確保したり、最新機器を導入したり、専門特化型のクリニックを開設したりと、勤務医時代には制約されていた様々なことを実現できます。
これは、医師としての大きなやりがいにつながるでしょう。
高収入の可能性
経営手腕によっては、勤務医時代を大きく上回る収入を得ることも可能です。
診療報酬に加え、自由診療や予防接種といった保険診療外の収入源も確保できます。
ただし、収入は患者数や経営状況に左右されるため、安定には集患対策と経営努力が不可欠です。
医師が開業するデメリット
魅力的なメリットがある一方で、開業にはデメリットも伴います。
初期投資
開業には、物件取得費・医療機器購入費・内装工事費・運転資金など、多額の初期投資が必要です。
開業する際には銀行からの融資が有力候補となりますが、自己資金も必要となるため計画的に準備しておく必要があります。
また、融資を活用する場合は、返済計画も考慮に入れる必要があります。
経営責任
開業医は診療に加え、経営全般の責任を負います。
人事・経理・広報・法務対応など、経営者としての視点が求められ、スタッフの雇用や給与支払い、労務管理なども必要です。
仮に経営不振となった場合、経済的リスクと精神的な負担も大きくなります。
開業までの具体的なステップ
開業までの道のりは長いため、各ステップを着実に進めることが成功への鍵となります。
事業計画の作成
事業計画は、開業の羅針盤です。詳細な計画が迷いを減らし、方向性を明確にします。
計画時には、以下の点を考慮しましょう。
- 診療圏調査
- 診療科目
- 資金計画
- 収支計画
診療圏調査では、開業予定地域の人口動態(年齢層、性別、所得水準など)、競合医療機関、地域住民の医療ニーズなどを徹底的に調査します。例えば、高齢化地域では内科や整形外科のニーズが高いでしょう。
次に、どのような診療科目で開業し、どのようなコンセプト(「地域密着型かかりつけ医」、「専門クリニック」など)で運営するかを定めます。
そして、開業に必要な資金(物件取得費、医療機器購入費、運転資金など)を算出し、自己資金と融資割合、返済計画などを具体的に検討しましょう。
また、開業後の収支計画を立てておくことも大切です。開業後の患者数や診療報酬、経費などを予測し、収支計画を作成します。綿密な計画書を作成すれば、経営の持続可能性を評価できます。
物件選定
クリニックの立地は集患に大きく影響します。
立地条件を考える際には、駅やバス停からの距離、駐車場の有無など、患者のアクセス性を最優先に考慮します。
周辺の競合医療機関や地域住民の属性も重要な判断材料です。例えば、ファミリー層が多い地域では小児科や皮膚科のニーズが高い可能性があります。
また、開業する物件にはテナントビル、戸建て、医療モールなど、様々な選択肢があります。
それぞれのメリット・デメリット(例:テナントビルは初期費用を抑えられる分自由度が低い、戸建ては自由度は高いが初期費用がかかる)を比較検討し、自身の診療スタイルや資金計画に合った物件を選びましょう。
資金調達
開業資金は高額になるため、融資の活用も視野に入れる必要があります。
融資には、日本政策金融公庫や銀行融資、医療機器リースなど、様々な方法があります。金利・返済期間・担保の有無などを比較検討し、最適な融資プランを選択しましょう。
また、国や自治体の補助金・助成金制度を活用できる場合があります。事前に情報収集し、申請準備を進めることで、資金調達の負担を軽減できる可能性があります。
医療機器・備品の選定・購入
診療に必要な医療機器や備品を選定し、購入またはリースします。
リースは初期費用を抑えられますが、長期的に見ると購入よりもコストが高くなる場合があります。使用頻度や耐用年数を考慮し、最適な方法を選択しましょう。
人材採用
クリニック運営を支えるスタッフの採用は、開業後安定した経営において重要なポイントです。
スタッフを採用するには、求人サイト・紹介会社・ハローワーク・地域の医療機関からの紹介など、様々な方法があります。
採用後は、教育体制を整えることで、質の高い医療サービスを提供できます。
各種手続き
開業には、保健所への開設届や税務署への開業届、保険医療機関指定申請など、様々な行政手続きが必要です。
スムーズに進めるためには、事前に必要書類や手続きの流れを確認しておきましょう。
内装・外装工事
患者が安心して受診できる、清潔で快適な空間作りが重要です。
高齢者や体の不自由な方にも配慮した、バリアフリー設計を心がけましょう。
また、待合室や診察室の配置など、患者のプライバシーに配慮することも重要です。
集患対策
開業後の安定経営には、効果的な集患対策が大切です。具体的には以下のような方法があります。
- ホームページ作成
- Web広告
- 地域住民への周知
Webを活用した集患対策も重要ですが、内覧会の開催や地域イベントへの参加といった、地域住民にクリニックを知ってもらう機会を作るのも有効です。
開業でよくある失敗例と対策
開業には様々なリスクが伴います。よくある失敗例とその対策を知っておくことで、リスクを最小限に抑えられます。
資金計画の甘さ
十分な資金計画を立てずに開業し、資金繰りに苦労するケースは少なくありません。
特に、初期費用の見積もりが甘く、後になって追加費用が発生したり、運転資金が不足したりするケースが多く見られます。
予期せぬ事態に備え、十分な運転資金を確保しておきましょう。
専門家(税理士、中小企業診断士など)に相談し、客観的な視点から資金計画をチェックしてもらうのも有効です。
融資を受ける場合は、複数の金融機関に相談し、金利や返済条件を比較検討しましょう。
立地選定の失敗
十分に調査せずに立地を選定し、集患に苦労するケースもよく見られます。例えば、競合医療機関が多い地域に出店してしまったり、患者のアクセスが悪い場所に開業してしまったりするケースなどが挙げられます。
開業を検討する際には、診療圏調査を徹底的に行い、地域の医療ニーズや競合状況を把握することが重要です。
人口動態・年齢層・所得水準・交通アクセス・周辺環境などを考慮し、最適な立地を選定しましょう。
地域の不動産業者やコンサルタントに相談し、情報を収集するのも有効です。
集患対策の不足
開業後の集患対策を怠り、患者が集まらないケースもあります。
特に、ホームページ作成やWeb広告などの情報発信が不足している場合、地域住民にクリニックの存在を十分に知ってもらうことは難しいでしょう。
開業前から集患対策を計画的に実施することが重要です。
患者さんの口コミや紹介も重要な集患手段となるため、患者満足度を高める努力も怠らないようにしましょう。
医師が開業に関するまとめ
開業は、単に医療を提供する場を作るだけでなく、経営者として組織を運営していくことでもあります。
そのため、医療知識だけでなく、経営に関する知識も習得していくことが重要です。
開業後も常に学び続ける姿勢を持ち、最新の医療情報や経営ノウハウをアップデートしていくことが、長期的な成功につながります。
もし、開業に関して不安なことや疑問点があれば、専門家(税理士、中小企業診断士、弁護士など)に相談することをお勧めします。
専門家のアドバイスを受けることで、よりスムーズに開業準備を進められるでしょう。