フリーランス医師にとって、健康保険をどうするか? の問題は避けて通れません。高所得といわれている医師ですが、会社や病院を辞めるとこれまで勤務先が半額負担してくれていた社会保険料が全額負担になるため、しっかり考える必要があります。実は、健康保険には退職後も加入し続けられる「任意継続」という制度があることをご存知でしょうか?
今回は、勤務医を辞めてフリーランス医師になることを考えている方に向けて、健康保険任意継続制度の具体的な内容や、メリット、注意点などを解説します。
知らないと損する?「健康保険任意継続制度」とは
国民皆保険制度が根付いている日本において、勤務先の健康保険に加入していない人は、何らかの健康保険や共済に加入する権利と義務があります。ですから、退職する、またはフリーランス医師となる場合は、国民健康保険や医師国保に加入する方も多いと思います。
しかし、退職後の健康保険にはもうひとつの選択肢があることをご存知でしょうか? それが「健康保険任意継続制度」です。健康保険任意継続制度とは、退職したことで健康保険の加入資格を喪失した場合でも、一定の条件を満たすことにより、これまでの勤務先の健康保険に自己で加入し続けることができる制度です。
よって、フリーランス医師が加入できる保険の種類は以下の3つとなります。
①国民健康保険
個人事業主やフリーランスなど、自営業者が加入する医療保険です。医師国保、任意継続に加入できない場合でも国民健康保険には加入することができます。前年の所得に応じて保険料が決定します。
②医師国保(医師国民健康保険組合)
各都道府県の医師会が運営する保険制度です。都道府県により制度は異なりますが、多くの場合、医師会に所属する医師(従業員が5人未満の個人事業所の事業主)と家族、事業所の従業員が加入の対象となります。年収に関わらず、一律に保険料が決まっています。
③任意継続(勤務医を退職した会社の健康保険の継続)
勤務医を辞めて開業医やフリーランス医師となった場合でも、一定の条件を満たせば退職後に任意継続を選択加入することができます。退職時の給与額により、保険料が決定します。医師会の健康保険組合に加入している場合、多くの組合では任意継続制度がありますが、医師国民健康保険組合には任意継続制度がないため、注意が必要です。
※参考:東京都医師国民健康保険組合HP
健康保険任意継続制度を利用するメリットは?
任意継続には以下のようなメリットがあります。
①保険料が国民健康保険より安くなる場合がある
国民健康保険の保険料は前年の所得に応じて決定されるため、一般的に所得水準が低い場合に保険料が安くなることがあります。一方で、任意継続の保険料は退職時の標準報酬月額に基づいて決定されます。ただし、標準報酬月額には上限があるため、高所得者ほど任意継続を選んだ方が有利になる可能性が高いといえます。
保険料も原則2年間変わらず、さらに任意継続では世帯主のみが保険料を支払い、扶養家族分の保険料は発生しません。扶養家族が多いほど、保険料を安く抑えることができます。
②保険未加入の状態を回避できる
退職や離職などで本来の健康保険から外れてしまった場合、健康保険の切り替えをしないと保険に未加入の状態になってしまい、病気やケガの医療費が全額自己負担となります。任意継続制度を利用すると健康保険に加入し続けることができるので未加入の期間をなくすことができ、健康に関するさまざまなリスク回避にも繋がります。
③健診や福利厚生など、健康保険組合の各種サービスが利用できる
任意継続をすると、健康保険としての機能だけでなく、加入していた健康保険組合の福利厚生も引き続き利用することが可能です。保険組合によって受けられる福利厚生の内容は異なりますが、健康診断・人間ドックや費用補助、施設の優待サービスを受けられることもあります。
健康保険任意継続制度継続制度を利用するときの注意点
メリットの多い健康保険任意継続制度ですが、加入する際には押さえておくべき注意点があります。ここでは、全国健康保険協会(協会けんぽ)の場合を例に解説します。
出典:全国健康保険協会HP
①保険料が全額自己負担になる
勤務医の健康保険料は加入者(医療法人などの事業者)と折半しているので、被保険者の負担は2分の1で済みますが、任意継続の場合は原則として保険料が全額負担になります。協会けんぽの場合は退職時の標準報酬月額に応じて保険料額が定められます。ただし保険料額には上限があり、退職時の標準報酬月額が30万円を超えていた場合、標準報酬月額が30万円で計算します。そのため、これまでのご自身の収入と照らし合わせて保険料が安くなるか・高くなるかを確認したうえで決めることが重要です。
②加入するための条件がある
任意継続に加入するためには、定められた条件を満たす必要があります。
・(例)資格喪失日の前日(退職日)までに継続して2か月以上の被保険者期間があること。
・(例)資格喪失日(退職日の翌日)から20日(20日目が土日・祝日の場合は翌営業日)以内に「任意継続被保険者資格取得申出書」を提出すること。
(※各条件は各保険組合によって異なります。詳しくはご自身が加入している健康保険組合のHPや窓口で確認してください)
申請書を郵送する場合、20日以内というのは消印の日付ではなく必着日のことを指すことが多いようです。その場合、申請期限後に届いた申請書は原則無効になりますので注意が必要です。
③加入できる期間には上限がある
多くの健康保険組合では、任意継続被保険者として加入できる期間は2年間となっています。その後は国民健康保険や医師国保など、他の健康保険に加入する必要があります。
まとめ
「健康保険任意継続制度」について、制度自体を知らなかったという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
実際に、勤務医からフリーランスの麻酔科医になったA医師は、「任意継続制度を知らなかったために保険料を多く支払うことになり、損をしてしまった……」と後悔しているそうです。今のところ退職やフリーランス医師になる予定がない方も、知識として知っておいて損はないでしょう。
任意継続を検討する際は、メリットや注意点などを理解して判断することが重要です。具体的な比較やシミュレーションについては、勤務先が加入しているの健康保険組合などに相談することができるので、気になる方は一度問い合わせてみることをおすすめします。