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【税理士連載コラム】クリニックへのインボイス制度の影響 その2

クリニックへのインボイス制度の影響―その1」では、簡単にどのような制度なのか、クリニックの売手側としての影響について簡単に解説しました。

但し、インボイス制度のクリニックへの影響を考えた場合、収入規模が大きいところや産婦人科や眼科のように自由診療の多い科については、クリニックの中でも消費税を払っている場合があります。
自院が課税事業者の場合は、自院の経理処理にあたっても注意点すべき点があります。今回は、収入の規模別に「売手側」、「買手側」の両視点からインボイス制度の影響について解説したいと思います。

クリニックがインボイスの影響をうける具体例

一般の患者は最終消費者であり、インボイスの影響はない

クリニックの取引相手はほとんどが一般の患者さんです。
このような場合、実は、今回のインボイス制度の影響はほとんどありません。
一般の患者は、最終消費者つまり最終的に税を負担する人なのです。そのため支払っている価格が関係するだけなのです。それが非課税なのか課税なのか、消費税がいくら含まれているのかは全く関係しません。

自由診療で福利厚生に関係する健診や検診は要注意

ただ、一般の患者以外のいわゆる事業者がクリニックと関係する場合があります。それは、福利厚生費に関する場合です。特に、健康診断、人間ドック、予防接種、歯科検診などの検診などがあります。こういった健康診断や検診は、自由診療のため、いずれも消費税がかかる課税取引です。
これらの場合は、仮にクリニックが適格請求書発行事業者でなければ、買手側事業主が、仕入税額控除ができない(消費税を払ったことにならない。)ということになります。仕入税額控除ができないのならば、取引先の企業には2つの負担が生じます。

免税事業者のクリニックで健診や検診を受ける場合の2つの負担

2つの負担とは、経済的負担と事務処理の負担です。

経済的負担 支払った消費税相当額が控除できないことにより実質的負担額が増える
事務処理の負担 本来課税取引のものについて、課税区分を誤らないように処理するという事務負担

これらの2つの負担が生じることで、それならば「他のクリニックで受けます」と言われてしまうかも知れません。そのため、特に免税事業者のクリニックは、売手側として、インボイス制度にどのように対応するか決める必要があります。

クリニック毎のインボイスへの対応の仕方は?

クリニックには診療科にもよりますが免税事業者の方も多いです。そのため、制度の始まっていない現段階では、売手側適格請求書発行事業者となるかどうかを検討する必要がある点を説明しました。これは、免税事業者の売り手側としての影響になります。
ただし、冒頭でも述べましたが、インボイス制度への対応は、売手側としてだけでなく、クリニックの買手側としての影響を含めて対応を検討していく必要があります。
ここでは、少しクリニックの消費税に関わる状況毎にインボイス制度の影響について、説明します。

① 免税事業者であるクリニックの場合

(売手側)
自院が免税事業者の場合は消費税を納める必要がない事業者だということです。ただし、取引相手である患者が個人事業者や法人で、消費税を納めている場合は、相手方がインボイスを受け取れないことで納付税額が増えることになります。
患者が個人事業者や法人として想定され、インボイス制度が影響を与えるものは、すでにご説明しました①自由診療扱いのもので、②福利厚生として事業主が支払うものが考えられます。これらの取引が一定金額以上ある場合は、インボイス制度の影響があるということですから、取引の相手方から値引交渉するなど取引単価の見直しがあるかもしれません。また、会計ソフトに入力する際に、消費税区分を判定しなければならない事務負担を避けるためそのようなクリニックを極力利用しないように企業としても従業員に勧めることもあるかもしれません。
そのため、自院が免税事業者で、このような収入が一定以上ある医療機関は、取引機会を失わないために、取引単価の見直しを検討するなどの対応が必要となる場合があります。

仕入税額控除ができないことによる買手側のリスク 対応
実質的な負担額が増加するリスク 値引き交渉し、取引単価を見直す
経理処理の際、判定する事務負担が増すリスク 課税事業者となり、適格請求書発行事業者となる

(買手側)
消費税の納税事業者でないため、相手側が課税事業者かどうか、適格請求書発行事業者であるかは消費税の納税額に影響を与えません。よって、買手側としての経理処理に影響はないと考えられます。

※実際には、自由診療ということでそもそもの金額やサービスの程度も違うわけですから負担が増加しても影響としては小さいと思います。逆にいえば、どのクリニックでもそれほど単価やサービスが異ならないものについては、他のクリニックへ移ってしまう恐れがあるかもしれません。

② 課税事業者だが、簡易課税制度を採用しているクリニックの場合

(売手側)
自院が課税事業者の場合は、適格請求書発行事業者としての登録を行い、インボイスを発行することで、取引相手の事業者は、仕入税額控除を行うことができます。また、相手先の事務処理も今までと同じように課税区分の判定を行うことができるため、事務負担に与える影響もほとんどありません。
(買手側)
自院は簡易課税事業者ですので、消費税の計算に影響を与えるのは、自身の課税売上のみとなります。そのため、インボイス制度がスタートしても、仕入先が課税事業者であるかどうか、適格請求書発行事業者であるかによって、制度の変更による納付税額の増減はないことになります。そのため、このケースではインボイス制度の影響はほとんどないと言えます。

③ 課税事業者で課税売上高は5,000万円以下だが本則課税のクリニックの場合

(売手側)
自院は課税事業者ですから、この場合は②のケースと同様、適格請求書発行事業者としての登録を行うことで、取引先にデメリットを生じさせることはありません。
(買手側)
自院の消費税の納付については、取引相手が適格請求書発行事業者の登録を行っていなければ、仕入税額控除を受けることができないこととなります。この結果、インボイス制度開始前よりも税負担が増えることになります。
支払先が個人事業や零細企業である場合には、制度開始以降の取引について取引を継続するか、値引交渉をするか等の検討が必要になるかもしれません。また、取引を継続する場合には、事務処理にあたって、今までは課税取引として処理をすればよかったものについて、異なる処理・システム登録をしなければならないという事務負担が生じます。税負担及び事務負担の増加から本則課税から簡易課税への移行を検討する場合もあるかと思います。

④クリニックの課税売上が5,000万円超であるため本則課税のケース

(売手側)
自院は課税事業者ですから、この場合は②、③のケースと同様、適格請求書発行事業者としての登録を行うことで、取引先にデメリットを生じさせることはありません。
(買手側)
こちらのケースでもケース③と同様になります。
企業である場合には、制度開始以降の取引について取引を継続するか、値引交渉をするか等の検討が必要になるかもしれません。また、取引を継続する場合には、事務処理にあたって、今までは課税取引として処理をすればよかったものについて、異なる処理・システム登録をしなければならないという事務負担が生じます。

まとめ

いかがでしたでしょうか。
インボイス制度を考えたときに、多くの方とお話しをしていると、売手側としての視点か買手側の視点のいずれかの視点のみの方が多いように思います。

また、買手側としての視点を考えた場合に、インボイス制度と同じようなタイミングで対応が迫られる電子帳簿保存法による影響もあります。自院の経理に与える影響を含めて把握し、システム対応なども含め顧問税理士の方と一緒になって対応していくことが求められます。

税理士連載シリーズ


▼著者
疋田税理士公認会計士事務所
税理士・公認会計士 疋田 通丈

税理士として、一般事業会社だけでなく、クリニック、NPO、社会福祉法人など幅広く税務・会計の支援を行うだけでなく、公認会計士として、医療法人、公益法人、学校法人の会計監査に携わっている。

URL:http://www.hikidakaikei.jp

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