医師が学会に参加するときは、参加費、会場までの交通費、日をまたぐなら宿泊費、食事代と、種々の費用がかかります。
それらを経費に計上できれば節税効果が期待できますね。
しかし、どこまでの範囲が経費にできるのか、「準備のために購入した医学書代も落とせるのか?」、「宿泊費は?」「ついでに観光した場合は?」と、さじ加減に悩んでしまうことも多いかと思います。
今回はそうした経費にできるもの・できないものの考え方をご紹介します。
経費にできるか否かは、クリニックの業務遂行上必要かどうか
何らかの支出があったとき、どこまでの範囲ならクリニックの経費として認められるのかというと、それが業務に必要かどうかで判断が分かれます。
クリニックの仕事に必要な分であれば経費にでき、プライベートな支出であれば経費にはできないのが原則です。
例えば医師同士でゴルフに行った場合も、情報交換や患者の紹介等、売上に貢献したことが説明できれば交際費になります。
「学会の参加」や「医学書の購入代」は、業務に必要な知識を得て診療に役立てるものとして、経費に認められます。新幹線代やホテル代も、通常その出張に必要な分であれば、経費とすることが可能です。
学会準備のために購入した図書費も同様です。経費にしたいものは、それが業務に必要であることを証明できるように、明細や領収証を必ず取っておくようにし、説明するための補足的な情報をメモしておきましょう。
経費としてみとめられるかは以下の2つがポイント
・業務に必要かどうか
・領収書があるかどうか
医師が観光旅行をあわせていった場合~仕事とプライベートが混在していてはダメか?
では、医師の学会参加の出張にあわせて観光旅行をした場合などのように、混在しているはどうなるか。
結論をいうと、出張分は経費になるけれど、旅行分は経費になりません。
①時間や場所が混在しているケース
ここでのポイントは、よく支払った全額が経費になるかどうかという観点で考えてしまいがちなのですが、何%までが経費になり、それ以外は経費にならないなど、割合で経費が認められる場合があるということです。
学会参加のための出張なので、往復の旅費と期間中の宿泊費は経費になります。それに対し開催場所から観光地までのタクシー代や、観光のために泊数を延ばした宿泊費は認められません。
②参加メンバーが混在しているケース
家族を同伴した場合も同じで、家族分の旅費や宿泊費は経費にはなりません。
しかし、同伴者の分が経費として認められるケースもあります。例えば出張する人物が身体障碍者で補佐を必要としているから、もしくは海外への出張に通訳を連れていくからといった、出張の目的を遂行するために必要な人の分であれば経費に算入することが可能です。
出張分と旅行分の支出をすべて目的別に分けるのはなかなかに手間がかかります。そんなときには期間の比率等により按分して経費計上するという方法もあります。その場合は、比率を算定した根拠を示せるように残しておきましょう。
支出したものが全額経費か全額経費にならないかではなく、業務と業務以外の比率で経費計上も可。客観的に説明できるようにすることが重要
医師の学会参加等の旅費はどのように精算するか?~実費精算か定額支給か~
さて、手間の話が出たところで少し実務的なところに触れておきます。出張費用の精算には、どこまで厳密にやるか、どこまで事務コストの軽減を図るかという問題があります。
厳密に精算するのは望ましいけど事務負担大
上記のように、出張にかかった費用のうち私用分を分けて、経費になった分を出張した人物に支給し、旅費交通費、福利厚生費、交際費等の目的別に仕訳を計上するという実費精算は、より厳密な会計のためには有効です。
しかし、医院の規模や出張の頻度によっては、事務作業の負担が大きくなってしまう場合があります。
旅費規程をつくることも有効
勤務医を雇用する医療法人では、学会等の出張があるときには仮払金を出して事後精算するか、立て替えた分を後から支払うことになるでしょう。
その際、出張中に支払ったすべての領収書をそろえ、領収書が発行されないものはメモを取り、もしくは経理担当者が金額を調べるといった手間をかけるのは大変です。
そういった事態が懸念されるのであれば、旅費規程を定め、出張手当という形で定額を支給するのもよいかもしれません。
この場合、一般的な相場内であれば、仮に実際に支払った額と支払われた手当との間に差があっても課税されないというメリットもあります。
旅費の精算は、以下の2つの方法
① 厳密に支払った額で精算する方法
② 旅費規程を定め定額を支給する方法
(ただし、一般的な出張における相場の範囲内)
勤務医師が学会等に自分の負担で行った場合は?
勤務医を雇用する医療法人では、学会等の出張があるときに医療法人の規程によって経費として法人側が負担するものが明確に線引きされている関係上、費用を自分で払う場合もあります。この場合、「経費にならないの?」という質問をよく受けます。
事業主でないので仮に確定申告をしているからといって、もちろん経費というのはありません。但し、特定支出控除というものがあります。
勤務医がつかえる控除―特定支出控除
給与所得者が特定のものに対して支出した金額が一定以上になった場合、勤務医個人の所得税の負担を軽減するのが給与所得者の特定支出控除という制度です。
対象となるのは、1通勤費、2職務上の旅費、3転居費、4研修費、5資格取得費、6帰宅旅費、7勤務必要経費(図書費・衣服費・交際費等)の7つの支出です。
学会の参加費用にかかわってくるのは、2職務上の旅費、4研修費、7勤務必要経費あたりでしょう。
これらに該当する支出が、当該給与所得者のその年の給与所得控除額の半額を超えた場合、その超えた分を所得税の課税対象となる所得額から差し引くことができるのです。
大雑把にいうと、収入が300万の人であれば年間49万円、500万の人であれば年間72万円を超えて業務のための支出をしたときに対象となります。(令和4年8月時点。ただし医療法人側が業務に必要だと証明したものに限られ、また7勤務必要経費は上限65万円といった制限があります。)
(注意!)
国税庁HP~学会参加費用の特定支出控除の適用可否~回答要旨より引用
給与所得者の特定支出控除の対象となるのは、いわゆる通勤費、職務上の旅費、転居費、研修費、資格取得費、帰宅旅費及び勤務必要経費(図書費、衣服費、交際費等)とされています。ここでいう「研修費」について、研修とは、通常第三者が自己の有する技術又は知識を不特定多数の者に習得させることを目的として開設した講座等において、その第三者から訓練又は講習等を受けることによりその技術又は知識を習得するといった受動的立場での研修をいうものと解されます。
したがって、自身の研究発表のために学会に参加し、旅費及び宿泊費を自己負担しても、「研修費」として特定支出控除の対象とはなりません。
まとめ
経費になるかどうかは業務上の必要性で判断します。医学書や学会参加にかかった費用は、クリニックの業務に必要な出費であることから、原則全額を経費に計上することができます。
ただし、学会参加の費用については、学会出張にあわせて観光旅行をした場合や、家族を同伴していった場合、その分の費用は経費にはなりません。
また、出張中にかかった諸費用のすべてを実費精算するのが困難なときは、旅費規程を定めて定額支給するという方法があります。
個人事業主ではない勤務医については、出張費用等の自己負担額が大きい場合、給与所得者の特定支出控除の制度を活用すれば、所得税の節税につながる可能性があります。但し、学会参加費は、自分自身の研究発表のためのものは特定支出控除とならないため注意が必要です。
▼著者
疋田税理士公認会計士事務所
税理士・公認会計士 疋田 通丈
税理士として、一般事業会社だけでなく、クリニック、NPO、社会福祉法人など幅広く税務・会計の支援を行うだけでなく、公認会計士として、医療法人、公益法人、学校法人の会計監査に携わっている。