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    北海道リレーインタビュー VOL.2篠原信雄先生(北海道大学大学院 腎泌尿器外科 教授) | 勤務医ドットコム

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    北海道リレーインタビュー VOL.2篠原信雄先生(北海道大学大学院 腎泌尿器外科 教授)

    tokyoh@dmin2017

    北海道で活躍されている医師の方にインタビューを行い、ご自身の取り組まれている医療分野やキャリア、資産形成などについてお聞きする本企画。

    第二回は北海道大学大学院腎泌尿器外科教授の篠原信雄先生にお話を伺いました。医師として臨床研究の最前線に立ちながら、後進の指導も行われている篠原先生は、今の医学界や医師の働き方についてどのようにお考えなのでしょうか。

    医師は常に教育を受けたいと思っている


    ──「働き方改革」が大きな課題となっています。医師も例外ではなく年間の時間外労働960時間以内が打ち出されました

    篠原先生
    北海道では遅れていますが、ナース・プラクティショナーのような役割を担う特定看護師が育ってくると医師の役割をある程度カバーできる。チーム医療の中で医師、看護師、薬剤師、リハビリ専門職、もちろん医療クラークも入ってきますが、これらがうまく分業できるかどうかが鍵になってくると思っています。

    本当に医師がやらなければならない仕事なのか、と思うようなことを医師がやっているとことはたくさんあります。医療に不必要なことで若い先生を拘束してはなりません。無駄な時間で多いのは会議。無駄なカンファレンスをいかに減らせるか。数あるカンファレンスをいかにして集約できるか、時間を圧縮できないか、と考えています。私自身疲れますから(笑)。
    朝7時半に働き始めて夜の10時に帰る生活が続いていたら、やっぱりおかしいですよ。最近はようやく7時すぎに帰れるようになりましたが。

    とはいえ、本当に必要なものと必要ではないものをどう分けるのか、そこがポイントです。働き方改革は、マネジメント側の努力にかかっている。絶対に省けないものもあります。特に医療の安全については絶対に減らしてはならない。縛り付けてでも、みんな聞かなければならない。当然のことです。

    ──北海道の医師の過酷な勤務実態が話題になることが多いですね

    篠原先生
    北海道では札幌市内だけでなく、北海道の地方でも同じように過酷な状態になっています。地方は医師の数が少なくて大変だし、札幌のような都市部は患者が集まるので、患者数が増えすぎて非常に忙しい状況です。
    この過酷な状況を打開する方法を、私は正直言って持っていません。ただ、北海道の地方に魅力のある拠点病院を作ることを自分の目標にしています。そうすることで若い先生たちから“地域医療は面白い”という評判を得て、人を集める仕組みにしたいと思っています。やはり、病院の質というのは医師の数で決まりますから、地方の医師の数を増やす方法を考えることが第一になります。

    その方法として魅力的なのは、地方の拠点病院(釧路、帯広、旭川など)にダ・ヴィンチ(マスタースレイブ型の手術用ロボット)を入れることですね。今の泌尿器科はどこもダ・ヴィンチをメインに治療しているので、地方の病院にダ・ヴィンチがあるというのは1つの売りになります。なおかつ地方は上の医師も忙しいのでダ・ヴィンチを若手の医師にやらせることができます。

    あと、先ほど挙げた北海道の地方には人を育てることが得意な部長の方がたくさんいます。そういった地方に若手の医師を派遣し、きちんとした上司の下で働ければ、若手にとって地方勤務は大きな魅力になると思います。

    このように現状を打開するには、北海道だけでなく本州の医局出身の医師も行きたくなるような、地方病院の魅力作りを行うことが重要だと思います。他の病院だとダ・ヴィンチは上の先生しか使えないものですが、北海道だと大学を卒業して7年目くらいの若手の先生たちがやっています。ダ・ヴィンチに触れる環境が地方にあるということは、若手の先生にとっても、患者様にとっても大きな魅力になります。

    いかに各科が魅力的になるかが勝負


    ──地域の医療格差が大きな問題となっています。北海道ではより深刻と聞いていますが?

    篠原先生
    常々思うことですが、医療の機会均衡ということで、都市と地方で同じレベルの医療を求める現在のあり方は、本当に正しいのか、私には少し疑問があります。北海道では一次医療圏から二次、三次と医療圏を分けて拠点病院を置いているので、そこに医師を集約していけばいいわけですから、ある程度分業はできている。

    ただ医師の集約化をすすめると、今度は地域に医師がいなくなるという問題が出てくる。それをどうするか。結論的にはまだまだ北海道は医師が足りない、ということだと思います。

    ──医師養成校としての北大の役割は重要ですね

    篠原先生
    北大医学部は毎年100~110人の卒業生を出しますが、半数は本州に帰ってしまうんです。なぜかというと北海道に魅力がないから。

    へき地医療拠点病院という制度がありますが、北大病院が指定を受けていないことで「へき地医療に貢献していない」と思われる方もいる。ですが、大学病院の最大の貢献は医師を供給することなんです。拠点病院とされている病院は人材を受けるだけです。大学病院だけが医師を供給できる。専門医制度は19の領域に設けられていますが、例外的な総合診療を除くと18の診療科に専門医育成プログラムがある。北海道でこの18の領域に対して全ての拠点を持っているのは北大だけです。

    せっかく北海道に来た医師を卒業とともに流出させているので、いかに各科が魅力的になるかが勝負だと思っています。

    ──教育ということでは海外留学の意義は大きいですね。篠原先生のところでも積極的に奨励しているそうですが?

    篠原先生
    当然です。学生時代はいろいろなことに挑戦できるので、海外の荒波を受けてはどうかと学生に奨励していますが、海外から北大に来る学生は多いのに、北大から海外に出る学生は少し減ってきているのが少々残念です。勉強に忙しい、国試を考えると海外で時間を無駄にしたくない。今は車をもたない学生も増えているようですから、そもそも外に出るのが面倒くさいと感じているのかもしれない。

    海外留学のきっかけとしていいのは、専門研修に入って3年目ぐらいの時期に海外の学会に行くことです。演題がなくてもいい。外国の先生たちと話してみる。学界参加をきっかけに海外に行くのは無理がないと思います

    今、泌尿器科で考えているのはアジアです。インド、ネパール、タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア……そういったところに指導者の立場で行ってみるのも面白い。教えることで勉強になることは多いですから、私たち日本の医療をアジアで示す。イギリスやアメリカの若い医師は、多くがアフリカに渡ってチャレンジしていますよね。そういう医師がこの科から出てきたら褒めてやりたい(笑)。


    医師というのは不思議な生き物

    ──国立大学の若手医師の待遇を聞けば、恵まれているとは言えないように思います

    篠原先生
    30代でマンションを持つ者もいる。それぐらいの甲斐性はあるんです。もちろん上を見れば切りがない。下を見ても切りがありませんが、平均レベルは決して悪くない。昔のような無給助手は基本的にはないわけですから、仕事に見合うだけの待遇は保障されるようになってきました。医師の待遇をコントロールしているのは病院のように思われていますが──今は医局とはいわず教室といいます──われわれがある程度、教室員の待遇を保障する態勢をつくってきた、というのはあるかもしれません。

    ──医師の定年後のライフプラン。どのように過ごされる先生が多いでしょうか?

    篠原先生
    医師もみんな仕事を辞めたら「遊びたい」と考えていると思いますか? 医師というのは不思議な生き物で「遊びたい」と思っている医師はほとんどいないんですよ。医師として一生懸命働いてきました。それだけに、定年だからといってスパッとオフになってしまうのは、自分の人生を否定するようなものと考えるんですね。

    お金より使命感。社会に対して何か残したい、何か貢献したいという気持ちをみんなもっているんじゃないかな。北大泌尿器科のOBを見ているとそう思います。たしかに手術はできなくなるかもしれないけど、年を重ねて会話が上手になっているかもしれない。高齢者になれば高齢者を相手にするにはちょうどいい。給料は安いけれども、嘱託や顧問として残り、病院のために貢献したいという先輩はいっぱいいます。医師というのは不思議な生き物だと思いますね。

    ──医療業界は定年後の医師でも七十歳まで働けるとおっしゃっていましたよね

    篠原先生
    問題なのは働く内容をどうするかですね。自分自身でクオリティコントロールをしながら、何歳になっても勉強していく姿勢が必要だと思います。ただ技術的には若い頃に比べれば落ちていくので、そこをどうカバーするかですね。ベテランには経験というファクターがあるので、そこを上手くいかせるようなキャリアアップをして、仕事ができればいいなと思います。また、ベテランは自分の経験だけで仕事をするのではなく、若手の仕事ぶりから学ぶという姿勢も必要だと思います。

    ──先生ご自身は定年後をどのようにお考えですか?

    篠原先生
    まだ全くわかりません(笑)。うちは夫婦2人だし、残してもしょうがないので、お金をためているわけではない。どちらかというとアフリカとかアジアの恵まれまれない子どもたちに寄付したり、あるいは北大医学部が百周年を迎えますから、大学に寄付したりしています。ある程度の生活ができ、病気になっても困らないと思うだけの年金と保険があれば、それでいいじゃないですか。

    この間、税理士と話したときに「税金ならいくらでも払ってやる。国のためだ」と言ったら、「先生、節税というのは国民の義務です」と叱られました。その分ほかに寄付できるからね(笑)。

    税理士に見てもらうと穴が見える

    ──先生も税理士に頼まれているんですね。教授になってからでしょうか?

    篠原先生
    教授になって4年目からだったかな……。国立大学の教授としての活動であっても、必要経費として認められるものがあるんですね。例えば、教授としての付き合いで若手医師をつれて懇親会を開いた。それは接待費として認められるんです。そういうことを聞いて、ある人から紹介してもらいました。

    それから税理士に全てチェックしてもらっていますが、「先生、領収書が全てです。どんなものでもいいから、領収書を持ってきてください」と言われています。もちろん、開業医の先生たちはみんなやっていることですが、勤務医は雑所得があまりないんですよ。節税対策に使う時間があったら、もっと眠らせてくれ、というのが勤務医の普通の感覚だと思いますが、税金に対する感覚が北海道の医師は特に足りない気がしますね。関東、関西の医師はすごく敏感です。

    ──忙しくて税金対策まで手が回らないと言う先生は多いですね

    篠原先生
    そんな時間があったら、寝ていますからね(笑)。ですが、出張などでほかの病院に行っている人は、2カ所以上から所得を得ることになりますから、申告をしなければならないわけです。ほとんどの医師は自分で計算している。そこで、一回でも税理士に見てもらうと「接待費で落とせるのに、先生が領収書を持っていないので落とせません」などと、自分の穴というか、問題点が分かるわけです。学会の参加費や交通費も必要経費なんですが、考えなしに自費で参加し、自前で払ってきた。振り返ると「何をやってきたんだ」となりますよね(笑)。

    節税というと、何かずるいことをするのではないか、という印象を持っている先生も多いんですが、「節税」という言葉ではなく「あなたの納税は適正ですか」というメッセージならあっても良いかもしれない。本当に納税が適正なのか、払いすぎていないかを明確にする。余ったら、それを資産にするかどうか、それはその人の生き方です。

    ──税金について、または資産形成について、学べる機会があればいかがでしょうか?

    篠原先生
    地方にいる人間というのは、なかなかそういうことを聞く機会がありませんね。私立大学はわかりませんが、国立大学では特に教えることはしていません。知らないとそれが当たり前だと思ってしまう。開業する段になって始めてわかるという状況は望ましいものではありませんね。将来開業を考えている医師であれば、しっかりと資産形成について考えておいた方がいいでしょう。私自身はどうかと聞かれた場合、「興味ない」と答えますが(笑)。

    さっきも言いましたが、資産形成をやっている時間があれば、寝るか、論文を書く時間に充てたいんです。周りに資産を蓄えている人もいますが、私にはそういった欲求がないですね。日々、忙しいとお金を稼いでいても使う暇がないんです。ただ、海外出張するときくらいはビジネスクラスに乗りたいといった希望はありますが。

    今はありがたくもらっているもののなかで生活する程度で十分です。というのも、私には子どもがいないので、それが無欲の原因かもしれません。

    ──最後に不動産の資産形成についてご意見がありましたらお願いします

    篠原先生
    空いた時間で資産形成について考えるのはいいかもしれませんが、私自身は人に推奨する気もないし、やったこともないので、ダメだとは言いませんが、それをメインにしてしまうのはよくないと思います。医師は医療技術を磨くのが先ですから。

    私は持ち家を持っていなくて未だに賃貸なので、いつでも立ち去れる状態です。今抱えている患者様に対しての責任もありますので、札幌から去りづらいのはあります。ただ、必要とされるのであれば、札幌以外の土地で働くのもありだとは思います。

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