安倍元総理の銃殺事件は、かなりショッキングな内容でした。
昨今は政治家だけでなく、下記のように医師が殺害・攻撃される報道が急激に増えてきているように思います。
引用:NHK「安倍元首相銃撃 真後ろに気取られ斜め後ろの容疑者に気付かず」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220715/k10013718331000.html
医師が殺害・攻撃される時代、自分の身を守るために医師ができる事は、一体何なのでしょうか?
医師患者間、トラブルの元は「感覚の相違」
あらゆるトラブルでそうですが、意見が食い違う事、互いに思っている事が違う事が、概ねはトラブルの原因です。
・話が違う
・聞いてない
・こんな事になるなんて知っていたらやらなかった
など、患者さんからの発言があれば、トラブルの火種になり得ます。
ここで重要になるのがIC、インフォームドコンセントです。ただ最も難しいのが、例えば
5%の確率で、こんな事が起こります
と医師が説明したとしましょう。一見すると、数学的で丁寧な説明に見えますが、これでは十分トラブルの火種をつぶせているとは言えません。
なぜならば、患者さんが「その確率を体感としてどう受け取っているか」は、わからないからです。患者さんの理解度は、測定できません。
ですから、5%という説明だと多少不十分で、そう言うよりは「5%、つまり20人に1人の確率で起こります」と説明した方が、より多くの人に「体感としての5%」を理解してもらいやすく、結果的には「聞いていなかった」を減らす事ができるでしょう。
世の中の患者さん、全員が医師のようなエリートではありません。説明する側からすれば、ロジカルにわかりやすく説明していたとしても、患者さんが腹落ちしていなければ、後々トラブルの際の「聞いてない」に、つながりかねないのです。
特に確率に関しては、心理的なバイアスとして確率荷重関数が存在しています。
これは極端に低い確率を高く見積もったり、高い確率を低く見積もる心理バイアスの事です。簡単に言えば、人は確率的にゼロに近い宝くじの当選を夢見て宝くじを買いますが、確率的にまあまあ高い自動車の死亡事故は想定せずに車の運転をします。
医師―患者間においても、同様の現象が起こります。
ものすごい重大な副作用の説明をして、その後に「確率的には0.1%、1000人に1人です」と説明すると、なんだか体感的にはもっと高い確率で起こるような、気がしてしまうのです。
逆に、それなりの可能性があるにも関わらず、大した事のない副作用を、低く見積もってしまうバイアスもあります。どちらかというとこちらの方が「聞いていない」につながるので、注意が必要です。
医師がカルテに書いて訴訟予防、では不十分
僕が初期研修医の頃は、よく
「訴訟予防のためにも、カルテはしっかり書け」
と上司に言われてきました。
カルテは公文書ですし、訴訟予防のためにカルテをしっかり書く事は重要です。しかしながら、患者さんとのトラブルを予防するという意味では、効果は限定的です。トラブルが起こった後では、役に立ちますけれど。
そう言う意味でやはり、最重要なのは患者さんに説明を受けて、腹落ちしてもらう事です。
訴訟予防ばかりに目がいって、ICが難解で形式的で、患者さんの腹落ちするような例えも交えず、単調で眠くなる説明を短時間で行い、カルテを書く事に一生懸命になっていては、訴訟が起こってからは強いかもしれませんが、トラブルは多くなってしまうかもしれません。
医師が殺害・攻撃されるのを予防するためにも、患者さんに腹落ちしてもらう事、これをより重要視するべきだと僕は思っております。
医師の「殺害・攻撃予防」究極の方法
医師が殺害・攻撃されるのを予防する、究極的な方法があります。
働かない事です。
働いても良いですが、対患者さんで診察や治療などを行わない。
こうする事で、物理的に医師が殺害・攻撃される事も予防できますし、そもそも接触がないのでトラブルに発展しようがありません。
これは究極的で極論だと思うかもしれませんが、絶対に効果的な自信があります。
では、働かないためにはどうすれば良いか?
資産形成です。資産を形成して労働を制限する事で、自分の命を守る事ができるのであれば、それは単純な資産形成よりも価値の高い事ではないでしょうか?
働かない、というのは極端だとしても、例えば週5日働いている生活を、週3に切り替えて、あとはサーフィンをするとかジムで筋トレしながらカフェを巡るとか、そういう事に時間を使っても良いと、僕は思います。
それだと収入が足りない、というのは理解できるので、資産の蓄積具合に合わせて、グラデーションのように労働時間を低減させていって、少しずつ別の活動にシフトしてみるのも、面白いかもしれません。
今は多様な時代です。医師免許を持っているからといって、医師しかしてはいけない理由なんて1つもありません。
会社を経営しても良いですし、お店を持っても良いですし、コーヒーが好きなら焙煎してみても良いと思います。
自分の命を守りつつ、自由な人生へシフトする。そのための道具として資産がある。こう言う考えも、選択肢の1つとしてアリではないでしょうか。
▼著者
大石龍之介
株式会社ブルーストレージ代表取締役。医師としてクリニックに勤務しながら、不動産投資家としても活動している。