医師を目指す皆さん、あるいは若手医師の方々にとって、将来の収入は大きな関心事ではないでしょうか。本記事では、20代医師の年収の実態から、キャリアステージごとの収入変化、さらには長期的なキャリアプランニングまで、包括的に解説します。現実的な収入の見通しと、年収アップの戦略を知ることで、自身のキャリアパスを描く一助となれば幸いです。
20代医師の年収の実態
医学部を卒業し、晴れて医師になった20代。その年収はどのような推移を辿るのでしょうか。研修医時代の比較的低い収入から、専門医資格取得後の急激な上昇まで、段階的に見ていきます。20代の医師の収入は、経験や勤務先によって大きく異なりますが、全体的な傾向を把握することで、自身のキャリアプランニングに役立てることができるでしょう。
参考:賃金構造基本統計調査 令和元年賃金構造基本統計調査 一般労働者 職種 2 職種・性、年齢階級別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額
研修医(1-2年目)の平均年収
医師としてのキャリアは、2年間の初期研修から始まります。この期間の年収は、他の職種と比べて決して高くありません。初期研修医の平均年収は、おおよそ400万円から500万円の範囲内です。これは、医療機関や地域によって多少の差があります。
初期研修中は、基本給に加えて当直手当や時間外勤務手当が付くことがあります。ただし、この時期は学びの期間であり、収入よりも医療技術の習得や経験を積むことに重点が置かれます。多くの研修医は、将来の高収入を見据えて、この期間を乗り越えていきます。
また、研修医の給与は、医師不足地域では若干高めに設定されていることがあります。地方の病院では、都市部よりも10%程度高い給与を提示するケースも見られます。これは、地方での勤務を促進するための一つの施策と言えるでしょう。
専攻医(3-5年目)の平均年収
初期研修を終えると、専攻医(後期研修医) として、より専門的な医療技術を学びます。この時期の年収は、初期研修医時代と比べて上昇し、平均で600万円から800万円程度になります。
専攻医の給与は、勤務先や診療科によって大きく異なります。例えば、大学病院では比較的低めに設定されていることが多いですが、市中病院では高めの傾向があります。また、外科系や救急など、労働時間の長い診療科では、当直や時間外勤務の手当が加算され、結果的に年収が高くなることがあります。
この時期は、自身の専門性を高めながら、将来のキャリアパスを具体的に考え始める重要な段階です。給与だけでなく、学べる環境や症例の豊富さなども考慮して、勤務先を選択する医師も多いです。
20代後半の医師の平均年収
初期研修2年・専攻医3年を経過すると、専門医資格の受験が可能になります。医学部をストレートで合格し、留年・国家試験浪人なしで医師国家試験に合格した場合、最短で受験できる年齢は29歳です。ケースとして一般的とは言えませんが、仮にこの時期に資格を取得している場合、平均年収はおよそ800万円から1,200万円の範囲に達します。
また、この時期になると、勤務先や診療科による年収の差がより顕著になります。例えば、大学病院の勤務医と、市中病院の勤務医では、後者の方が高収入を得られるケースが多いです。
さらに、当直や時間外勤務の頻度、手術件数などによっても年収は変動します。特に、外科系の診療科では、手術件数に応じて収入が増える仕組みを採用している病院もあります。
一方で、この時期は仕事と私生活のバランスを考え始める医師も多く、必ずしも高収入だけを追求するわけではありません。ワークライフバランスを重視し、年収は若干低くても働きやすい環境を選ぶ医師も増えています。
年齢別・経験別の年収推移
20代の医師の年収は、年齢と経験に応じて段階的に上昇していきます。
- 初期研修1年目(24-25歳):約400万円
- 初期研修2年目(25-26歳):約450万円
- 後期研修1年目(26-27歳):約600万円
- 後期研修2年目(27-28歳):約700万円
- 後期研修3年目(28-29歳):約800万円
- 専門医取得後(29-30歳):約1,000万円以上
上記例は、ストレートで合格、または浪人・留年1年以内で研修開始した場合の推移です。(30代で臨床研修が始まることも現在はめずらしくないため、ここの年収推移は大きくなる変わる可能性がある点をご留意いただければと思います。)
診療科や勤務先、個人の能力や努力によって、この推移よりも早く年収が上昇することもあれば、逆に緩やかな上昇にとどまることもあります。また、研究活動に力を入れる場合、短期的には年収が伸び悩む可能性もありますが、長期的には高い専門性を活かして高収入を得られる可能性が高まります。
長期的キャリアプランニングの重要性
医師としてのキャリアは長期にわたるため、20代のうちから将来を見据えた長期的なキャリアプランニングを行うことが重要です。単に目先の年収だけを追求するのではなく、自身の適性や興味、ライフプランに合わせて、10年後、20年後のキャリアをイメージしながら計画を立てることが求められます。ここでは、30代、40代の医師の年収見通しや、ライフステージに合わせた働き方の選択、さらには開業のタイミングや経営の基礎知識など、長期的なキャリアプランニングに必要な要素を詳しく見ていきましょう。
30代・40代の医師の年収見通し
20代の医師が将来のキャリアを考える上で、30代、40代の年収見通しを知ることは重要です。一般的に、医師の年収は経験を積むにつれて上昇していきますが、その上昇カーブは診療科や勤務形態によって異なります。
30代医師の年収見通し
平均年収:1,200万円~2,500万円程度
<特徴>
・専門医資格取得後、年収が大きく上昇する時期
・診療科や勤務先による年収差が顕著になる
・上級医としての役割を担い始める場合もある
40代医師の年収見通し
平均年収:1,500万円~3,000万円以上
<特徴>
・多くの医師にとって年収のピークを迎える時期
・指導医の立場として、基本給以外の手当が増える
・開業医として軌道に乗り、高収入を得ている場合も多い
30代は、専門医として経験を積み、高度な医療技術を習得する時期です。多くの医師が、この時期に年収の大幅な上昇を経験します。特に、外科系の診療科では、手術件数の増加に伴い、年収が急激に上昇することがあります。また、大学病院では講師や准教授といった役職に就く可能性もあり、それに伴う役職手当が加算されます。
40代になると、多くの医師が年収のピークを迎えます。豊富な経験と高い専門性を持つ医師として、複雑な症例を担当したり、若手医師の指導を行ったりすることで、さらに年収が上昇します。また、病院の部長や副院長といった管理職に就く医師も多く、それに伴う管理職手当が加わることで、年収が大きく増加します。
ただし、これらの年収見通しは、あくまで平均的な傾向であり、個人差が大きいことに注意が必要です。
年収に影響を与える要素
以下は、年収に影響を与える可能性のある要素です。
- 診療科
外科系や特定の専門性の高い診療科では、内科系よりも高額の年収を得られる傾向があります。
- 勤務形態
開業医の場合、経営が軌道に乗れば勤務医よりも高い年収を得られる可能性がありますが、リスクも高くなります。
- 勤務先
大学病院、公立病院、市中病院で年収に差があります。また、都市部と地方でも差が出ることがあります。
- 専門性
高度な専門性や希少な技能を持つ医師は、より高い年収を得られる可能性があります。
- 研究実績
論文執筆や学会発表などの研究実績が、昇進や年収アップにつながることがあります。
- マネジメント能力
管理職として組織をまとめる能力が評価され、年収アップにつながることがあります。
長期的なキャリアプランニングを行う際は、これらの要因を考慮しつつ、自身の適性や興味、ライフプランに合わせて方向性を決めていくことが重要です。また、医療技術の進歩や社会のニーズの変化に応じて、継続的にスキルアップを図ることも、将来の高収入につながる重要な要素となります。
ライフステージに合わせた働き方の選択
医師のキャリアは長期にわたるため、各ライフステージに合わせて適切な働き方を選択することが重要です。20代のうちから、将来のライフイベントを見据えたキャリアプランニングを行うことで、仕事と私生活のバランスを取りながら、安定した収入を得ることができます。
20代後半~30代前半(キャリア確立期)
<特徴>
・専門医資格の取得
・高度な医療技術の習得
・研究活動の本格化
<働き方の選択肢>
・大学病院での研究職
・市中病院での臨床経験の蓄積
・海外留学によるスキルアップ
この時期は、自身の専門性を確立し、キャリアの基盤を作る重要な時期です。長時間労働も厭わず、積極的にスキルアップを図ることが将来の高収入につながります。
30代後半~40代前半(キャリア充実期)
<特徴>
・結婚・出産・育児
・管理職への昇進
・開業の検討
<働き方の選択肢>
・大学病院での教育職
・市中病院での管理職
・開業医としての独立
・非常勤や複数施設勤務によるワークライフバランスの調整
この時期は、仕事と私生活の両立が課題となります。育児との両立を図るため、非常勤勤務や複数施設勤務を選択する医師も増えています。また、これまでの経験を活かして開業を選択する医師も多くなります。
40代後半~50代:キャリア成熟期
<特徴>
・指導的立場の確立
・ワークライフバランスの重視
・セカンドキャリアの検討
<働き方の選択肢>
・病院の幹部職
・開業医として経営の安定化
・医療行政や医学教育への参画
・産業医や健康経営アドバイザーとしての活動
この時期は、これまでの経験を活かしつつ、より自分らしい働き方を選択する時期です。管理職として組織を率いたり、開業医として経営を安定させたりする一方で、ワークライフバランスを重視し、趣味や家族との時間を大切にする医師も増えます。
医師の年収に関する現実と誤解
医師の年収については、一般的に「高収入」というイメージが強くありますが、実際にはさまざまな要因によって大きく変動します。また、高収入の裏にある現実や、一般的に言われている「医者は儲かる」という認識と実態のギャップについても理解しておく必要があります。ここでは、医師の年収に関する現実と誤解についてご紹介します。
「割に合わない」という声の真相
医師の中には「割に合わない」という声があがることがありますが、その背景には以下の要因があります。
- 長時間・不規則な勤務
- 高いストレスと責任
- 長い教育期間と高額な教育費
- 継続的な学習の必要性
- 開業医のリスクと負担
- 社会的期待と現実のギャップ
- ワークライフバランスの難しさ
- 燃え尽き症候群のリスク
- 診療科による収入格差
- 地域による収入格差
これらの要因により、高収入であっても「割に合わない」と感じる医師がいます。ただし、これは個人の価値観や働き方によって異なり、やりがいや社会貢献度、患者からの感謝など、金銭以外の報酬を重視する医師も多くいます。
20代の医師や医学生は、これらの現実を理解した上で、高収入だけでなく、自己実現や社会貢献、ワークライフバランスなど、総合的な観点からキャリアプランを立てることが重要です。
年収1億円は現実的か
医師の年収1億円は、一部の医師には現実的ですが、医師全体の5%未満と言われており、多くの医師にとっては達成が難しい水準です。
特定の診療科(外科系、産婦人科、美容外科など)であることや、成功している開業医や大規模病院の幹部職である場合、都市部や人気エリアで勤務しているなど、条件が限られてきます。
しかし、医師を長く続けるには、金銭的豊かさだけでなく、仕事の満足度やワークライフバランスも重要です。20代の医師や医学生は、自身の価値観や人生の目標に基づいて、バランスの取れたキャリアプランを立てることも大切にすることは大切です。収入以外の価値(患者からの信頼、医療への貢献、自己実現など)も大切にしながら、長期的な満足度を追求することが望ましいでしょう。
地域や勤務先によって収入格差はあるのか
医師の年収は、勤務地域や医療機関によっても異なります。主な特徴は以下の通りです。
- 都市部と地方の収入格差
- 都市部:年収1,200万円〜2,500万円以上。競争が激しく、専門性も高い。
- 地方:年収800万円〜1,800万円程度。医師不足地域では高給の場合も。
- 勤務先による収入格差
- 大学病院:800万円〜1,500万円。研究・教育重視。
- 公立病院:1000万円〜2,000万円。安定雇用。
- 市中病院:1200万円〜2,500万円以上。成果主義傾向。
- 診療所(開業医):1,500万円〜3,000万円以上。経営次第で高収入可能。
20代医師は、これらの実態を理解し、収入だけでなく、やりがいやワークライフバランスなども考慮してキャリアプランを立てることが重要です。新しい医療技術や働き方の可能性も視野に入れ、最適なキャリアパスを探ることが求められます。
h2:まとめ
本記事では、20代医師の年収について、さまざまな角度から解説してきました。
- 研修医(1-2年目):400万円~500万円程度
- 専攻医(3-5年目):600万円~800万円程度
- 20代後半:800万円~1200万円程度
20代医師の年収は、キャリアの初期段階としては他業種と比べて高い水準にあります。しかし、その背後には長時間労働や高いストレス、継続的な学習の必要性など、さまざまな課題があることも事実です。
これらの事実を理解したうえで、ご自身に適したキャリアプランを選択していけるとよいでしょう。