北海道リレーインタビュー VOL.5武田宏司先生(北海道大学大学院薬学研究院教授) | 勤務医ドットコム

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北海道リレーインタビュー VOL.5武田宏司先生(北海道大学大学院薬学研究院教授)

北海道で活躍されている医師の方にインタビューを行い、ご自身の取り組まれている医療分野やキャリア、資産・資金形成などについてお聞きする本企画。

第五回は、北海道大学大学院薬学研究院の教授であり、北海道大学病院栄養管理部長を兼務される武田宏司先生にお話を伺いました。消化器内科医として活躍しながら、薬学教育や漢方薬の研究にも熱心に取り組まれる武田先生が目指す医療や薬学教育のあり方、資産形成に対する考えなど、幅広くお話しいただきました。

臨床のニーズを取り入れ、実践的な薬学研究を目指す

──現在、先生は幅広い分野でご活躍されていますが、ご専門について教えてください


武田先生
私はもともと消化器内科の臨床医として、特に胃腸の疾患、炎症性腸疾患や機能性の消化管疾患について、その原因や治療法の研究を中心に行ってきました。胃腸の機能を高める研究をするなかで、漢方薬の効果に気づき、製薬メーカーと共同で漢方薬の作用メカニズムやその応用の研究も続けています。2010年から北大病院の栄養管理部部長を兼務していますが、消化器疾患の研究も、漢方の研究も、栄養の摂取をどう高めるかという研究に結びついています。

他に、消化器のがんや肝臓の疾患なども研究テーマにしています。まだまだ原因のわからないもの、治療方法が見つかっていないものがたくさんあるため、薬学部で学ぶ学生や大学院生、スタッフたちと一緒に研究を行っています。

──薬学研究院で指導をされる際のモットーはどのようなものでしょう

武田先生
今は薬学部といえば薬剤師育成の場ですが、北大の場合は創薬研究者を育てる機関として位置付けられてきた歴史があります。今から10年ほど前に、従来の薬学教育が大きな転換点を迎え、研究者の養成だけではなく、本格的な薬剤師教育が求められるようになりました。これによって始まったのが、薬剤師教育を4年制課程から6年制に延長して、その分臨床教育を充実させるという取り組みです。北大の薬学部もこれに合わせて定員80名のうち、30名を6年制の薬学科に振り分けるという変更を行いました。

それまで薬学部では、医師が専門的な教育を行うということはほとんどありませんでした。私の役割は消化器内科の医師として、薬学の臨床教育に医療の考え方を補完することだと考えています。また、薬学部がこれまで積み重ねてきた伝統を臨床にフィードバックし、さらに高めていくという役割もあります。臨床と研究を並行して行うことの重要性を薬学部の学生に知ってもらい、レベルアップを図ることが目標です。

以前は研究のための研究、創薬のための研究が中心でしたが、研究と臨床を近づけるために、臨床のニーズがどこにあるのかを教えることが大切だと考えています。常に臨床へのフィードバックを目指しながら研究を行うこと、それが私に課せられた役割だといえます。

漢方薬の作用機序を世界で初めて解明

──先生は漢方の研究において国際的な功績を残されています。どのような研究だったのでしょうか


武田先生
漢方薬の作用メカニズムの解明を行いました。簡単に言うと、六君子湯がグレリンという食欲増進ホルモンを増加させるという現象に関する研究で、2008年に論文化され、消化器系の学会誌では最も権威があるとされる「Gastroenterology」にも掲載されました。世界初の研究報告だったため、当時はとても注目されました。

それ以降、多くの大学の先生たちが研究を引き継いで続けてくれています。最初は動物で確かめられ、その後、臨床において人間にも同じように働くということが証明されてきています。

漢方薬の研究の難しさは、作用メカニズムが複雑なことにあります。漢方薬は多くの成分が組み合わされている上、何が含まれているのかもまだよくわかっていません。また、個人によって作用が大きく変わりますし、体内動態もわかりにくい。私が2008年に発表したのは、たった一つの漢方薬に関する研究成果でしたが、それでも画期的だったわけです。しかし、今はAIなどの技術も大きく進歩していますし、漢方薬の効果が科学的に解明できる日は必ず来ると思っています。

──最近は、漢方薬の研究に関心を持って進学される学生さんも多いのではないでしょうか
武田先生
確かに、医学部にも薬学部にも、一定の割合で漢方医学に興味を持つ学生はいます。ただ、私は漢方薬に偏ることには疑問があります。私たちが目指すゴールは患者さんを良くすることです。そのためにはやはり西洋医学的な、スタンダードな医療を十分にマスターした上で、その応用として東洋医学を取り入れるべきだと思うのです。

いつの時代にあっても医療は不完全なものです。西洋医学といえども万能ではなく、ベストな選択肢を考えたとき、東洋医学を用いた方が良いという局面もあります。患者さんを治すための選択肢の一つとして東洋医学があると考えてほしいと思います。

医師の負担が増える背景にあるもの

──医師の働き方を見直そうという動きが高まっています。医師の労働についてはどう思われますか
武田先生
私たちが医学部に入って、最初に学ぶのは患者さんファーストの姿勢です。つまり優先されるのは自分ではなく、他者だということを教え込まれるわけです。私もそれは当然だと思い、自分の生活を犠牲にしてでも患者さん第一で働いてきました。それは、多くの医師も同様だろうと思います。

残念なのは、そうした医師の使命感を利用している、つまり、医師に過剰な負担がかかっていても、それは本人が好きでやっているのだろう、医者なのだから患者のために働くのは当然だとする社会的な風潮があることです。確かに、医師は自分を犠牲にすることをよしとする人間の集まりです。しかし、社会がもう少し医師の思いや努力を理解してくれれば、私たちも救われるのにと思います。

医療は医師と患者さんの双方が通じ合って成立するものです。互いに協力し、共に努力する気持ちで歩んでいただけると、より良い医療につながるのではないかと考えています。

──今は医療や健康に関する情報が簡単に手に入るようになった反面、誤った知識による健康被害なども増えていますが、先生はどうお考えですか

武田先生
健康に関する情報やサービスを活用することは悪いことではないと思います。しかし、そうしたものを提供する側、販売する側はもう少し真摯に取り組むべきだと感じています。患者さんが自分で選んだのだから自己責任だ、というのはあまりにも乱暴です。また、売るだけ売っておいて、何か心配なことがあったら医師に相談を、というのも無責任ではないでしょうか。

患者さんや消費者はリテラシーが高い人ばかりではありません。その弱みにつけこむような情報発信や物の売り方には疑問を感じます。医療者側ももっと啓発活動に取り組むべきなのでしょうが、具体的な対策ができていないのが実情です。

知的好奇心を忘れず、常に問題意識を持ち続ける

──これまでは臨床や教育を第一に考えられてきたわけですが、今後の生き方やライフプランについて何か考えられていることはありますか
武田先生
60歳を超えましたが、どうしても自分のことは二の次になってしまい、これまでライフプランをじっくり考えることはありませんでした。今後、大学を退官する日が来たとしても、隠居などはせず、75歳くらいまでは何らかのかたちで働き続けたいと思っています。ただし、決して豪華な生活をしたいとは思っていません。家族との暮らしを支えられる程度の収入があれば十分だと考えています。

──趣味やしてみたいこと、今後挑戦したいことなどはありますか
武田先生
特別、趣味といえるようなものはありませんが、書店に行っていろいろな本や雑誌を眺め、時代のトレンドを知るのが楽しく、これを「定点観測」と呼んで20年ほど続けています。医師をしていると世の中のことに疎くなりがちですが、書店に行くと今の空気感や動きをつかむことができますし、医療以外のことにも興味が湧いてきます。

今、関心を持っているのは人の心の動きやその背景です。ここ数年、発達障がいの学生が増えていて、先生方も対応に苦慮されています。発達障がいが認知されてからまだ日が浅く、研究も始まったばかりのため、そのメカニズムを解明できるようなことができれば教育や医療の役に立つのでは、と考えたりもしています。

今まで何十年もかけて積み上げてきたものを、何かのかたちで次の世代に伝えていくことも大切だと考えています。大げさにいえば、それがこれからの私のミッションだと思っています。

より良い医療を実現するために資産形成を

──後進の医師たちに、将来への準備や心構えなど、何かアドバイスはありますか
武田先生
まず、自分に適したことは何か、よく考えることではないでしょうか。消化器内科でいえば、内視鏡の技術に優れていれば、それ一本で進むことも可能でしょう。高齢者との関わりが好きな人は、慢性期医療や高齢者医療が向いているかもしれません。地域で開業をして、非常に喜ばれているという話もよく聞きます。そこで何を選ぶかは、その人が目指す医療のあり方次第ですが、どの分野を選択しても最先端の情報や技術は常にキャッチし、取り入れる努力は必要だと思います。

今は、医療にも様々な選択肢があります。高度で高額な医療ばかりではなく、例えばジェネリック医薬品を使って費用を抑えることや、高い検査を頻繁にしなくても適切な医療を提供できることが重要なのだと思います。どのようなかたちであっても、自分の目指す医療で社会に貢献できるように、長期ビジョンを持って取り組んでほしいと考えています。

特に、自分の目指す医療を追求して開業をする場合は、若いうちからそれに向けたビジョンを持って、資金を確保することは大切だと思います。医師の給与は多い方ですし、アルバイト代も他の医療職に比べると破格といえます。勤務医をしている間に、できるだけ開業に向けた資金をためておいた方が後で困らないでしょう。また、地域の医療ニーズをよくリサーチし、その場所にふさわしい医療を提供できるかよく考え、戦略を立てるべきです。

──開業を目指す人は、なるべく多く自己資金を準備することが大切ということでしょうか

武田先生
医師の肩書があれば融資を受けやすいですし、銀行やコンサルタント会社が建物から医療設備、職員の手配まで、開業に必要なものを準備してくれるサービスもあります。そういう支援を受ければ、すぐにでも開業することが可能ですが、その後は借金の返済に追われ、休みなく働き続けることになりかねません。安易な開業は避けるべきだと思います。

自己資金を持たずほとんどを借り入れで開業してしまうと、稼ぐために無理な医療をすることになります。そういう状態が続くと医療の質が落ちていき、結果として患者さんを不幸にしてしまいます。医師というのは患者さんを救うのが使命であるのに、借金の返済や生活費の調達に追われてしまうのは残念なことだと思います。

私の父が事業を営んでいたため、経営者の苦労はわかっていましたし、経営は中途半端な気持ちではできないと感じていました。若い頃には開業しようかと考えた時期もあったのですが、私には正直、その覚悟がありませんでした。

経済的な余裕がないと、良い医療は提供できません。経営が苦しくなると、自分のポリシーを捨ててでも利潤を追求しなければならなくなるからです。また、初めから患者さんがたくさん来てくれる保証はないので、ある程度の運転資金も必要になります。資金や資産を持つことは自分のためであり、患者さんのためでもあります。心にゆとりができる程度のお金はあった方が良いと思います。

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