一年間の所得に対してかかる所得税を申告・納付するのが、いわゆる確定申告です。
給与所得がある場合、不動産所得がある場合、一時所得がある場合、生命保険控除や住宅ローン控除がある場合など、個人個人によってそのケースは様々ですね。
確定申告の手引書を見ても自分がどこに該当するのかわかりづらく、手続きが煩雑で、忙しいドクターとしては家族や知人に代理でお願いしたいと考えるのも無理はありません。実際そうしているというのも珍しい話ではないでしょう。
しかし、そもそも確定申告を医師の家族などがするというのは合法なのでしょうか、それとも違法になるのでしょうか。
医師で確定申告が必要になる場合とは
所得税は、個人の一年間の所得に対してかかる税金です。毎年1月1日から12月31日までのすべての所得から、所得控除を差し引いて、残りの額から税額を算出します。
仕事を辞めて無収入であれば確定申告は必要ありませんが、給与以外にもマンションの家賃収入や生命保険の満期返戻金等があれば所得として数えられるので注意が必要です。
しかし、所得のあるすべての人が確定申告をしているかというと、そうではありません。
一年を通じて会社や個人事業主に雇用されている人、あるいは年の途中に就職して年末まで勤務している人は年末調整の対象となり、給与以外の所得がなければそこで所得税の精算が済んでしまうのが大多数だからです。
裏を返せば、副業を始めて一定以上の収益が上がった場合や、勤めていた病院を辞めて個人事業主として独立開業した場合は確定申告が必要になります。医院の収益は院長個人の事業所得として申告し、所得税を納付することになります。
(その他、確定申告が必要な例)
・給与所得が2,000万円を超えている場合
・本業のほかに20万円を超える収入がある場合
・2か所以上から給与を受けていて一定の収入がある場合
医師の場合、医療法人を経営していれば給与所得が2,000万円を超えている方も多く、経営していない病院勤めの場合には、2か所以上から給与を受けているケースが多いため、確定申告をしなければならないドクターは多いように思います。
忙しいドクターが家族に確定申告を代理してもらうのは良い?
「忙しいドクターが家族に確定申告を代理してもらう」のは、良いに決まっている、そんな声が聞こえてきそうです。実は、本人以外が確定申告を行う場合、それを請け負えるのは税理士だけです。
これは税理士法によって、税理士または税理士法人以外のものが税理士業務を行うことが禁じられているからです。
税理士業務というのは以下のように規定されています。
① 税務代理
② 税務書類の作成
③ 税務相談
確定申告の書類を作成するのは、②税務書類の作成に該当します。
税理士又は税理士法人でない者は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行ってはならない。(税理士法第52条)
つまり、家族であれ、信頼できる友人であれ、税理士の資格を持たないものが他者の確定申告を代理することはできません。
この規定に違反した場合、2年以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられる場合があります。この罰則は確定申告を依頼した側ではなく、請け負った家族や知人に適用されます。
家族間のことで金銭の授受はないからいいだろう、お互いに納得しての話だからいいだろうとはなりません。
「お金をもらっていないから良い」はあてはまらない
租税の税務書類の作成代理は税理士の独占業務の一つであり、それは報酬を受け取っているか、いないかを問いません。
税理士法の税理士業務について、以下のような見解が示されています。
税理士法(以下「法」という。)第2条に規定する「税理士業務」とは、同条第1項各号に掲げる事務(電子情報処理組織を使用して行う事務を含む。)を行うことを業とする場合の当該事務をいうものとする。
この場合において、「業とする」とは、当該事務を反復継続して行い、又は反復継続して行う意思をもって行うことをいい、必ずしも有償であることを要しないものとし、国税又は地方税に関する行政事務に従事する者がその行政事務を遂行するために必要な限度において当該事務を行う場合には、これに該当しないものとする。(税理士法基本通達2-1)
つまり、税理士業務は有償であれ無償であれ、税理士の独占業務とするということです。こういった業務のことを無償独占業務といいます。
(参考)
無償独占業務に対して、有償独占業務もあります。こちらは有償で業として行うには資格が必要だけれど、無償で行う分にはよいとされる業務です。公認会計士、行政書士、社会保険労務士等が該当します。
無償独占業務には、税理士以外にも弁護士、医師、司法書士などが挙げられます。例えば医師免許を持たないものが医療行為を行った場合、人命にかかわるため、無償だからやってもよいということにはなりませんね。
同様に、税理士業務も家族や知人が代理するのは違法となります。
家族が「代理で提出」ないし「代筆」なら認められる
家族が確定申告に全く手を貸せないかというと、そうではありません。
税務書類の「作成」というのは、税理士が自分の判断に基づいて書類を作成することであり、これは無資格者がやってはいけないことです。
しかし、納税者が作成した申告書を家族が代理で提出することは認められています。
税務署で尋ねられたときは「確定申告を代理でしている」とは言わず、あくまで「納税者の作成した書類を代理で提出しにきた」と説明するとよいでしょう。
また、家族が代理で提出する場合、税務署で納税者の本人確認書類が求められることがあります。(代理人ではなく納税者の分です。)
下記の書類を持参するようにしましょう。
①マイナンバーカード
②番号確認書類*1+身元確認書類*2
*1通知カード・マイナンバーの記載された住民票
*2運転免許証、公的医療保険の被保険者証、パスポート等
代理提出のほかに、確定申告書を納税者の意思に基づいた内容で代筆することも認められています。
この場合、大切なのは納税者本人の判断に従って行うことで、代筆者の意志や判断が加わってはいけません。確定申告は納税者本人が行うという原則を守ることになります。
医師が確定申告を家族に代理でしてもらうのは合法?違法?~まとめ~
医師が確定申告を家族に代理でしてもらうのは、実は違法ということになります。
税務書類の作成を代理できるのは税理士だけのため、委託できるメリットとかかるコストを勘案することになるでしょう。
しかし、家族でも確定申告書の代理提出や代筆は認められています。
納税者本人が書類を作成するのが原則です。家族の手を借りるときは、法に認められた範囲でお願いして負担軽減へとつなげることになりますね。
▼著者
疋田税理士公認会計士事務所
税理士・公認会計士 疋田 通丈
税理士として、一般事業会社だけでなく、クリニック、NPO、社会福祉法人など幅広く税務・会計の支援を行うだけでなく、公認会計士として、医療法人、公益法人、学校法人の会計監査に携わっている。