医師にとって「専門医」という概念は、切っても切れない関係にありますよね。
そんな「専門医」ですが、近年は国の介入を受けて新専門医が始まっております。おそらくそろそろ新しい制度で専門医を取得した先生方が、チラホラいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は、そんな「専門医」の必要性を、時代の変化に合わせて、キャリア別にどういう選択をしていくのが良いのか、検討してみたいと思います。
変化する時代と「専門医」の価値
これからの日本では、人口減少時代を迎えつつあり、人間がより集まって生きる事になります。
県単位であれば、基本的には東京近郊に人は集まります。人口動態的には、九州なら福岡、関西なら大阪、東海なら名古屋、北海道なら札幌。ここに人が集まる事になっています。逆に中途半端な立ち位置である地方都市、例えば仙台、神戸あたりは人口減少がここからグッと加速すると予測されています。
こういった現象は、もはや人口現象社会における自然現象であり、日本よりも急激な人口減少が進行するおとなり韓国では「とにかくインソウルしなさい」という言葉があるように、首都であるソウルに行かなければ将来がない、という意味で使われるようです。結果的にソウルの家賃が高騰し、とても住める状態ではない若者が多いようですが、それでもソウルにいないとあらゆるチャンスが失われてしまうというわけで、かじりついてでもソウルにいなければいけないのです。
これから日本でも、おそらく同じような動きが起こるでしょう。特に全体を見れば関西圏の落ち込みが強く、高度経済成長の時と比較すると東京との差は圧倒的です。地方都市でも健闘しているのは、福岡と名古屋ですね。
話を戻します。このように、県別でも大きな動きがありながら、地方都市内でも小さな人口移動があります。
例えば政令指定都市を持つ地方都市では、県内の他の地方からの人口流入がかなりあります。それ以上に上記のような都市部へ、県単位での大きな移動があって人口流出もあるためプラスマイナスでマイナスではあるものの、県内の人口を政令指定都市が吸い上げている形になっています。
田舎から地方都市へ、地方都市から都会へ。この流れは日本だけではない世界の大きなトレンドであり、止める事はできないでしょう。
ここに加えて、人口動態が大きく変化します。
高齢者が増え、子供がグッと減り、働く女性が増えました。リモートワークも浸透し、最近ではオンライン診療という診療形態も出てきています。
あらゆる方向から、大きな変化の波が同時に押し寄せてきているのが、現代社会です。
1つの波でさえ乗りこなすのが大変だとは思いますが、それが同時に起こっているわけですから、この変化に適応して生き残るのは大変な事です。
そんな中、日本の医師にとっての「専門医」という、言ってしまえば古臭い、レガシーな価値は、これからも保たれるのでしょうか?
専門医があるというだけで、医師として価値があると判断されるのでしょうか?これは難しいところです。
勤務医を続けるなら「専門医」は必要
僕個人の意見としては、勤務医を続けるならば専門医は必要です。
専門医は、言ってしまえば就活における学歴みたいなものです。
新卒の学生を雇用する側は、優秀な学生を採用したいと思っています。ここでの「人材の優秀さ」は非常に曖昧な概念で、これらを因数分解した時いくつか要素がありますが、唯一客観的に見る事ができるのが「学歴」です。他にもTOEICで英語力を、などの間接指標はあるものの、圧倒的なのが学歴です。
逆に言えば、本来なら測定したいトーク力、人柄、メンタリティ、レジリエンスなどの能力値は、客観的に測定する事が極めて難しいため、わかりやすい学歴などでフィルターをかけるのは、ある意味採用する側からすれば合理的なシステムです。
医師における専門医も、これと同じ事が言えます。
医師の価値として、当然「スタッフと仲良くやれるか」とか「患者さんから好かれるか」とか「経営のバランスも考えてやってくれるか」とか「挨拶や社会常識がどれくらい身についているか」とか、色々気になる要素はあります。
しかしながら、これらは100%正確に測定することができません。むしろ「専門医の有無」と「経歴」くらいしか、客観的な指標として使う事ができません。
新卒で学歴フィルターをかけるように、医師の雇用もとりあえずは専門医の有無でフィルターをかける、これは医師を雇用する側からすれば合理的なシステムです。
ですので、医師が勤務医を続ける、誰かに雇われる場合は「基本的には専門医は必要」だと僕は思います。
開業医は「専門医」が必要なのか?
例えばよく耳にするのは「将来の開業を見据えて専門医はとっておきたい」みたいな発言ですが、これに関しては正直なところ、微妙かと思います。
事前に申し上げましたように、大きな変化の波が複数同時に押し寄せている世の中で、レガシーな「専門医」が、顧客にとって価値がある指標かというと、正直なところ微妙だと思います。
それよりも、例えば平日夜や土日もクリニックが空いているとか、LINEのメッセージで対応してくれるとか、予約が取りやすいとか、待ち時間がないとか、そういう別の価値に重きをおく顧客が多いでしょう。
これが最も顕著に現れる場所は、インターネット上の口コミです。
極端なことを言えば、専門医の有無よりも、インターネット上での口コミが良いクリニックの方が、絶対に患者さんは来ます。
そういう意味では、どちらかと言えば開業医の方が専門医は不要で、医療サービスをブラッシュアップしていき、顧客に与える価値を高めていく方が、効率的だとは思います。
新時代における、医師にとっての専門医
人口減少、人口集中、総合病院の統廃合。これは大きなトレンドとして避けられません。
だとすれば、道は2つです。
勤務医をやり続けるならば統廃合した総合病院でのポストを、他の医師と奪い合わなければなりません。専門性に磨きをかけ続けるのが、生き残る道でしょう。
開業医を続けるならサービスとしての価値を高めて、インターネット上での良い口コミを集めていくしかありません。専門性を高めるというよりは、1つのサービス業として、どこまでサービスの価値を高められるか、経営能力が必要になってくるでしょう。
時代の流れを受けて、医師にとっての「専門医」の価値と、それに対する対応も、変えていけなければ、この荒波を生き残っていくのは難しいのかもしれません。
▼著者
大石龍之介
株式会社ブルーストレージ代表取締役。医師としてクリニックに勤務しながら、不動産投資家としても活動している。