国家資格をもつ専門職である医師は、比較的男女平等が進んでいる職種といえます。しかし、診療科や職場によっては男性優位な場所も多く、記憶に新しいところでは医学部入試における女性差別が発覚するなど、女性医師には特有の苦悩があるのもまた事実かもしれません。
このシリーズでは医療の現場で働く女性医師にインタビューを行い、就職先や専門医の取得など、「後戻りしにくい、人生において重要な選択」の局面で「どのような考えのもとで、その道を選び取ったのか?」について深掘りしていきます。
女性医師のみならず、医学生、ひいては医師全般にとって、「生きること・働くこと」を見つめ直すきっかけになれば幸いです。
たまたま選んだ麻酔科は、柔軟な働き方が叶えられる科だった
――松尾先生、本日はよろしくお願いいたします。まずは先生のこれまでの経歴について、教えてください。
松尾:2015年に浜松医科大学を卒業後、初期研修で沖縄県立南部こども医療センター2年間勤務しました。2017年からは東京医師アカデミーの豊島病院に1年ほど所属しました。その後はフリーランスの麻酔科医として働いていたのですが、妊娠・育休を経て、子供が3歳になった今は検診バイトや麻酔バイトなどを行っています。
――麻酔科を選択された際には、ライフプランなどは意識されたのでしょうか?
松尾:特にライフプランは考えておらず、純粋に自分の興味で麻酔科を選びました。研修医の時に、特に面白いと感じたのが麻酔科だったんです。たとえば、内科の場合だと、患者さんに対し薬を処方して、その後1~2カ月間かけて経過を見ながら薬を微調整していく……といった治療をしますよね。しかし麻酔科の場合、手術中にその場で患者さんのバイタルをコントロールしていきます。麻酔薬を入れた瞬間に血圧がすぐ反応するなど、自分の治療がリアルタイムで反映されるところに面白みを感じました。投与する麻酔によって術後の患者さんの状態が変わってくるところも興味深いと思います。手術が終わるときにうまく抜管できるか? 患者さんがどれだけ痛みなく起きれるか? など繊細な技術を求められるところにも、やりがいを感じます。
――松尾先生は現在、フリーランスの麻酔科医としてご活躍されていると伺いました。具体的にどのような働き方をされているのでしょうか?
松尾:現在は週に1回、麻酔科医のアルバイトをしています。それに加えて週1~2回、内科の外来や検診・美容系のアルバイトをスポットでやっています。主人も医師なので、主人のシフトと調整しつつ働くスタイルです。アルバイト探しは主に「MRT」というサイト、麻酔のバイトは「アネナビ!」を使っています。
――キャリアの比較的早い段階で、フリーランスとしての働き方を選ばれているのには、なにか理由があったのでしょうか?
松尾:理由としては、心臓麻酔にあまり興味を持てなかったことが大きいと思います。麻酔科の専門医を取得するには心臓麻酔の症例を数多く経験する必要があります。しかし、私は心臓麻酔に面白みを感じることができませんでした。個人的な意見ですが、心臓麻酔を行う際、個々の患者さんの疾患によって対応を変えるというよりは、どの患者さんにも同じような薬を流していくように感じられてしまって……。そういった理由で専門医を取得する道は選びませんでした。
また、フリーランスを選択した頃は結婚を考えていたこともありましたので、生活とのバランスを総合的に考えるとフリーランスが良いと判断しました。
女性医師にとって最適な結婚のタイミングとは?
――ご主人もお医者様なのですよね。出会いのきっかけを教えていただけますか?
松尾:豊島病院に所属している時に東京医師アカデミーの一環で三次救急を回っていたことがありました。3カ月間広尾病院に行っていたのですが、その時に主人が初期研修医として勤務していたのが出会いです。2018年の12月、28歳の時に入籍しました。
――結婚を望む女性医師の場合、学生時代や研修医の頃など若い頃に結婚するか、年齢を重ねてから結婚するかの二極化していると聞きますが?
松尾:医師は研修医の後に医局に入局する方が多いので、たとえば2年間の研修医を終えたタイミングで結婚して披露宴を行うとなると、「教授や上級医を招待しなきゃいけない」などといったしがらみがありますよね。そういったことに頭を悩ませたくないため、その前に結婚する方が多いのではないでしょうか。さらに専門医を取るとなればこなさないといけないプログラムも多く、結婚どころではなくなってしまうため、このタイミングに集中するのかもしれません。
女性の場合だと妊娠・出産を考えると専門試験が終わってからと考える方もいて、30代半ばになることも多いと思います。私の場合はそこまで意識せず、流れに身を任せた感じではありましたが、結果的にタイミングは良かったと思います。大学の同級生の中には今もまだ結婚してない人がいて、「今さら出会いがない」という話も聞きますね。
――選択する科によって結婚しやすい・しにくいということはあるのでしょうか?
松尾:麻酔科は結婚しやすい科だと思います。持ち患者さんはいないですし、オンオフもはっきりしています。都内であればバイトの求人もたくさん出ています。
麻酔科以外では、専門医の取りやすい皮膚科などのマイナー科も、結婚生活と両立しやすいのではないでしょうか。
女性医師にとって結婚が難しい科を挙げるとしたら、外科ですね。医局に入らなければならず、かなり忙しいこともあり理解のある旦那さんでないと難しいかもしれません。
子どもに自由な選択肢を与えたいから、専門家のアドバイスを受けて着実な資産形成を
――松尾先生は子育て中ということで、教育費も含め、お金の計画はどのようにご夫婦で話し合われていますか?
松尾:子どもがどういう進路に進むかによっても今後変わってくると思いますが、都内に住んでいると私立の学校も多いですし、お金の不安は大きいですね。そこで先月保険の見直しをしたのですが、2人ともあまり貯金ができないタイプなので、これを機に強制的に積み立てされていくような海外積立保険を選びました。それと、5年ほど前から不動産投資をはじめ、詳しい方にアドバイスいただきながら節税対策を行っている形ですね。
――今後、どのような働き方をしていきたいと考えていますか?
松尾:子どもはもう一人ほしいと思っています。2人目が3歳くらいになったら、再び今のような働き方で仕事復帰をして、その後は少しずつ仕事を増やしていきたいですね。
【取材協力】
松尾麻生先生
浜松医科大学卒業後、初期研修中に麻酔科医の魅力に目覚める。心臓外科医の旦那様と結婚、第1子を授かり、現在はフリーランスの麻酔科医として活躍中。